20(希和) 身の程
コートの外に出て、私はほっと一息つく。バレーのメンバーチェンジは無制限じゃない。ベンチ・コート間を一往復した選手はそれ以上の移動ができなくなる。つまり、私がもう一度コートに投入されることはないってこと。
ここから先は見物しているだけでいい。気楽なもんだ。
「ありがとう、瀬戸さん」
だらっと突っ立っていると、スコアボードのほうから星賀志帆さんに話し掛けられた。なんのことですか、と私はとぼけてみせる。星賀さんは微笑んだ。
「君は謙虚なんだな」
「身の程は弁えていますので」
「それは……」
じっ、と星賀さんは私の目を覗き込んでくる。私はその視線から逃げるためにコートに向き直った。星賀さんはなかなか目を離してくれなかったが、露木凛々花にトスが上がると、星賀さんもそちらを見ないわけにはいかなかった。
「ほう……」
そんな呟きが横から聞こえる。
私は、はぁ、と小さく溜息。
今川颯の安定感のあるサーブカット。栄夕里の百点満点のオープントス。そしてフィニッシュは露木凛々花。
最初からその調子でやっとけよ……と、内心で毒づく。同時に、
ばんっ!
と、中学時代はコートの中で聞いた、息が止まるような打音。
「……ほう」
また星賀さんが呟く。先程は驚き、今度は喜びを滲ませて。
私のなんちゃって移動攻撃なんかとは比較にならない、騙しも騙りも皆無の一撃。
この場で最長身の西垣が抜けなかった二枚の壁を、真っ向勝負で上から打ち抜いた。
そう……これが米沢中のエース――〝薄明の英雄〟こと、露木凛々花の本領だ。
私の知る範囲、ここ数年の県庁地区で、間違いなく五本の指に入るアタッカー。
そして、その露木凛々花と肩を並べるアタッカー――千川中のエース、〝黎明の風雲〟こと今川颯が、今、同じコートにいる。
はらり、とスコアボードを更新する星賀さん。
現在、3―4。
「瀬戸さん」
「ん?」
唐突に話しかけてくる西垣芹亜。なんだ?
「瀬戸さん、なんだか、嬉しそう」
道端に綺麗な花を見つけた、みたいな笑みを浮かべて西垣が言う。私は顔を隠すように眉間を押さえた。
「……まあ、否定はしないわ」
そう。実際に喜ばしいことなのだ。あの二人が本来の実力を出してくれれば、万が一にもまた私にお鉢が回ってくることはないわけだからね。
「ふふっ……」
微笑われた。なんなのだ。なにが可笑しいのだ。
それから西垣は、かなりしばらくの間、一人でふふふと小さく笑っていた。




