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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
188/374

46(凛々花) ポケットに入れたまま洗濯しちゃって散り散りになった紙切れ

 タイムアウトを終えて、試合が再開。スコアは0―3。あたしたちのサーブカットから。


 あたしはFL(フロントレフト)定位置コートポジションで構えて、相手の前衛――神保先生が要注意と言っていた二人を見つめる。


 レフトエースの沢木さわきあきら


 そして、セッターの森脇もりわき世奈せな


 特に世奈のほうは、傲岸不遜な態度と緩く一つ結びにした黒髪ロングが今川いまがわはやてと重なって、今やあたし的ぎゃふんと言わせたいランキング第二位に認定されていた。


 が、しかしである。非常に悔しいことに、こいつがものっ凄く強い。


 曰く、全国でも指折りの超攻撃型セッター――〝蒼白(Spiky)真珠(Spica)〟。


 さかえがスパイクも打てるセッターだとするなら、世奈はトスもできるアタッカーって感じだ。実際、さっきのツーアタックは、ラインジャッジ中に見た他の獨楢メンバーのスパイクと十分タメを張る威力だった。どころか、『恐さ』で言えば、エースである沢木彰よりも、世奈のほうが上だとさえ思える。


 あいつにだけは打たせちゃいけない……そんな風に思わせる『セッター』なんて、ホントとんでもないヤツだわ、森脇世奈。


 そうして世奈をじぃーっと睨み付けているうちに、いつの間にかサーブが打たれていた。やっば見てなかった! と焦ったけど、ボールはBR(バックライト)瀬戸せとのほうへ。


「っ、ごめん!」


 瀬戸のカットは、サーブの速さに押され、ぽーん、と高い軌道で今川のほうに流れる。今川はそれを見て二段トスの構えを取るが、


「ウチに任せて!」


 だっ、と栄がそこへ走り込んだ。今川は言われるがままに場所を譲る。


露木つゆきさん、レフト行くで!」


「オ、オーライ!」


 栄が腕を広げてあたしに開くよう指示する。あたしは十分に助走距離を取って、その場で弾みをつける。そして、


 しゅっ、


 と剣の達人が青竹を斬るみたいな鮮やかさで、栄がトスを上げる。ボールの勢い、位置、タイミング――何から何まで、正確無比ドンピシャ


 あたしは踏み込みながら、その凄さを噛み締める。


 栄のトスは、他とは違う。別に星賀ほしか先輩のトスが悪いとかそういうんじゃない。中学時代の舞美まみや、県選抜の専業セッターである小田原おだわら先輩と比べても、栄のトスは別格だ。


 まるであたしのために誂えたようなトス――こんなのもらって決められなきゃ嘘でしょ!


 だばんっ、


 と、あたしはフルスイングでボールを叩いた。直後、


「ワンタッチ!」


 ちょ、嘘でしょ!?


 あたしのスパイクはセンターの真ん中分けに捕まった。ふわりと浮いたボールを、BC(バックセンター)のチクチク頭に拾われる。高い弾道のチャンスボール。セッターの世奈は素早く腕を振り、スパイクモーションで落下点に。


 って、また打たれる(ツーアタック)!?


 反射的に、あたしは跳んだ。そして次の瞬間、『跳ばされた』んだと気付いた。


 ひゅ、


 と、空中でスパイクモーションを解除した世奈は、しなやかな身のこなしでライトへバックトスを送った。あたしをセンターへ引き付けて、その裏へのブロード。センターの真ん中分けは悠々とがら空きのライトに回り込んで、ちょん、とネットの真下にフェイントを落とす。今川颯が反応して飛びつくが、届くわけがない。


 たんっ、


 と軽い音を鳴らし、ボールはあたしの着地とほぼ同時に接地。


 スコア、0―4。


「おいっ、露木凛々花(りりか)! なに釣られてんだ、相手よく見ろ!」


 地べたに這いつくばりながらぎゃあぎゃあ喚く今川。


「うっ、うっさいわね! あんたこそ見えてたんなら声出しなさいよ!」


 言い返すと、今川はさっと目を逸らした。あっ、こいつさては!


「あんた、自分も世奈に気を取られてたくせに棚上げして……っ!?」


「う、うるさい! そもそもお前が決めてればよかっただろ!!」


「なによ!?」


「なんだよ!?」


「ちょいちょい二人とも! 今のはしゃーないから! ウチかて騙されたし! な?」


 切り替えや切り替え、と仲裁に入る栄。もちろん栄に限って世奈の動きに釣られたなんてことはないだろうに……さすが栄! 気遣いのできるいいやつ! そして今川颯はポケットに入れたまま洗濯しちゃって散り散りになった紙切れ! 超苛々する!


 ふんっ、とそっぽを向いて元の位置に戻るあたしと今川。怒りの収まらないあたしは、今川に聞こえよがしに言う。


「星賀先輩、全部あたしにください! 次はぶち抜いてやります!」


「実に頼もしい。期待しているよ、露木さん」


 涼やかに微笑む星賀先輩。あたしはぴしゃりと両頬を叩く。こびりついた散り散りの紙切れ――今川の捨て台詞が頭の中に舞う。




『そもそもお前が決めてればよかっただろ!!』




 うっさいうっさいうっさい……! マジで堅いのよブロックもレシーブも! びっくりするほどびくともしないんだから!


 ふぅ――と、あたしは息を吐き出す。そして大きく吸い込み、相手コートを睨み付ける。直後に笛が鳴って、ばちっ、とチクチク頭がサーブを放つ。今度はあたしのところ。


「任せて、露木さん!」


 後ろから栄に声を掛けられた。あたしは一も二もなく譲ってレフトに開く。視界の左半分で相手ブロッカーを、右半分で危なげなくサーブカットする栄を捉える。


 ってか普通にサーブカットも上手いし。さすがさすがの栄夕里(ゆうり)よ。悔しさも湧かないくらいになんでもできる。沢木彰や世奈が意識しまくりなのも当然よね。


 でも……と、あたしは思い切り床を蹴る。


「レフトッ!!」


 それでも、あたしはこの明正めいじょう学園のエースだから。


「頼むよ、露木さん!!」


 たとえ他のあらゆる面で栄のほうが上手かろうと、スパイクでは負けたくない!!


「決っ……まれええええええええ!!」




 ――ばちんっ!!




 全力で打ち抜くことだけ考え、あたしはブロッカーも見ずにボールを叩いた。


「ワンチ!」


 世奈の声。うっそ、触られた――!? 反射的にあたしはボールの行方を追う。世奈のブロックは見事にあたしのスパイクの勢いを殺すことに成功していた。


「わっ、ととっ!?」


 しかし、運悪く、ボールはBR(バックライト)のレシーバーが反応していた方向と逆へ。


「くぬっ!」


 BR(バックライト)のトサカ頭は体勢を崩しながらも手を伸ばし、


「すまん届かーん!!」


 盛大に空振りしてずっこけた。ボールはスレトートへ抜け……落ちるっ!!


 ぴっ、と短い笛の音。捲られるスコアボード。


 表示は、1―4。


「っ……しゃあああああああ!!」


 待望の初得点。あたしは思わず試合を決めたくらいのテンションで叫んだ。


 そのとき、ポケットに入れたまま洗濯しちゃって散り散りになった紙切れを見るような目で、世奈があたしに一瞥をくれる。瞬間、あたしと世奈の目が合った。


 ようやくだわ……と、あたしは拳を握る。


 半分ラッキーみたいな1点だけど、得点は得点。これで世奈も少しはあたしの存在を認識してくれたはず。世奈的には栄以外は敵じゃないみたいな感じなんだろうけど、あたしの中であんたは完全に敵なんだからね! ぎったぎたにしてやるから今に見てなさいよ……!


「ナイスキー、露木さん。次も頼むでっ!」


 ぽむっ、と前衛フロントに上がってきた栄に背中を叩かれる。あたしは力一杯口の端を吊り上げて笑んだ。


「何本でも決めてやるわよ! あたしは明正学園のエースだからね!」


 後衛バックで「エースはわたしだ!」とどっかの紙切れが騒ぎ立てるのを無視して、あたしは相手コートを見据える。


 前衛には世奈と沢木彰と、ミドルブロッカーの真ん中分け。後衛には、チクチク頭と交替したリベロ、最初にあたしのスパイクを拾った彰の対角、それにトサカ頭。


 六人の誰一人として、焦りを見せている選手プレイヤーはいない。


 相手にとって不足なさ過ぎ。


 ふんっ、上等じゃない……! ぶっ倒してやるわ!!

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