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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第六章(明正学園) AT獨和大附属楢木高校
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35-1(希和) 当日

「遠征!?」


 私とは似ても似つかない(と思いたい)すっとんきょうな声を上げたうちの母親――瀬戸(せと)美以子みいこはミーハーだ。母は私の影響でママさんバレーを始めて、今ではすっかりバレーにハマっている。152センチと小柄だが、運動神経が悪いわけではなく、かつてみやこの中学女子テニス界で西中にしちゅうの〝一時(Zero)停止(Drop)〟・興津(おきつ)と畏れられたプレイヤーだったらしい。


「どこまで行くの? 遠征っていうくらいだから、みやこ?」


「いや、隣の県。獨和どくわ大附属楢木(ならぎ)とかいう」


「獨和大附属楢木……って、もしかしてあの獨楢どくなら!? 春高で毎年名前出るわよ、強豪じゃないの!!」


 略称まで知っているとは……さすが詳しいな。


「どうしちゃったの、きーちゃん? 明正めいじょうってそんなに強かったの?」


 コンロの前の母は味噌を溶かしきると、料理の手を止めて訝しそうに私を見てきた。その疑問はむしろ私が星賀さんあたりに訊きたい。


「わかんない。なんか、私の預かり知らない事情があるみたいなんだよね」


 私が適当に答えると、母は「ふうん」と呟き、調理用具を片付けて、エプロンを脱いで冷蔵庫の横に引っかけた。


「私も付いてっていいかしら、遠征」


「やめてよ……。ってか、行っていいんだ」


「もちろんよ! 揉まれてきなさい!」


 あー、やっぱそうなるかー。なんだかんだ体育会系だもんなぁ、うちの母親。


「じゃ、母さん、今日ママさんの日だから出掛けるわね。ご飯は好きなときに食べなさい。あと、お風呂洗っといてね、お願いよ」


「あーい、いってらー」


 そんなわけで、正直気が進まないものの、結局私も行くことになった。


 ――――――


 それから、元実業団の経歴を持つ神保じんぼ沙貴子さきこ女史によるわりと過酷ガチな(加減はしていたらしい)特訓を経て、遠征当日がやってきた。


 神保先生は先に車で、私たちは星賀さんを中心に電車で獨楢入りすることになっていた。


 早朝。まだ出社する人もまばらな時間に、私たちは桜田さくらだ駅に集合した。桜田駅は、当県を南北に縦断する国鉄と、西に横断して隣県に伸びる私鉄・桜宮(おうぐう)線がT字に接続している。獨楢どくならへは、その私鉄に乗って向かうので、集合場所は桜田駅内の桜宮線ホーム。


 私と早鈴はやすず知沙ちささんは中学は別だが最寄り駅が同じなので、改札で行き会ってからは二人で桜田駅に向かった。集合場所に一番に着いたのは私たちで、それからほどなく、露木つゆき凛々花(りりか)今川いまがわはやてが(最寄り駅も同じで乗った電車も同じだろうにわざわざ)個別にやってきて私たちに合流した。


 あとは徒歩通学組の星賀ほしか志帆しほさん、小田原おだわら七絵ななえさん、西垣にしがき芹亜せりあが来れば全員だ。なお、さかえ夕里ゆうりは、桜宮線沿い在住なので、私たちがこれから乗る予定の電車に後から合流する。


 やがて、発車時刻の五分前に星賀さんと西垣がホームに姿を見せた。


 …………あれ?


「し、志帆ちゃん……ナナちゃんは?」


 早鈴さんが恐る恐る訊く。星賀さんはナチュラルスマイルを浮かべたまま、首の代わりに携帯電話を横に振った。


「いつものやつだ」


「ええええっ!?」


 早鈴さんの悲鳴が朝のホームに響く。入部試験にも寝坊してきた小田原さんだが、極端に朝に弱い体質で、無理に起きると一日中気分が悪くなるのだそうだ。曰く、波みたいなものがあって、毎日毎日そうなるわけではないのだが、そうなってしまった日はもうどうしようもなく、授業がある日でも遅刻する。ご家族もそれをわかっているので、『どうしても』という時以外は起こさない。


 そして、どうやらその『どうしても』に、今回の遠征は含まれないらしい。


「先生には連絡済みだ。獨楢へは、ここにいるメンバーで向かう」


「えっ、ナナちゃんは、じゃあ、結局どうするの?」


「起きる時間にもよるが、可能なら後から合流することになっている」


 星賀さんの口ぶりからすると、小田原さんの遅刻は折り込み済みだったっぽい。


「それは……けど、大丈夫なの?」


 早鈴さんが私たちを見回して言う。星賀さんは同じく私たちを見回して答える。


「大丈夫。今年の新入生は優秀だからな」


 いや、そんなおだてに乗るのは露木と今川くらいですよ。県代表級の高校がひしめく魔窟に新入生五人と151センチの星賀さんの六人で殴り込みとか明らかに無茶じゃないですか。県選抜経験者の小田原さんと栄が両輪になって辛うじて体裁が保てるかなってレベルだったのに、その片方がいきなり脱輪って……。


「期待しているぞ、君たち」


「「はいっ! 頑張ります!!」」


 調子のいいことを言う星賀さんと、調子のいい返事をする露木・今川コンビ。西垣はふふふと何を考えているのか楽しそうに笑っている。……あれ? 私ってむしろ少数派?


 ちらっ、と早鈴さんに目を向ける。早鈴さんは不安げな表情で星賀さんを見ていたが、私の視線に気付くと、健気にも笑みを浮かべて「頑張ろうね!」と口パクで伝えてきた。


 ……いや、まあ、無難に乗り切れればとは思ってたので、頑張るは頑張りますけど……。


「さあ、行こうか」


 当駅始発の電車がホームにやってくる。誰もいない車内へ、私たちは乗り込んだ。


 やがて発車を知らせるアナウンスが流れ、ドアが自動で閉まる。もう後戻りはできない。


 うーむ……これもまた乗り掛かった船、というわけなのか? ええい、なるようになれ――! いや、なるか……?


 数分後、桜田駅の次の駅に到着。栄が乗ってきた。挨拶のあと、きょろきょろと車内を見回す栄に、星賀さんが事情を説明する。栄の声がひっくり返った。


「ええっ!? 小田原さんが寝坊!? ほんまですか!?」


 あ、うん、やっぱ無茶だよねそうだよね。

登場人物の平均身長(第五章〜):167.1cm

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