11(晶子) 場違い
待てと言われて待つやつではないことは重々承知しているが、それでも『待て』と言うのはアリバイ作りみたいなものだと思う。ボクは『待て』って言ったんですけど、と言い訳するための。
というわけで、いつものように一人先走って体育館に突撃した止水。
ボクと舞姫先輩はその後に数十秒ほど遅れ(結局ボクたちも走った)、体育館の入り口に立った。
止水はなぜか入り口で固まっていた(早く中に入れよ)。ボクは止水の大きな背中越しに中を覗く。
「…………」
あっ、これ、たぶんやっちゃったやつだ。
ボクは頬が引き攣るのを感じる。
校舎に比べると若干古ぼけている、コートが一面しか取れない小さな体育館。そこにバレーのネットが張ってあるのは、まあいい。でも、練習試合のはずなのに審判台もベンチもスコアボードも用意されていない。そして三校合同のはずがコートの中にいる選手は七人だけ。何より、『先にアップしてる』はずの味方の姿がどこにもない。
真っ先に思い浮かんだ単語は、場違い。
何か重大な間違いをやらかしたのだと、ボクは一瞬で理解した。
「おい、どうなってんだ、晶子? 本当にここはメイセイ学園なのか?」
「道は合ってるはずです……だって辿り着いたですから」
「晶子、ちょっと地図見せてね」
舞姫先輩はボクの隣に身を寄せてくる。ボクは携帯の画面(地図)をズームして、現在位置を指差す。
赤い三角は、確かに『私立明正学園高校』を示していた。
「あー……なるほどねぇ」
舞姫先輩はそう言って苦笑した。
「舞姫さん、何かわかったっすか?」
「うん。結論から言うと、私たち、来る場所間違えてる」
「そんな!? だって、ここ、ほら、メイセイ学園って表示出てるですよ?」
「それなんだけどね……私の記憶だと、県庁地区一位のメイセイ学園って、『明るい星』って書くのよ」
「え……?」
「ちょっと失礼」
言うと、舞姫さんはボクの携帯にすらりと長い指を這わせ、地図の縮尺を下げる。それから画面の中心を桜田駅に戻し、ボクたちがいる場所とはちょうど線路の反対側に位置する、とある地点をズームした。
そこには、『私立明星学園高校』の表示。
「うん。たぶんね、正解はこっちなの」
「え……っ!? だって、これ、ミョウジョウ学園じゃ――」
ボクは学校名に触れて公式のウェブページへ飛ぶ。
明星学園――スペルは『MEISEI』だった。
さらに、明正学園も調べてみる。こちらのスペルは『MEIJO』だった。
「なんてこったです……すいません」
ボクは膝から崩れ落ちるまではしないけどがっくりと肩を落とした。
「これは間違えても仕方ないわよ。急いでいて確認を怠った私も悪かったわ」
「んー、要するに、ここはメイセイ学園じゃないんだな?」
「そういうことになるです……」
ああ……今日はやらかしてばっかりだ。目覚ましは掛け忘れるし、対戦校の名前は間違えるし。
「まあ、漣には私からうまく言っておくから、ひとまず駅に」
「「あのっ!!」」
急に掛けられた二つの声に、ボクと止水と舞姫先輩は揃って振り向く。
恐らくは、明正学園のバレー部員だと思われる、髪の長い二人の女子。
背は……うお、かなり高い。止水と並ぶほどだ。そんな二人が、鼻息も荒くボクたちの前に立っていた。
そう言えば、こちらが勝手に乱入した形だったのに、何の説明もせず先方を放置していた。
まさか揉め事に発展するのでは――と、ボクたち三人に緊張が走った、次の瞬間、
「「試験官の方ですか!?」」
完膚なきまでにわけのわからないことを言われた。
ボクと止水と舞姫先輩は目を見合わせる。そして数秒の沈黙ののち、止水が髪の長い二人のほうに向き直って、言い放った。
「そうだっ!!」
ほええっ!? 何言ってるですかお前!?
「「よろしくお願いします!」」
「おうっ! よろしくな!」
ちょいちょいちょい止水!?
髪の長い二人に促されるまま、明正学園の体育館の中に踏み込んでいく止水。あまりのことに『待て』と言うことすらできない。ボクは舞姫先輩にヘルプの視線を送る。が、舞姫先輩は、苦笑して肩を竦めるだけだった。
えっ、まさか止めないつもりですか、舞姫先輩!?
ボクがおろおろしている間に、止水は堂々と明正学園バレー部と思しき七人の輪の中に加わっていた。そして、恐らくキャプテンだと思われる小柄な人と何かの話をつけて、小走りにボクと舞姫先輩のところに戻ってくる。
「更衣室、こっちだそうです。話は着替えながらするんで、とりあえず中に入る感じで」
「ちょ、ちょっと待てです、止水! 理解が追いつかないですから!!」
ボクがそう言うと、止水はにっと歯を見せて笑い、ぽんっ、とボクの肩を叩いた。
「人生に新たな出会いはつきものだ。加速していこうぜ!」
「いや意味わからないですよ!? ってか舞姫先輩も止めてくださいですよ!!」
「まあ、止水の言うことにも一理あるわ」
「えええっ!?」
困惑するボクを余所に、外履きを脱いで体育館に上がる舞姫先輩。止水一人ならともかく、舞姫先輩までもがゴーの意思表示をした以上、ボクに二人を止められるはずもない。
ああっ、もう、どうにでもなれです!!




