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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
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43(颯) 挑発

 露木つゆき凛々花(りりか)の存在ごと記憶から抹消したい例の入部試験を終えて、ついにわたしは明正めいじょう学園女子バレーボール部の正式な部員となった。


 そして、顧問の先生も加えての本格的な活動が始まった初日、電撃的に告げられた遠征。


 県代表級のチーム同士がぶつかる合同練習試合への招待(そこに至るまで紆余曲折あったらしい)。中学時代の目標が地区予選突破だったわたしや露木にとっては、まったく未知の領域ステージ。もちろん、強い相手と戦えるのは望むところなので、わたしは意気揚々(途中で若干雰囲気に呑まれる場面があったことは認める)と決戦の場にやってきた。


 相手は、四十年以上に渡って県代表の座を守り続けているという隣県最大最古の強豪、獨和どくわ大附属楢木(ならぎ)高校――その新人チーム。


 主観的な言い方をするなら、わたしと同学年で、隣県の県選抜をしていた選手プレイヤーたち。


 そして、さかえ夕里ゆうりの元仲間(チームメイト)


 当然ながら、その実力は本物だった。ラインジャッジをしている間、何度もそのプレーに目を奪われた。早くネットを挟んで戦いたいと身体が疼いた。もし可能なら、栄に紹介してもらって、練習方法とかスパイクのコツとか聞いてみたかった。あと、中学時代の栄の話なんかも。


 まあ、要するに、友達になってみたいと思ったのだ。


 しかし、いざ試合が始まったら、それどころではなくなった。


「ネットを挟む以上、今のあんたはあたしたちの敵よ、夕里」


 試合早々こちらを挑発してきたのは、世奈せなとかいう名前のセッター。長く艶めく黒髪を、毛先のほうで緩く一つに結んでいる。


「容赦はしない。全力で叩き潰してあげるわ」


 嘲るように微笑んで、目を細める世奈。その少しツリ気味の目がそこはかとなく憎き露木の姿と重なって、瞬間、わたしは悟った。


 こいつは、わたしの敵だ――と。


 そうと決まれば、やることは一つだ。


「カット集中! 落ち着いていこう!」


 すわなち、全力で倒す!!


「「さあああ来おおおおい!!」」


 声が露木と重なった。むう……やっぱりあいつが同じコートにいると、なんだか落ち着かない。


 って、今は集中!


 ぴっ、と短い笛が鳴る。後衛バックに下がったチクチク頭のミドルブロッカーが、両足踏み切りのジャンプフローターを打ち込んでくる。高い打点からの切れ味のあるサーブ。落下点はわたしの守備範囲。スピードはあるが、ミートが甘いのか変化は激しくない――よく見れば拾える!


「オーライ!」


 ばむっ、


「ナ、ナイスカット!」


 わたしと重なるようにボールの軌道に入っていた瀬戸から声がかかる。少し遅れてセッターの星賀先輩も「ナイスカット」と言う。実際ナイスカットだった。


「行くよ、露木さん!」


「任せてください!」


 星賀先輩は頭の上でボールを捉えると、軽くジャンプしてレフトに平行を上げた。初めて見る星賀先輩のトス。そんなに悪くないように見える。が、ボールの行く先を追う先輩は僅かに目を細めた。


「ブロックフォロー!」


「オッケーです!」


 星賀先輩の指示と同時に、栄がネット際に上がる。ブロックはぴたりと二枚。露木は真正面から踏み切り、ボールを叩く。


 ――だばばんっ!


「っ……!?」


 ボールはネットを越えず、打った速度ほぼそのままに跳ね返り、フォローに入っていた栄の頬を掠めてコートに落ちた。


 ぺたん、


 とその場に尻餅をつく栄。そして、そんな栄をネット越しに冷たく見下ろす相手のライトブロッカー――世奈。


「あら、ごめんなさい。次は真下に落とすわ」


 ふっ、と薄笑いを浮かべる世奈。困惑しているのか、世奈を見上げたまま動かない栄。


 そしてそんな二人の間で、ブロックされた上に眼中にも入っていない露木は顔を真っ赤にしてわなわなと震えていた。


「ちょっとあん――」


「まあまあまあまあ」


 世奈に食って掛かろうとした露木を止めたのは、星賀先輩だった。肩に手を置いて、露木を押し止める。


「悪かったね、露木さん。トスが少し低かったよ。打ちにくかっただろう?」


「えっ、あ、その、はいっ!!」


 ものすごく力強く肯定されたのが可笑しかったのか、星賀先輩は苦笑した。


「切り替えて、一本決めていこう!」


 星賀先輩は露木の肩を叩きながらわたしたちのほうを見回して、ハリのある声を出す。世奈の挑発や連続失点を気にする様子はまったく見られない。本当に気にしてないのか顔に出してないだけなのか――どっちにしろわたしには無理だ。


「さああ来おおい!!」


 相手を威嚇するように、お腹の底から声を出す。サーバーのチクチク頭は、しかし、さっきと変わりないリズムで打ってきた。ボールは今度はわたしと瀬戸の間くらいへ。


「任せろ!」


「っ、ま、任せたわ!」


 わたしが前に出ると、瀬戸はすぐさま引き下がった。わたしはオーバーハンドでボールを捉える。


「ナイスカット、今川さん!」


 星賀先輩が左手を上げて落下点に入る。実はちょっと力負けしてネットから離れてしまったんだが……今はうだうだ考えても仕方ない。


「星賀先輩、レフトお願いします!!」


「わかってる、よっ!」


 ぱしゅ、


 と柔らかいトスがレフトに上がる。平行よりはセミに近い。露木はトスを見てから助走に入る。


「ブロック二枚!」


「フォロー入ったで!!」


 露木の背中を押すように、星賀先輩と栄の声がコートに響く。わたしも(心の中で)叫んだ。


 次こそ決めろよ、露木凛々花っ!


「たあああっ!!」


 ばんっ、


 と下腹に響く重音。身体が弓なりになるほど反動をつけての強打。ボールはクロスへ抜ける。


 決まった、とわたしは思った。中学の時に嫌というほど見て、聞いて、決められてきた露木のスパイク。今のフォームは決まるフォームで、今の打音は決まる打音だ。


 が、それはあくまでわたしの――とうとう地区優勝に届かなかった次元での――感覚に過ぎなかったらしい。


 ごふっ、


 と鈍い音が聞こえた。見ると、BL(バックレフト)の地味めの選手プレイヤーが、床に這っていた。


「ごめん、たぶん近い!」


 くるりと身体を回転させて起き上がりながら、BL(バックレフト)の彼女はボールを見ずにそう言った。感触だけでレシーブの良し悪しがわかる――それくらい練習を積んできたってことだ。しかも露木の強打に対応できるくらいなんだから、その練習が生半可なものであるはずがない。


「問題ないわ、縫乃ぬいの!」


 ボールはくるくるスピンしながら舞い上がり、やがてセンター付近のネット上に落ちてくる。セッターの世奈はそれに合わせて助走を――って助走!?


「あかん! 西垣にしがきさん、ブロック!」


 いち早く気付いた栄が指示を飛ばすが、もう遅い。


「むしろ絶好球――!!」


 ぱあんっ!


 風船が割れたような乾いた破裂音が鳴って、ボールはほとんど直角にコートに叩き付けられた。反応などできるはずがない。鮮烈なツーアタック。


 スコア、0―3。


 着地した世奈は、肩に乗った後ろ髪をスパイクを打った左手でさっと掻き上げると、勝ち誇るような微笑を栄に向けた。三度目の挑発。しかし、わたしは――たぶん露木も――憤慨ではなく感動を覚えていた。


 こいつ……ものっそい強い!!


 ぴぃぃぃ、と少し長い笛で我に返る。見ると、ベンチの神保じんぼ沙貴子さきこ先生が立ち上がっていた。主審のハンドシグナルはTの字――タイムアウトだ。


「集合!」


 星賀先輩の号令で、わたしたちは一斉にベンチへ走る。


 わたしは胸に手を当てる。心臓がどくどくと、今すぐどこかへ飛び出していきそうなくらい激しく脈打っていた。

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