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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第五章(明正学園) VS三坂総合高校
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14(知沙) 三対三

「それではこれより、明正めいじょう学園女子バレーボール部の入部試験を開始する!」


 スパイク練習を打ち切った志帆ちゃんは、まるでこれが予定通りの進行だとばかりに、高らかにそう宣言した。


「内容は、新入生チームVS試験官チームによる『三対三ミニゲーム』だ」


 そこで、試験官チームのセッターの人が予定調和な質問を挟む。


「三対三のルールは?」


「七点先取一セットマッチ。基本ルールは六人制と同じ。ただし、ローテーションは無し。前衛フロント後衛バックの区別はない。誰がどこから打ってもいいし、ポジション変更も自由、ブロックもゼロ枚から三枚まで可。サーブは事前に決めた順番に打つ。あと、制約が一つ」


 志帆ちゃんは人差し指を立てて、説明を続ける。


「『サーブ及びラストボールを相手コートのフロントゾーンに落としてはいけない』。言い方を変えれば、『ボールは必ず相手コートのバックゾーンに返す』。

 要するに、ブロッカーの真横に落とすフェイントみたいなのは禁止ということだ。三対三は守備側の人数が半分で攻撃側が有利だからね。

 もちろん、ソフトタッチで返すこと自体は禁止じゃない。落下点がバックゾーンであれば、フェイントやプッシュもアリだ」


「不可抗力でフロントゾーンに返してもうた場合はどうなりますかー?」


 今度の質問はさかえ夕里ゆうりさん。これもやっぱり予定調和で、志帆ちゃんは間をあけずに答える。


「不可抗力の場合は、フロントゾーンに落ちても良しとする。具体的には、レシーブやトスの乱れ、サーブのネットイン、ブロックのシャットアウトなどだ。この場合は、そのままプレーを続行する。不可抗力か否かの最終判断は私がしよう。

 理解してほしいのは、この三対三の基本理念が『なるべくラリーを続けること』だということ。だから、『ラリーを終わらせるため(得点するため)に不可抗力を装ってフロントゾーンに返す』、『チャンスボールとして処理できるのに落下点がフロントゾーンだから取らない』、みたいな真似は避けてほしい」


「あくまで練習の延長、っちゅーわけですね」


「そういうことだ」


「あっ、そのフロントゾーンのことっすけど、ワンタッチの場合はどうなるんすか?」


 追加の質問をしたのは、試験官チームで一番背が高い人。ノリノリで試験官役を引き受けた、目つきが恐くてスパイクの強い人だ。


「ワンタッチの場合は、自軍コート外ならどこに落ちても攻撃側の得点だ。その点は普通の六人制と変わらない」


「あざっす」


「他に質問がある人は?」


 誰も手を挙げない。志帆ちゃんはまた、ぱちんっ、と軽く手を叩く。


「じゃあ、諸々決めていこう。まずチームのスターティングメンバーだが、試験官チームはいいとして、新入生チームは誰が出る?」


「「はい!」」


 即座に手が挙がる。この場の誰よりも入部試験に燃えている二人――露木つゆき凛々花(りりか)さんと、今川いまがわはやてさんだ。


瀬戸せとさんはどないするん?」


「私は遠慮しとく。荷が重いわ」


 新入生の中では一番小柄(それでも私より10センチ以上高い)な瀬戸せと希和きいなさんは、闘争心を剥き出しにしている露木さんと今川さんを見て、ひょいっと肩を竦める。


「なんなら審判でもやりましょうか?」


「ありがとう、瀬戸さん。ただ、審判それについては上級生(私たち)に任せてほしい。主審は知沙。副審とスコアボード係は私がやる」


 志帆ちゃんが私に目配せする。私は頷く。


「あとは、西垣にしがきさんだな。君はどうする?」


「あっ……大丈夫です。見学してます。楽しいので」


 ほわあっ、と掴みどころのない笑みを浮かべる西垣にしがき芹亜せりあさん。彼女はずっとこんな調子で、初心者だということ以外、どういう子なのかまだいまいちよくわからない。


「では、新入生チームのスターティングメンバーは、露木さん、今川さん、栄さんに決まりだ。準備が整い次第、ゲームを始める。色々イレギュラーな点はあるけれど、これも何かの縁。皆さん、今日はよろしくお願いします」


「「よろしくお願いしますっ!」」


 直後、ぴりっ、と場の空気が変わる。


 例えば短距離走の『よーい』と『どん』のあいだ。余計な意識ものがすとんと抜け落ちる、あの感じに近い――ほんの一秒もない無音のに起きた、変化。


 互いに礼をして、顔を上げた時には既に、全員が各々気持ち(モード)の切り替えを終えていた。


 私はそういう切り替え(オンオフ)が得意ではないから、かえってみんなの変化がよくわかる。短距離走の喩えで言えば、私は今、『どん』で一斉に走り出したみんなの後ろ姿を、スタートラインに突っ立ってぼうっと見ているような状態。


 置いていかれた、と思う。


 こういうとき、鈍臭い自分がちょっとだけ嫌というか、漠然と不安を感じて、息が詰まりそうになる。


 そんな私の内心を察してか、志帆ちゃんは「用具室から必要なものを持ってきてくれ」と簡潔な指示を出す。私はそれに従って、とりあえず走り出す。


 用具室に入る前にちらっと振り返ると、志帆ちゃんは相手のセッターさんとサーブ権争い、他のメンバーは試合に備えて準備体操をしていた。


 いよいよ、三対三の試合が始まる。


 私は汗ばんだ手を握る。それから、ふと気になって時計を見上げた。現在時刻は10時22分。


 ……そう言えば、あれからナナちゃんと連絡は取れたのだろうか?

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