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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第五章(明正学園) VS三坂総合高校
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29(舞姫) 偉大なる七《"Big" Seven》

 明正めいじょう学園の体育館を出て、私たちは小走りに校門を目指した。止水しすいは随分楽しんだみたいだし、懸案だったさざなの機嫌も、期せずして手に入ったお土産(クッキー)を見せればたちどころに直るだろう。


 寄り道が上々の結果に終わって、私はとても晴れやかな気分だった。あとは、いくつか気になることを消化すれば言うことなしだ。


「ねえ、晶子しょうこ。さっきのミニゲームだけれど、なんで最後はダイレクトで打たなかったの?」


舞姫まき先輩ってほんと楽しそうに他人ひとの傷口を抉ってくるですよね……」


 晶子の顔にさっと影が差す。どうやら気にしていたようだ。


「打ったら止められそうだと思ったので、打たなかっただけですよ」


さかえちゃん、あの時はかなり本気で跳んでたものね」


「わかってるならそっとしておいてくださいです……」


「凹まないで、晶子。栄ちゃん相手なら気後れしても仕方ないわ。あの子、新入生だけれどかなり強いものね新入生だけれど」


「うぅぅ……」


「まあまあ舞姫さん、晶子で遊ぶのもそれくらいで」


 止水に諌められた。遊んでいたわけではなく、真面目な話をしていたのだけれど。


「そう言えば止水も、身長の優位がありながら散々ワンタッチを取られていたわよね身長の優位がありながら」


「飛び火やめてください!?」


 止水は大袈裟に狼狽えてみせる。が、次の瞬間には真剣な表情で呟いた。


さかえ夕里ゆうり……南地区やセントレの連中にも通じる上手さを感じましたね。相当な数の修羅場くぐってますよ、ありゃ。みまりでもキツいと思います」


「県選抜のみまりちゃんの上を行くとなると、全国常連の猛者か、それに準ずる選手プレイヤーってことよね。しかも、自分一人で決めるタイプじゃなくて、周りの強さを引き出すタイプ。そんな子が170以上のアタッカーが三人もいるところに入っちゃったわけか」


「あのボサ髪と、キャプテンだっつー星賀さんも、なーんか食えない感じでしたしね。こりゃブロック予選かインハイ予選のダークホースになるんじゃないっすか、明正学園」


「そうね。侮るべからざる相手なのは間違――」


 ちょうど校門に差し掛かった、そのときだった。


 校門の外から、一人の女の子が歩いてきた。明正学園のものと思しき制服ブレザーを着た女の子。


 もちろん、その姿は少し前から視界に入っていた。ここは明正学園なのだから、明正学園の生徒がやってくるのは当たり前。


 気に留めるような要素なんて、一つもなかった。


 彼女が、私たちのすぐ目の前までやってくるまでは。


 彼女の存在に驚いたのは、私だけじゃない。止水も晶子も彼女を間近で視界に捉えた直後、呆然と立ち尽くした。私も思わず足を止めてしまう。そして――失礼だとは思ったが――まじまじとその外見を観察した。


 髪の色はくすんだ黒。末広がりのセミショートで、前髪が長く、目元を覆っている。少し骨張った硬い輪郭の中に、切れ長の目と、筋の通った鼻、薄い色の唇がバランスよく並んでいる。化粧映えというか、舞台映えしそうな美形さんだ。


 と、顔だけ見てもかなり目立つ子なのだが、それ以上に目を引くのは、その体躯。


 一目瞭然に、巨大おおきい


 172の止水が見上げるほどの超長身。180は確実にある。ちょっとヒールの高い靴を履けば190をも超えそうだ。肩回りも腰回りもがっしりしていて、どの分野のスポーツからもお呼びが掛かるに違いない。


 当然、バレーボール界だって、見つけたら放っておかないだろう。


 あまりの物量感おおきさに、私はかなりじろじろ見てしまった。しかし、彼女はそういう視線に慣れているのか、私たちには目もくれずのそのそと歩いていく。


 私たちが歩いてきた道のりを、遡るように、迷うことなく何処かへと向かっていく。


「もしかして、あの子――」


 私はミニゲーム前の星賀ほしかさんとの雑談を思い出す。元々新入生の相手をするはずだった子が遅刻している、と言っていた。その遅刻している部員が彼女なのだろうか……。


 ただ、残念ながら、体育館の入口は校舎と校舎の陰になっていて、彼女がそちらへ消えていったところは見えたけれど、中に入ったかどうかまではわからない。


「……なんであいつがこんなとこに……?」


 緊張に震えた声で、止水がそう言った。私と晶子は驚いて振り返る。


「「止水、知ってるの(ですか)?」」


「舞姫さんは一つ上だからわからないかもですけど……晶子、お前は見覚えあるべきだろ」


「えっ、じゃあ二年タメですか?」


「そうだよ。ありゃあ雀宮すずめのみや中の〝(Seventh)(Heaven)〟の片割れだ」


「雀宮中の〝(Seventh)(Heaven)〟……ええっ!? それ本当マジで言ってるですか!?」


「あんな特徴的な(デカい)ヤツを見間違えるかよ」


「雀宮中っていうと、南地区の〝(Four)(Forces)〟よね?」


「その雀宮中っす。オレらの代ではあのセントレを退けての県一位。あいつはその屋台骨――〝偉大なる七《"Big" Seven》〟、小田原おだわら七絵ななえ


「小田原……七絵ちゃん、っていうのね」


「なんでそんな怪物バケモノ県庁地区こんなところに……?」


「オレは逆に疑問が一つ減ったぜ。高校入って小田原の姿を見かけねえのが不思議だったんだ。てっきりバレーを辞めちまったのかと思ってたが……」


「……まあ、まだバレー部員かは不確定だけれどね」


「うおおおっ、気になる! ちょっと引き返してきていいっすか!?」


「ダメよ。さすがにこれ以上は遅れられないわ」


 言って、私は止水を校門のほうへ追いたてる。晶子もちらちらと小田原ちゃんの行方を気にしていたが、私たちが歩を速めると急いでついてくる。


 それにしても……一つ下の県一位のレギュラー、か。あの身長で県一位なら、県選抜から漏れたということもないはず。雀宮中で〝(Seventh)(Heaven)〟と称されていた選手プレイヤーなら、十中八九あの子と双肩を成していた実力者なのだろうし。


 そんな子が、部員かどうかは別として、あの抜け目ない星賀さんや、嗅覚の鋭そうな栄ちゃんと同じ学舎にいる。


「私立明正学園高校――ねぇ」


 校門を出て道路を渡ったところで、私は来たときには見逃した学校名の刻まれたプレートに視線を向けた。


 越えるべき障害かべ……厄介な敵が、新たに一つ増えそうね。

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