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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第五章(明正学園) VS三坂総合高校
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25(志帆) 秒殺

 新入生チームVS試験官チームの三対三ミニゲームは終盤を迎えていた。


 スコア、6―5。


 先に王手を掛けたのは、新入生チーム。今川いまがわはやてさんのサーブから。かなり集中しているようだ。


「行きますっ!!」


 ばしっ、と気迫を込めて放たれたサーブは、小金井こがねい晶子しょうこさんのところへ。予想以上に伸びがあったらしく、レシーブを詰まらせる小金井さん。


「フォ、フォローお願いしますです!」


「お願いされました――っと」


 小金井さんのレシーブが乱れるのを見越していたのか、鴨志田かもしだ舞姫まきさんは余裕を持ってボールに追いついた。ただ、ボールはオーバーハンドできる高さまで上がっておらず、アンダーハンドでの繋ぎを余儀なくされる。


「行くわよ、止水しすい!」


 がっ、と鴨志田さんは、下から上へボールを巻き込むようなアンダーハンドで、少し回転をかけた二段トスをレフトに上げる。


 ちなみに、ボールに回転を加えることにはちゃんと理由がある。一般的に無回転のトスというのは、空中での挙動が安定せず、打ちにくいのだ。これはほぼ全ての球技に通じる物理もののことわりで、球体ボールを正確に制御コントロールするために回転スピンは必須なのである。


 この回転スピン。指先でボールで触れるオーバーハンドにおいては、意識すればさほど苦もなく掛けることができる。しかし、腕でボールに触れるアンダーハンドにおいては、多少の慣れがないと難しい。また、そもそもの大条件として、狙ったところにパスできる基礎技術がなければお話にならない。


 何気ないプレーだけれど、今みたいな小技を『何気なく』利かせられる点が、鴨志田さんのセッターとしての技量の高さを示している。


「ナイストスっす!!」


 そんな事実を口にした在原ありわら止水しすいさんが、力強く踏み込んで、大きく上体を反らして跳び上がり、


「止めるで露木つゆきさんっ!」


「もちろんよっ!」


 まるで破城槌はじょうついのように、


「おいおい誰が……っ!」




 ――ばぢんっ!!




 と、二枚ブロックを押し破った。


「誰を止めるって?」


 にいっ、と獰猛な笑みを浮かべる在原さん。


「まだまだ一年ルーキーに遅れを取るつもりはねえぜ、オレはよ!」


 ぐぬっ、と言葉に詰まる露木さんと今川さん。相変わらずなのはさかえ夕里ゆうりさんで「ままなりませんなー」と楽しそうに言ってボールを止水さんに返した。


 そんなやり取りを見届けつつスコアボードを捲った私は、試験官チームに向けて「あっ、そうそう遅れを取ると言えば」と切り出す。


「在原さんたち、時間は大丈夫ですか?」


「ん?」


「つまり、あまり試合が長引くと困りますよね?」


 私はスコアボードを示してみせる。現在、6―6。


 七点先取一セットマッチ。両者一歩も譲らぬ好勝負で6―6を迎えた現状、バレーのルールに従えば、ここから二連続得点したほうが勝ちのデュースに突入する。互いの力が拮抗している場合、理論上は無限に続けることも可能なデュースに。


「こちらとしては、文字通りの七点先取でゲームセットでも構いませんが、いかがです?」


「あー……」


 在原さんはまず鴨志田さんを見て、それから新入生チームを見て、しばし考えたのち、ぐるっと大きく腕を回してさっぱりと言った。


「いや、お気遣いは有難いっすけど、オレも大分あったまってきたんで、デュースでいいっすよ」


 っていうか――と在原さんは新入生チームの三人を鋭く睨めつけ、


「もう終わらせるんで」


 と自信たっぷりに宣言した。


 ……ほう?


 私は好奇心を抑えつつ、ちらりと鴨志田さんに視線を送る。鴨志田さんは、苦笑を隠すように口元に手をやって――在原さんの挑発的な言動に対してだろう――軽く頭を下げた。


 なるほど。どうやら、本気で終わらせるつもりで、終わらせることができると見込んでいるらしい。


 となると、考えられる手段はそう多くない。ここから在原さんが、最速で、確実に、独力で二連続得点を成すつもりなのだとすれば、その方法は、十中八九アレだろう。


 私はじっと在原さんの一挙手一投足を追う。サービスゾーンに向かった在原さんは、一周前とは立ち位置を変えてきた。エンドライン際ではなく、かなり距離を取って、壁際まで下がった。


 それが何を意味するのかは……まあ、見てのお楽しみだ。


 私は在原さんの発言に驚いて固まっていた早鈴はやすず知沙ちさに手を振ってみせた。知沙は少し慌てたように、びぃ、と笛を鳴らす。


 サービスゾーンの在原さんは、ふぅーっ、と大きく息を吐き、そして、すぅーっ、と大きく息を吸い込み、止めた。


 直後、ざっ、とボールを前方へと投げ上げる。


 コート外から見ている瀬戸せと希和きいなさんがはっと息を飲む。新入生チームのレシーバー――露木さんと今川さんの目がきゅっと大きくなる。


 一気に緊張感を増した体育館に、きゅ、きゅ、と在原さんが床を蹴る音が響き、ほどなく、


 ききゅっ、


 と在原さんがその身を宙に躍らせた。


「……ジャンプサーブ……!?」


 瀬戸さんが小さく呟く。正解。どう見てもジャンプサーブだった。




 ――ばんっ!




 大分あったまってきた、との自己申告は誇張ではなかった。全力全開ジャストミートのジャンプサーブが、露木さんと今川さんのちょうど間に容赦なく叩き込まれる。不意打ちに近い強襲に、二人は一歩も動けない。




 だんっ……!




 知沙が笛を鳴らしてからボールが床に落ちる――ここまで、僅か十数秒。


 まさに秒殺。もう一度同じ結果(サービスエース)を出せるなら、試合終了ゲームセットまであと一分も掛からない。


 スコアは、6―7。一転して、今度は試験官チームの王手マッチポイント


「おうっ! さっさとボール寄越せ、もう一本行くぜっ!!」


 サービスエースと同時にサービスゾーンに戻った在原さんは、そう言って景気良く手を叩いた。

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