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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第五章(明正学園) VS三坂総合高校
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27(知沙) 大詰め

 入部試験という名目で始まった三対三ミニゲームは大詰めを迎えていた。


 新入生チームVS試験官チーム。


 七点先取一セットマッチで、現在、スコアは6―7。


 ジャンプサーブでサービスエースを狙う在原ありわら止水しすいさんと、それを阻まんと奮起する露木つゆき凛々花(りりか)さんと今川いまがわはやてさん。


 このミニゲームが始まるきっかけを作った三人の勝負、という構図。そこに、志帆しほちゃん、鴨志田かもしださん、さかえさんの思惑などが絡まって、コート内の空気はぴりぴりと張り詰めていた。


 私は全員がそれぞれの定位置ポジションについたのを確認してから、びぃー、と笛を鳴らす。


 在原さんは、それが彼女の儀式ルーティンなのだろう、大きく深呼吸をしてから、ざっ、とボールを投げた。


 一打目同様、力強い踏み込みで、宙に舞い上がる。




 ――ばしんっ!




 びくんっ、と飛び上がりそうになるのを堪え、私は必死にボールを目で追う。矢のように突き進むボールは、瞬きをすれば見失ってしまいそうなほど速い。


「「オーライっ!!」」


 レフト側を守る今川さんと、ライト側を守る露木さんが、同時に声を上げる。また二人の間に飛んできたみたい。さっきはぴくりとも動けなかった二人だけれど、今度はきっちりボールに反応している。


 でも、そうなってくると不安なのが、ミニゲームの最初にやってしまったような連携のミスだ。私個人としては新入生チームを応援しているので、頑張って、と祈るように見つめる。すると、


「あたしが取るわっ!」


 だっ、と露木さんが前に一歩出た。


「っ――任せた!!」


 露木さんが前に進み出たのを見た今川さんは、そう言って守備サーブカットを中断し、攻撃アタックへ向かう。


 おおっ、と私は声を出さずに唸る。


 メンバーチェンジする前の連続ミスが嘘のように、二人の息はぴったりだった。


 まるで長年一緒にプレーをしてきた仲間パートナーのように。


 でも……よくよく思い返してみれば、二人が長年一緒にプレーをしてきた仲間パートナーのようだったのは、最初からだったかもしれない。


 お互いのクセ、好み、得意なこと、苦手なこと、できること、できないこと――そういうのが全部わかっているみたいだった。ミスをしたのだって、彼女たちなりに相手のことを思ってゆえの勇み足だったように思う。


 最初こそ意地や対抗心が先立って衝突してしまっていたけれど、今や二人の歯車はがっちり噛み合っている。そういう風に見える。これなら、反撃に転じることもできるかもしれない。


 と、私が楽観した直後、


「! 露木、前――」


「っ……!?」


 がくんっ、


 と、ボールが目に見えて『落ちた』。


 一球目はいきなりでびっくりしてちゃんと見れなかったけれど……ジャンプサーブってこんなに落ちるものなんだ。主審の位置から客観的に見てもすごい落差なのだから、ボールを正面から主観的に見ている露木さんにはもっと急激な変化に感じられるはずだ。


「こ、のっ……!!」


 露木さんは身体を膝から沈めて、アンダーハンドを前に突き出す。その両腕は、辛うじてボールの下に滑り込んだ。


 がづっ、


 と手首の骨の辺りに当たったような音がする。ボールはライナー気味の軌道でフロントレフトのほうへ。このまま何もしなければ、相手コートの副審ライト側の外に落ちてアウトになるか、ネットに引っかかって真下に落ちるか――いずれにせよ放っておけない乱れだった。


「……届けっ!!」


 アタックのためにレフトへ回っていた今川さんが、露木さんのレシーブの乱れに反応し、その場ジャンプでボールのほうに手を伸ばす。栄さんにラストボールを繋ぐつもりなんだろう。


 しかし、ボールの勢いは強く、今川さんのいた位置からボールまで距離もあった。両手オーバーハンドで届かないと判断した今川さんは、咄嗟に利き手だけを伸ばす。その指先が、とっ、と辛うじてボールの側面を突いた。


 ボールの軌道が変わる。ブロックでワンタッチしたみたいに、上空へと舞い上がった。落下点はちょうどネットの真上。


「「さかえっ!!」」


「「晶子しょうこっ!!」」


 新入生チームはまだボールに触れていないフリーの栄さんに、試験官チームは副審ライト側でブロックの構えを取っていた小金井こがねいさんに、それぞれボールの対処を任せる。となれば、ここからは二人による空中戦だ。


「晶子、打てっぞ!!」

 

 そう叫んだのは、在原さん。確かに、ネットの真上に上がったボールは、落ちながら少しずつ試験官チームのほうへ流れていた。ブロック時以外でネットの反対側にあるボールに触れたらオーバーネットの反則になるから、この場合、有利なのは先手を取れる小金井さんのほう。


「よ――っと!!」


 栄さんは最初からボールの軌道を見極めていたみたいで、小金井さんのダイレクトスパイクに備えてブロックに跳んだ。ボールが落ちてくる。小金井さんはそれに合わせて跳び上がり、右手を振り上げる。この一撃で勝負が決まるか――?


「……っ!? 舞姫まきさんっ!!」


 と思いきや、小金井さんはスパイクモーションを空中で中断してオーバーハンドですぐ左隣レフトにいた鴨志田さんにクイックに近いトスを上げた。


「まったく晶子は――」


 やや呆れたように呟いて、二段攻撃ツーアタックの構えを取る鴨志田さん。完全にフリーだった。今川さんも露木さんもまだちゃんとレシーブのポジションにつけていない。特に主審ライト側ががら空きだ。


 と、そこへ、


「なんのっ!」


 ぴょんっ、


 と栄さんが鴨志田さんのブロックに回った。私は驚いて「えっ……!」と声を上げてしまう。栄さんは今さっき小金井さんのダイレクトスパイクに一度跳んだはずだった。なのに、ちょっと目を離していた隙にもう二度目のブロックに跳んでいた。最初の小金井さんへのブロックが残像だったんじゃないかと思えるほどの切り返しの速さだ。


「しょうがないんだか……らっ!」


 とんっ、


 と鴨志田さんは指の腹で軽くボールに触れた。ボールは栄さんのブロックの上をゆったりとした放物線を描いて新入生チームのコートへと迫り、ちょうどフロントゾーンとバックゾーンの境界を目掛けて落ちていった。


「「おおおおお……っ!!」」


 今川さんと露木さんが二人して鴨志田さんのフェイントに向かって走る。どう見ても間に合う距離じゃなかったけれど、恐らく彼女たちの辞書に『諦め』の文字はないのだ。二人はぐんぐん加速して、最後にはフライングし、もつれ合うように床へダイブ。しかし、




 ――ぼむっ、




 と、敢えなくボールは床に落ちた。直後、ずざざっ、と露木さんと今川さんの手が落下点に滑り込む。その手はボールを捉えることができたけれど、しかし、それは文字通りの手遅れ。二人が掴んだボールは既に死んでいた。


 私は二人が完全に制止したのを見届けてから、びぃ、と笛を鳴らす。その音に反応して、露木さんと今川さんはよろよろと立ち上がった。私はコート上の全員を順番に見回して、最後に志帆ちゃんがスコアボードを捲ったのを確認し、両腕を胸の前で交差させた。


 そして、今度は長く、びいいぃー、と笛を鳴らす。


 試合はこれにて終了ゲームセット


 長い笛を鳴らし終えた時には、始まったときのように、コートの中の選手プレイヤーはアタックラインに整列していた。


 私は三度、笛を鳴らす。今度は短く、びぃ、と。


「「ありがとうございました!!」」


 両チームが互いに礼をする。そして、ネット際に向かっていって、握手。


 最終スコア、6―8。


 勝者――試験官チーム。

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