12(志帆) 整理
この辺りで、少し状況を整理してみようと思う。
今日は仮入部期間が始まって初の、明正学園女子バレーボール部の新歓イベント。
元々はお菓子パーティを計画していたが、遊び心で入部試験なる企画を追加してみた。
これが、どうやら予想以上に新入生のハートをキャッチしたらしく、やってきた五人のうち少なくとも三人はやる気満々の様子だった。
ただ、問題が二つほどあった。
一つ目は、何を隠そう、入部試験の試験官になってもらう予定の後輩が寝坊をしたらしく、未だ連絡が取れていないこと。
二つ目は、やる気満々の新入生のうち二人が、何やら因縁があるようで、入部試験を互いの入部を賭けた決戦の場としていること。
負けたほうはバレー部に入部しない――そんな約束が、二人の間で交わされているらしい。
これは非常に困るので(なにせその二人は共に170以上のウイングスパイカーなのだ。逃す手はない)、のちのち是正するつもりだ。
そんなわけで、ひとまず問題は棚上げにして、試験官こと七絵を待つ時間稼ぎがてら、何かレクリエーション的な準備運動でもしようかしらん、と考えていた、そのときである。
まったく予期しない闖入者が現れた。
人数は三人。それを、件の新入生二人が、私が「遅れている」と言った試験官だと勘違いした。
普通なら、すいません間違いました、で終わる話だったのだが、その闖入者のうち一人が随分と奇特な人物で、試験官を引き受けてくれることになった。
これには私も驚いたが……しかし、話を聞いてみれば、なかなかどうして、面白そうな展開である。少なくとも、私たち側にデメリットはない。
さて、大まかに状況の説明を終えたところで、次は登場人物の整理をしよう。
まずは、私。申し遅れたが、姓は星賀で、名前は志帆。逆から読んでも『ほしかしほ』。明正学園女子バレーボール部のキャプテンを務めている。学年は三年。身長は151センチで、現在体育館にいる面子の中では二番目に低い。
次に、同じく三年の、早鈴知沙。彼女は明正学園女子バレーボール部のマネージャー。学年は三年で、身長はこの場で最小の148センチ。体型は脱ぐとすごいタイプ。雨の日には大暴れするという天然パーマな焦げ茶の癖っ毛を耳の辺りで切り揃えている、チャーミングな女の子。私とは高一以来の友人だ。現在は、どんどんあらぬほうに転がっていく状況にあたふたしている。
私と知沙に、二年生の七絵を加えた三人が、今の正式な明正学園女子バレーボール部のメンバー。去年の三年生が引退してからどのように活動してきたのかは、ここでは割愛する。
続いて、新入生候補の紹介といこう。
一人目は、露木凛々花さん。170以上の長身を誇り、レフトのウイングスパイカーをしていたという超大型新人。
二人目は、今川颯さん。身長は露木さんとほぼ同じ。ポジションも同じ。こちらも是が非でもほしい超大型新人だ。
が、困ったことに、露木さんと今川さんは、高校入学以前の知り合いのようで、見るからに犬猿の仲だった。
米沢中と千川中で、エースだったろう二人のウイングスパイカー。どちらもこの県庁地区の中学なので、大会で二人が相見えていたのはほぼ間違いない。恐らくはそこで一悶着あったのだろうが……今のところ、詳細は不明。
この露木さんと今川さんが、互いの入部を賭けて、入部試験に挑もうとしている。
そして、その仲裁というか、仲介というか、二人と同じクラスになった縁で間を取り持っているのが、三人目の新入生――栄夕里さん。
身長は160半ば。隣の県から来て、バレーは小学生のときからやっているという彼女。髪はショートカットでチョコレート色。その前髪の左側に結んだ赤いリボンが目を引く、キュートな女の子だ。
この子もこの子で、なにやら一癖も二癖もありそうな感じである。これは直感だが、この子はかなりデキる。滲み出る風格が他の新入生とは別次元なのだ。
露木さんと今川さんとは違う方向、概ねこちらの意図に沿う方向で、入部試験にやる気満々の子。
彼女はきっと、ポスターの煽り文句を読んで、にやりと笑みを浮かべたに違いない。
史上最難関と豪語した此度の入部試験を、楽々突破する自信に満ち満ちている――それだけの実力を秘めている、と思われる子。
が、今のところは、ごく普通の、明るくて素直な子、という感じだ。
以上が、入部試験に積極的な新入生。
残るは、まだ探りを入れている段階なのか、ここまでは大人しくしている二人。
四人目、瀬戸希和さん。バレーは小学校からで、県庁地区では名の知れた強豪である和田中の出身。身長は160で、新入生の中では一番低いが、それでも高校女子の平均は越えている。口ぶりからすると、和田中でレギュラーだったようだ。
身長と経歴からして、県庁地区一位の明星学園でも十分期待の新人として歓迎されるだろう選手。今日は経験者だからとりあえずバレー部に来てみて、入るかどうかは雰囲気次第、といったスタンスだと思われる。露木さんと今川さんとは、たぶん地区大会で面識があるのだろう、二人を見る顔に『なんでこいつらが揃って明正に?』と書いてあった。
最後に、五人目。西垣芹亜さん。現在体育館にいる面子の中では最も背が高い子で、170半ば。バレーは初めてらしい。
ただ、消去法で考えて、彼女は『挑戦券』を入学式の日に千切った四人のうちの一人なので(残る三人は言わずもがな、露木さん、今川さん、栄さんだ)、マイペースな言動からはわかりにくいが、瀬戸さんに比べるとやる気なのだと思われる。きっかけは不明だが、既にバレー部への入部を決意している風でもある。素直に喜ばしいことだ。できる限りその心意気に応えて持て成したい所存である。
さてさて。
まだ紹介していないのは、闖入者の三人。彼女たちの出現に知沙はかなり狼狽していたが、初対面という意味では新入生たちとそう大差ないので、私はもう彼女たちを受け容れつつある。
曰く、三坂総合高校女子バレーボール部部員。
今日は、県庁地区一位の明星学園高校で、中央地区二位の大田第二高校も交えた三校合同の練習試合をする予定だという、彼女たち。
なんでも、全体の集合時間に遅刻してしまい、他の部員とは別行動で明星学園を目指していたはずが、高校名を勘違いしてこの明正学園に来てしまった、という事情らしい。
聞けば、三人は、三坂総合女子バレーボール部のスターティングメンバーだという。
三坂と言えば、確か、西地区の地名だ。県庁地区一位の明星学園、中央地区二位の大田第二と練習試合を組むくらいだから、当然地区代表級の有力校だろう。言われてみれば、新人戦の県大会を見に行ったときに、トーナメント表で名前を見かけた気もする。
そんな三人が、成り行きで、入部試験の試験官を代行してくれることとなった。
真っ先に乗り気になったのは、三人の中で最も長身の、在原止水さん。グレーアッシュのベリーショートに、少し落ち窪んだ虚ろな目が特徴的。黙っていると湿った暗がりが似合いそうなホラーフェイスだが、口を開けば性格は真逆でさっぱりと明るいことがわかる。彼女は二年生とのことだが、体格や雰囲気からして三坂総合の主砲だと思われる。
その在原さんに賛同する形で快く協力してくれたのは、三年生の、鴨志田舞姫さん。艶のある黒髪を緩い三つ編みで一つに束ね、それを右肩に流している。身長は栄さんと同じくらいで、160半ば。時折見せるコケティッシュな微笑が魅力的だ。如才なく落ち着いた振る舞いから、ポジションはセッターだと私は睨んでいる。
三人目は、二人に流されてなし崩し的にこの場に残った、二年生の小金井晶子さん。飴色のショートカットにすっきりとした顔立ちから垢抜けて見えるが、ところどころ撥ねた寝癖やころころとよく動く表情のせい(おかげ?)で、愛嬌のある子犬みたいな印象を受ける。在原さんと並ぶと小さく見えるが、身長は160後半。一般的に長身といって差し支えない選手だろう。
三人のうち、在原さんと小金井さんの二人が先に更衣室から出てきて、アップを始めた。新入生たちがいるほうとは、ネットを挟んで反対側のコートで、軽い準備運動をしてからすぐにパスをし始める。
自然と、新入生側でもボールを使ったアップが始まった。露木さんと栄さん、今川さんと瀬戸さんというペア。予定を前倒しして入部試験を始めることになってしまったので、初心者の西垣さんには、知沙と歓談(というほど会話が弾んでいるわけではない。西垣さんは知沙の渡した五号球や、コートで練習をする他のメンバーに夢中のようだった)してもらっている。
私はというと、遅れて更衣室から出てきた年長の鴨志田さんを呼び止め、軽い打ち合わせを兼ねて雑談をしていた。三坂総合サイドの諸々の事情は彼女から聞いたことだ(ちなみに、私の予想通り、鴨志田さんはセッターだった)。
「練習試合のほうは、急がなくてよろしいのですか?」
「場所を間違えてしまった時点で、大遅刻は免れませんでしたから。今から明星学園に向かっても、もう練習試合の一セット目が始まっているでしょう。急がば回れ……とは少し違うかもしれませんが、こちらで身体と気持ちを高めてから駆けつけたほうが、より良いコンディションで練習試合に臨めるように思えたので」
鴨志田さんは足や腕の筋を伸ばしながら、丁寧にそう言った。
「監督やキャプテンがよく了承してくれましたね」
「うちの止水が『走り過ぎる』のは、今に始まったことではありませんからね。諦め半分という感じです。それに――」
「それに?」
ふふっ、と鴨志田さんは艶やかに微笑む。
「アタッカーの調子を整えるのも、セッターの大事な仕事だと、私は考えていますので」
「……素晴らしい心掛けですね」
私も微笑を返す。そこで、鴨志田さんは、ふと新入生たちのほうに視線を移した。
「それにしても、県庁地区は明星学園一強という印象でしたが、こちらも随分と精鋭が揃っているようにお見受けします」
私は謙遜するように肩を竦めた。
「彼女たちはみんな新入生。今はまだ仮入部期間なので、どうなるかはわかりません」
そう――今はまだ、だ。
鴨志田さんは目を細め、探るような視線を私に向ける。そして、また、ふふっ、と微笑んだ。
「明正学園……覚えておきますね」
そう言うと、鴨志田さんは一礼して私の元を去り、在原さんと小金井さんのところへと走っていった。




