51(世奈) 好み
ああ……やっぱり、『そういうこと』だったのね。
疑惑の裏が取れて、あたしは、しかし、取り乱すことはなかった。たぶん、心のどこかでこうなるのがわかっていたからだと思う。
あたしは体育館の壁に背中を預けて、小さく溜息をついた。
ばたばたと、角の向こうから足音が近付いてくる。あたしは逃げも隠れもしなかった。わかってる。人の気配とかそういうのに敏感なあいつは、きっと、角を曲がってあたしと出くわしても、さほど驚くことはないだろう。
「っ……世奈」
角から現れた夕里は、あたしの姿を見ると、潤んだ目を僅かに細めた。あたしは腕組みして壁に凭れたまま、夕里の右手をちらりと見る。今は――もちろん、外している。
「どう?」
「えっ?」
「腕時計の調子」
あたしが何でもない調子でそう言うと、夕里はぎこちなく微笑んだ。
「ええ感じやで。制服にも私服にも合うし。ほんまありがとな」
「どういたしまして」
ふふっ、とあたしと夕里は小さく笑い合う。そして、夕里はさり気なく目元を拭うと、あたしに訊いた。
「あれ、世奈が選んでくれたんやろ?」
「そうよ。時計にしようってとこまで決めたのはみんなでだけど、最終的にどれにするか選んだのは、あたし」
「せやろと思ったで。ウチ、あれ見て一発で気に入ってん。ほんで、ウチが一発で気に入るようなん選べるのは、世奈しかおらへんから」
夕里はそう言って、右手首を擦った。
「……世奈とウチの好みって、似とるからな」
あたしは思わず吹き出してしまった。
「ええ……そうね。あたしたち、性格もプレースタイルも全然違うのに、好きなものは被るのよね」
あたしは腕組みを解いて、体育館の壁から離れ、夕里の真正面に立つ。
「夕里。あたしも、あんたは獨楢にいるべき選手だと思ってるわ」
「……おおきに」
「午後も加減はしないわ。覚悟しておきなさい」
あたしの挑発に、夕里は少し困ったように微笑んだ。あたしは夕里が何か言うのを待っていたが、結局、夕里は「ほなな」と下を向いてあたしの横をすり抜け、去っていった。
あたしは大きく息を吸い込んで、空を見上げた。
無性に空き缶か何かを蹴り飛ばしたくなった。




