8(七絵) 明晰夢
浅い眠いの中で見る夢は、明晰夢になりやすい。
今回のも、そうだった。
これは、夢。
私は試合中だった。バレーボールの試合。私はネット際にいて、私に返ってきたボールを追いながら、落下点に入るところだった。
さてどこに上げよう――。
私は考える。
実際の試合ならば、最も得点する可能性の大きなところに上げるべきだ。
しかし、これは、現実の試合じゃない。夢の中の試合。
となれば、上げたいところに上げるのがいいだろう。
とんっ、
と軽くジャンプしてボールを捉え、背後にバックトス。
振り返ると、彼女が飛び上がっていた。
彼女の背中には、白い、天使の翼が生えていた。
翼の生えた彼女は、
重力に縛られることなく空中に留まり、
しなやかで柔らかなその肢体をぐっと逸らせ、
一番高いところで、力いっぱい、ボールを叩くのだ。
ばちんっ!
聞き慣れた音。
聞き惚れた音。
一番近くで、一番長く、私はあの音に耳を澄ませてきた。
トスを上げれば上げた分だけ、いつだって、彼女は決めてくれた。
私は何度も同じところにトスを送る。
そして、ブロックフォローにも入らず、ただその打音を聴く。
夢の中だからできること。
ばちんっ!
ばちんっ!
ぴろぴろ!
……ん?
なんか今、変な音が混ざっていなかったか?
ばちんっ!
ばちんっ!
ぴろぴろ!
ばちんっ!
おかしい……なんで試合中なのに、携帯の着信音が鳴っているんだろう。
ああ、そうか。
これは、夢だから。
ん? 夢……?
――ぱちり。
目を開けた。
身体を覆う布団と、柔らかい枕の感触、見慣れた天井。
重い頭をのろのろと動かして、ベッドサイドの目覚まし時計(誰が止めたのか――まあ消去法で私なのだけれど――目覚まし機能は既にオフになっている)を見る。
現在時刻は、9時32分。
時計の横には、携帯電話。設定時間いっぱいまで音を鳴らし切り、それでも気付かない持ち主のため、いまだ着信を伝えようと健気に明滅している。
私は頭を押さえる。
…………やってしまった。
登場人物の平均身長(第五章):167.0cm




