表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第五章(明正学園) VS三坂総合高校
173/374

32(志帆) 古豪

 入部試験の翌日、日曜日。


 私は午前中から学校に来ていた。いくつか用事があったのだ。そのうちの一つを済ませるために、私は化学教官室の扉をノックした。


「どうぞ」


「失礼します」


 そう言って、私は教官室に入る。私がここにやってくる理由のほとんどが部活絡みのこと。なんとなれば、我が明正学園女子バレーボール部の顧問が、化学教諭だからだ。


「おう、星賀ほしか。どうかしたか?」


 目的の先生は、小テストの丸付けをしていた手を止めて、顔を上げた。


 神保じんぼ沙貴子さきこ先生。私が二年生に進級したときに赴任してきて、赴任と同時に女子バレー部の顧問を受け持った。年齢はアラフォー。ご結婚されていて、お子さんもいる。


「ちょっと、先生にお願いがありまして」


「ん、新歓絡みか? また体育館でパーティでもするのか?」


「いえ、この四月中に練習試合を組めないかという相談でして。可能でしょうか?」


 先生は真意を探るように目を細めて、少し考えてから、先回りして要点に触れた。


「どこか、具体的に戦いたい相手がいるのか? 昨日の新歓で世話になったっていう三坂みさか総合か?」


「いえ、具体的には決めていません。ただ、どこでもいいわけでもありません。希望する条件があります」


 先生は片眉を上げ、ぎぃ、と回転椅子を動かして身体を私に向けた。


「その、お前が戦いたい相手の条件とやらを、言ってみろ」


 私は先生の目を見つめて、気負わずに答える。


「先生が練習試合を取り付けられる高校の中で、最も強い相手でお願いします」


 それを聞くと、ふははっ、と神保じんぼ先生は吹き出した。今は化学教官室に私たちしかいないので、かなり豪快な笑い声だった。


「……そうだよな。お前と早鈴はやすずはこの夏が最後だもんな。いよいよ雄飛の時か」


 先生はそれから数十秒ほど相手先の候補を思い浮かべてから、悪戯っぽく笑った。


「ちょっと遠いが、セントレなんてどうだ?」


 セントレ――先生の口から飛び出してきたその高校名に、私は少なからず驚く。


「そのセントレというのは、あのセントレですか?」


「あのセントレ以外のセントレがどこにあるんだよ」


「……ええ、仰る通りです」


 俯くように頷き、私はちょっと頭の中でシミュレーションをしてみる。さすがにセントレは予想外だったからだ。どうだろう、上手く事が運ぶだろうか――。


「不満か?」


 先生は偽悪的に微笑んで問う。私は考えるのを中断して、首を振る。


「いいえ、願ってもない相手です。県内随一の古豪にして、現在も県四強の一角に名を連ねる西の王者……」


 私は個人的に観戦した去年の新人戦を思い出す。黒と碧翠へきすいを基調とした色彩豊かな斑紋。県下で最も美しいとされる深山烏ミヤマカラス鱗翅(ユニフォーム)


「〝不死蝶《Crawling Butterfly》〟――セントレオンハルト女学院じょがくいん


 胸を借りるのにこれ以上はない、と断言できる相手だ。


「ま、言っても、先方が了承してくれればの話だぞ? セントレがダメだったら今月は諦めてくれ。今はどこも月末のブロック大会地区予選のための最終調整をしてる。この時期に練習試合を受けてくれる可能性があるとすれば、地区予選に出ない高校だけ――つまり、うちみたいな新生チームか、予選免除の四強シードだけだからな」


「ありがとうございます」


「望みは薄いからな。期待するなよ」


「その場合は、五月の連休のほうで何かしましょう」


「おいおい正式入部もまだだってのに……」


 そう言いつつも、神保先生は練習計画の立案に前向きだった。昨日の入部試験のことは既に話してある。此度の超大型新人の登場に、先生も喜んでいるのだ。


「それにしても、先生、お顔が広いんですね。四強にパイプをお持ちだとは存じませんでした」


「顔が広いっていうのとは、少し違うな。単純に、セントレは私の母校なんだよ」


「えっ」


 ちなみに、セントレオンハルト女学院とは、西地区の最奥、外界と隔絶された山中(学院の私有地)にその門を構える、小中高一貫の絵に描いたような超お嬢様学校である。


「まあ高校進級を機に飛び出したんだが――って、おい、星賀。今の『えっ』はどういう『えっ』だ?」


 ぎろっ、と先生はガンを飛ばしてくる。私は咳払いして、ぺこりと頭を下げた。


「失礼しました」


「おい詫びるなよ。悲しくなるだろ……」


 先生は溜息をつきながら肩を揉む。そして、おおよそ二十年前と思われる過去に目を向ける。


「まあ、そりゃ確かに、箱入り娘だらけのセントレじゃあ……私はヤンチャなほうだったがな」


 人に歴史あり。私は先生の意外な経歴プロフィールを、早く知沙ちさと共有したくてうずうずした。

登場人物の平均身長(第五章):167.5cm

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ