39(明朝) 高架高速攻撃《Over the Road》
私の名前は美川明朝。みんなからは音読みで『ミンチョー』と呼ばれている。これが随分語感がいいらしく、
「ヨロシク、ミンチョー」
こうして他校の知り合いからも呼ばれる。せっかくなので、こちらもフランクに呼び掛けてみた。
「お手柔らかに、マッキー」
「…………」
鶴舞女子短期大学附属高校バレーボール部キャプテン――葉山真紀さんは、とても不愉快そうに目を細め、握手もそこそこにチームのほうへと戻っていった。
「なんか葉山真紀がキレてっけど? 何したんミンチョー?」
隣の多部遥火が、むっつり顔でサーブレシーブの構えを取っている葉山さんを見ながら小声で聞いてきた。
「『マッキー』って呼んだら怒られた」
「あー、それな、あるなあるある」
「そこ二人集中しなさい」
二つ隣の横田久美子がぴしゃりと言う。私と遥火は顔を見合わせて苦笑を交わし、相手コートを見据えた。言われた通り、気持ちを切り替える。
ふっ、と一瞬の無音の間があって、サービス許可の笛が鳴る。
「「っさあああああ!!」」
コート内を飛び交う気合と指示の声。そして、サーバーの氏島右季が最初のサーブを打ち込んだ。ボールはマッキー、もとい葉山さんのところへ。
「ライッ」
サーブが打たれたとほぼ同時に声を上げ、葉山さんはオーバーハンドで危なげなくボールを処理する。ふわりと高い弾道のAカット。鶴女の攻撃は三枚。
レフトからは葉山真紀さん――165センチ、右打ち。
ライトからは梶井遠子さん――169センチ、左打ち。
伝統の〝鶴翼の陣〟。コートを左右に広く使った鶴女の十八番。
しかし、なんと言っても本命は、
「なあーいすかっとおーっす、真紀さあああん!!」
センターに切り込む、一際大きな影。
「っるるるぁああああー来いやああぁー!!」
去年、鶴女に革新を齎した、隣県最強のミドルブロッカー。
「っらあ行っとけえええー!!」
ひゅっ、と高速で送り出されたトスをフルスイングの右腕が捉え、
「っるるあっしょおおおー!!」
――ばぢんっ!!
ボールはこちらのブロックの上を抜け、コートへ鋭角に叩き込まれた。
「「っしゃああー!!」」
ぱんっ、と気持ちのいいハイタッチを交わすのは、鶴女レギュラーでただ二人の二年生。
〝中央本線〟――車崎通子さん、179センチ、ミドルブロッカー。
〝追越車線〟――宇陀川幸絵さん、175センチ、センター対角セッター。
マッキーは単なる冗談だけれど、通子&幸絵と言えば、中学時代から隣県を代表する双璧として全国にその名を轟かせていた。彼女たちの繰り出す〝高架高速攻撃〟は高校でさらに洗練され、巷では『ヤツらが通った跡には草も生えない』と恐れられている。
「初っ端から飛ばしてくるわね……あの高架高速」
車崎さんと同じミドルブロッカーの久美子が、上を抜かれた悔しさを滲ませて言う。私はその肩を叩いた。
「ま、焦らずいこうか。遥火もオーケー?」
「おーよ」
私は他のメンバーの顔も一通り見回して、浮き足立ってないか確かめる。電光石火で先取点を持っていかれた格好だけれど、みんなきっちり落ち着いていた。私は普段通りに声を出す。
「よーし、一本集中ー!!」
「「おおーっ!!」」
スコア、0―1。
私としてはまだ探り合っていたい段階なんだけれど、鶴女――というか車崎さんと宇陀川さんはそうじゃないみたい。どんどん攻めていかないと一気に持っていかれそうだ。
こうなると、さすがにお隣の沢木彰たちにまで気を配っている余裕はない。
でも、ま、きっと大丈夫だよね……?
ぴっ、と笛の音が聞こえる。私は散っていた神経を収束させる。
新人チームの立ち上がりは気になるけれど、ひとまず私は目の前の試合に集中した。
登場人物の平均身長(第五章〜):167.7cm




