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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
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52(凛々花) 0と1の間

 シューズとボールを拭いて体育館に戻ったあたしと今川いまがわはやては、練習を切り上げると猛ダッシュでみんなのところに戻った。


 さかえはまだ帰ってきていなかった。外履きに履き替えた西垣にしがきが植え込みの近くにしゃがみこんで蟻の観察か何かをしていて、星賀ほしか先輩と早鈴はやすず先輩と瀬戸せとは、早鈴先輩の手作りと思しきお菓子を囲んでくつろいでいた。


「あれ? あんたたち、さっきどこ行ってたの?」


 瀬戸が不思議そうに訊いてくる。息が上がっていてちょっと応える余裕がない。そうしているうちに、早鈴先輩が控え目な笑みを浮かべて立ち上がった。


「あのね、お菓子また作ってきたの、二人もよかったら――」


 あたしと今川の顔を見た早鈴先輩は、そこで言葉を切った。瀬戸もあたしたちの様子が普通じゃないことに気付いて眉を顰める。そして、そんな二人の心中を代弁するように、星賀先輩が口を開いた。


「二人とも、思い詰めた顔をしているけれども、どうしたのかな?」


 星賀先輩はまるで役者みたいな、やけに滑らかな発音で言った。ここでこの問いをすることは、先輩の頭の中の台本に予め書かれていて、でもそれを周りには気付かれないよう無知を装っている――そんな感じ。


 たぶん、星賀先輩は最初から栄に関する事情を察していたんだろう。どころか、今さっきあたしたちが目撃した栄と沢木のやり取りも、まるっとお見通しなのかもしれない。


 そして、あたしと今川が今から何を言うつもりなのかも。


「あの……星賀先輩、ご相談があるんですけど」


「いいよ、なんでも言ってごらん」


 星賀先輩は間を空けずに応じた。話が早くて助かる。あたしは体育館の縁側に膝をついて、先輩に詰め寄った。


「午後の試合なんですけど……あたし、どうしても勝ちたいんです! でも、午前と同じままじゃ、同じような結果にしかならないっていうか……!」


 と、今川があたしを押しのけるように前に出てきた。


「午前中の試合も、結果はともかく、わたしなりに最善を尽くしたつもりです。だから……結果を変えるためには、何か午前とは違うことをしないといけない。でも、わたしはその……自分を前衛フロントスタートにするくらいしか思い付かなくて」


 あたしは戯言をぬかす今川を押し返して訴える。


「星賀先輩なら、何か考えがあるんじゃないかって思ったんです! 入部試験で、在原ありわら先輩たちと試合した時みたいに!」


 今川があたしに押し出されまいと踏ん張りながら言う。


「星賀先輩……今のままじゃ、試合ゲームに勝てません。何でもいいんです。少しでも沢木さわきあきら森脇もりわき世奈せなに対抗できるアイデアがあるなら、教えてください」


 バラバラに話すあたしと今川の双方に、星賀先輩はそのつどきちんと視線と頷きを返した。そして、あたしたちが言いたいことを言い終えると、星賀先輩は思案するように目を伏せ、静かに言った。


「君たちは、神保じんぼ先生が最初のタイムアウトで言ったことを覚えているかな?」


 唐突な問い。あたしと今川は即答できなかった。思わず押し合うのをやめてしまう。星賀先輩は目を上げて、まごついているあたしたちに笑みを向けた。


獨楢どくならから実力で1点取れ、と先生はおっしゃっていたね。そして、君たちは見事、全国レベルのチームから点を取った。第一セットは確か、2点ずつだったかな。二人合わせて4点だ」


 そうだ。あたしが2点、今川颯が2点。二人合わせて、たったの4点しか取っていない。


「二人合わせて、4点『も』取ったんだ、君たちは」


 あたしの考えを見透かしたみたいに、星賀先輩は力強い笑みを作った。


「神保先生が(ラブ)ゲームもありうると評した強豪チームから、君たちは自らの力で点を取った。その後のセットでも同様だ。午前中、計4セット取られたが、(ラブ)ゲームは一度もなかった」


 途中、星賀先輩はちらっと瀬戸を見て、続ける。


「0と1の間には、とても大きな差があるね。0はいくら積み重ねても0だが、しかし、1は違う。相手より先にという条件は付くが、バレーは1を25回積み重ねれば、セットを取れるんだ」


 星賀先輩は、瀬戸や早鈴先輩、それにいつの間にか話を聞きに戻ってきた西垣にも視線を向け、声の調子を落として、ひそひそと囁いた。


「栄さんが戻ってきたら……作戦会議だ。午前中とはひと味違う明正めいじょう学園を、彼女たちに一杯――いや、二敗でも三敗でも、たっぷり喰わせてやろうじゃないか」


 直後、星賀先輩の駄洒落がツボに入ったのか、西垣が派手に吹き出した。

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