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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
187/374

45(由紀) バランス

 練習試合、二戦目、立ち上がり。


 スコア、0―3


 タイムアウトを取ったのは向こうで、こちらはリードしている立場。けれど、ベンチの雰囲気は、むしろこちらのほうがピリピリしていた。


世奈せな、どういうつもりだ。なんで夕里ゆうりを挑発するようなことを」


 キャプテンでエースの沢木さわきあきらが、固い表情でセッターの森脇もりわき世奈せなに詰め寄った。世奈は彰を睨むように見据え、傲然と返す。


「ああでも言わないと、加減するかもしれないでしょ。夕里はあたしたちの中の誰よりも器用なんだから」


「だからって何も――」


「じゃああんたは、夕里となあなあで試合できれば満足なの? あたしはそんなのゴメンだわ」


「ま、まあまあ世奈ちゃん、そのくらいで。彰ちゃんも、私は、そんなに突っかかることじゃないって思うよ……?」


 レフト対角の町川まちかわ縫乃ぬいのが間に入って、二人を宥める。監督の村木むらき天馬てんま先生は(たぶん敢えて)彰と世奈のことは見て見ぬふり。最初に二、三指示を出して以降は、ベンチに座って黙り混んでいる。


 まあ、このあたりは、かなりデリケートな部分だから、見るからに不器用そうな村木先生の手には余るだろう。


「なんだ、せなちー。ご機嫌斜めか?」


 わかってるのか本当にわかってないのか、きょとん顔でそう言うのはミドルブロッカーの与志田よしだ天那あまな。隣にいるリベロの薬師寺やくしじ香華きょうかが、アキレス腱を伸ばしながら平坦に呟く。


「世奈はいつもあんなだよ。だよだよ」


 そして、そんな元獨楢(どくなら)中の面々を若干離れたところから眺めていたセッター対角の桐ヶ谷(きりがや)れつは、はっは、と能天気に笑う。


「なんだか大変そうだな! やっぱ強豪って色々あるんだな! 由紀ゆきもそう思うだろ!?」


 ほぶぅ。巻き込み事故発生。


「……確かに、ちょっと思うよ。口には出さないけど」


「はっは! 由紀は口が固いな!」


 否定はしない。ただ、それはそれとして『口が固い』ってそういう意味の言葉じゃないと思う。私は『口が固い』から言わないけど。


 私は黙って彼女たちを見守る。


 中学の頃――あの三人の関係は、きっと奇跡みたいなバランスの上に成り立っていたんだと思う。


 獨和大附属楢木中学、ひいては同期県選抜の三本柱。


 沢木彰、森脇世奈、栄夕里。


 一人のエースと、タイプの違う二人のセッター。


 ちらっと耳にした限りでは、彰と夕里は小学生の時からの幼馴染みだけど、世奈が二人と同じチームになったのは中学かららしい。それだけでも結構危うい関係なのに、高校に上がって、あろうことか夕里が隣県へ引っ越してしまった。


 獨楢に入って夕里の転校を聞かされた時、私はとても驚いた。


 そして同時に、遅かれ早かれ、こういう感じになるだろうことは、予想できた。


 リベロが変われば、守備が変わる。


 エースが変われば、攻撃が変わる。


 そして、セッターが変われば、全部チームが変わる。


 元々がツーセッターなんて神業を成り立たせてきたチームにとって、栄夕里の離脱の影響は計り知れない。変化の過程で、齟齬や軋轢が生まれないわけがない。その中心にいた彰と世奈ならなおさらだ。


 まあ、私個人としては、世奈派。私の目に、彰はまだ夕里への未練を抱えているように見える。それで世奈と折り合いがつくはずもない。そして夕里のことを引き摺ったところで今のチームが前に進むわけじゃない。いい機会なんだから、彰はもう夕里を諦めて、世奈と二人で進む覚悟を決めるべきだ。


 ――なんて、口には出さないけど。


 やがてタイムアウトが終わり、全員でコートに戻る。私は今は前衛。ネット際に立ち、隣には彰と世奈。


 ふと、私は二人のほうに目をやる。


 次の瞬間、見なければよかった、と後悔した。


 彰と世奈は、恐らく互いにそうとは知らず、二人揃って相手コートの栄夕里を見つめていた。

登場人物の平均身長(第五章〜):166.9cm

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