26(希和) ジャンプサーブ
「……ジャンプサーブ……!?」
驚愕に思わず声が出ていた。それを実戦レベルで打ち込める選手が県内に何人いるだろう。
在原止水さんのそれは、なんちゃってでも虚仮威しでもない完全な本物で、露木凛々花と今川颯からノータッチエースをもぎ取った。
6―5でマッチポイントを迎えていた場面から一転、形勢はひっくり返り、新入生チームは6―7と追い込まれていた。
「おうっ! さっさとボール寄越せ、もう一本行くぜっ!!」
もう一本って……今の威力のサーブを安定して打てるのか。マジか。
固まって動けないのは私だけじゃなく、露木や今川も同じだった。しかし、栄夕里だけがまったく変わらぬ調子でボールを拾いに走る。そのすれ違いざま、栄は露木と今川に声を掛けた。
「しっかりしーや、二人とも。びっくりしとる場合ちゃうでー」
「「おっ、おう!」」
露木と今川は、しかし、まだ浮いた足が地につくまで時間がかかりそうだった。それはそうだろう。少なくとも、中学時代の県庁地区にジャンプサーブを打ってくる選手はいなかった。県大会で上位に食い込む強豪校なら何人かいるのだろうが、私の知る限り、あの二人が県大会に出たのは、オープン大会を除けば中三の夏の一度きり。そして一回戦を突破したという話は聞いていない。圧倒的に経験が足りないのだ。
栄は拾ったボールを相手コートに返すと、そんな二人の肩をぽんぽんと叩いた。
「そんな硬くならんでも、大丈夫やって。むしろ硬くなったらあかんて。ジャンプサーブっちゅーんはエンドラインから打ってくるバックアタックみたいなもんや。リラックスして、足腰軽くして、とにかくボールの軌道に先回りすることを最優先にする」
小声で、早口に、栄は対症療法を授ける。
「キミらの身体能力なら、よっぽど変な体勢やない限り、ボールの勢いに負けることはあらへん。やから、サーブカットが成功するかどうかは、ボールに手が届く範囲まで、いかに速く辿り着けるかにかかっとる。リラックスせえっちゅーのはそういうこと。最初の反応、第一歩が鍵や」
まるで教科書を朗読するように、すらすらと紡がれる助言。
「ジャンプサーブはスパイクと同じで、強烈なドライブ回転が掛かっとる。やから、上に上げるだけなら、しっかり腕に当てさえすればええねん。オーバーなら思いっきり弾くことだけ考えればええ。簡単やろ?」
二人を落ち着けるように笑ってみせる栄。露木と今川は、栄の言葉を聞き漏らすまいと耳を傾けている。
その様子を見て、栄がやけに小声で早口なのはこのためか、と私は感心する。狼狽していたはずの二人が、栄の内緒話をするようなトーンにつられて、今は『話を聞く』という一つのことに集中している。
「ほんで、立ち位置やけど、二人とももうちょい真ん中に寄りー。サイドライン際はこの際捨てよ。っちゅーのは二つ理由があって、一つ目はジャンプサーブをたった二人で拾うなんてそもそも無茶やっちゅーこっち側の事情。
二つ目は、あっち側の事情や。普通、ジャンプサーブはコントロールより威力優先やねん。全力のジャンプサーブを狙ってライン際に決められる選手は全国レベルでもごく僅か。要するに『おらへん』。在原さんかて、今はコートのど真ん中に打ってきたやろ? たぶん次も大体同じコースに来る。ウチを信じて」
栄はおどけながらも自信たっぷりに言った。そして、ぴっ、と人差し指を立てる。
「最後に一つ。ジャンプサーブは、ドライブ回転や。ネット越えたら急激に『落ちる』から、落下点に入るときは思うてるより一歩前に出ること。オーケー?」
「「……オーケー」」
「ほな、気張ってー!」
仕上げとばかりに二人の背中を叩く。露木と今川は完全に調子を取り戻していた。
「おーう! 作戦会議は終わったかー?」
相手コートのサービスゾーンから、在原さんが煽るように言う。栄が「おかげ様でー」と返す。在原さんは威圧を込めて口元をつり上げた。
「悪いけど、触らせるつもりはねえぜ! こっちもこっちで――」
ちらっ、と鴨志田さんを見る在原さん。鴨志田さんは冷たく微笑んだ。
「ふふふっ、止水、わかってるわね……?」
「切羽詰まってるからな! 決めさせてもらうぜ!」
どうやら後がないのはあちらも同じみたいだった。たぶん、鴨志田さんと星賀さんは、ここで決まっても決まらなくても、ミニゲームを強制終了するつもりだ。
負けるか、痛み分けか――二つに一つ。次が運命を決めるラストプレー。
びぃ、と早鈴さんが笛を鳴らす。
先程と同じ位置に立つ在原さんは、大きく息を吐いて、大きく吸う。
そして、ざっ、と左手で高々とトスを上げた。
<バレーボール基礎知識>
・サービスエースについて
バレーで『サービスエース』と言う場合、一般的には『サーブで相手から得点する』ことを指します。
狭義では、相手のレシーバーが『触れて』得点に繋がった場合(後ろに弾いたり、触ったけど浮かなかったり)を、『サービスエース』と言います。
相手のレシーバーが『触れられず』にコートに決まった場合を、『ノータッチエース』と言います。




