6(凛々花) 辟易
四月。
私立明正学園高校入学式、後日。
突然だが、あたしには、どうしても倒さなければいけない敵がいる。
今川颯。
あいつに受けた屈辱は、高校で十倍にして返す。
その決意を胸に秘め、ここ、明正学園へと入学したあたしは、てっきり明星学園に行くものと思っていた今川颯と、同じ学び舎に通うことになってしまった。
ばかりか、同じクラスになってしまった。
あげく、あのときコンビニの前に放置したママが、同じく置いてきぼりを食らった今川颯の父親と、連絡先を交換して、あまつさえ食事の約束までする仲になっていた。
そして、今。
あたしは、一連の成り行きを話したクラスメートに、大笑いされていた。
「あっはっは! それで昇降口まで競歩したん? あほやろ、キミら!」
お腹を抱えて笑い転げているのは、栄とかいうクラスメイト。
チョコレート色のショートカットに、取ってつけたような赤いリボン。愛嬌のある顔立ちに違わず、人懐っこい性格の女の子。
まったく知り合いでもなんでもなかったが、あの最悪の入学式の明くる日に、隣の席にいた彼女からあたしに声を掛けてきたのだ。
なんでも、彼女もあのときあのコンビニにいて、あたしと今川颯のやり取りを店内から眺めていたらしい。
「いやー、せやけど、それで納得したわ」
栄は涙を拭って、邪気のない笑みを見せる。
「不思議やったんよー。入学式の帰りに真っ先に立ち寄ったはずやのに、なんでもう二枚もちぎられとるんやろって」
「……どういうこと?」
「どうもこうも」
栄はポケットから生徒手帳を取り出して、中を開いてみせる。透明なカバーの折り返しのところに、あたしが持っているものと同じ紙切れが収められていた。
「ウチも『挑戦者』の一人や。仲良くしてやー」
栄はそう言うと、席を立って窓際へ向かう。
「ほな、今川さんにも挨拶してこよー」
「必要ないわよ。勝負に負けたほうは入部しない約束なんだから」
「それはそれ、これはこれや。ウチ、ここにはまだ知り合いおらへんのやもん。友達は多いほうがええやろー?」
「ん? あんた、この辺の出身じゃないの?」
「せやでー。隣の県から来てん」
「ふーん……ま、こちらこそ、よろしくね」
「よろしゅー」
それから、栄はあたしと今川颯の間を行ったり来たりするようになった。一度などは、三人でお弁当を食べようと言い出した。それだけは嫌だ、とあたしは断った。今川颯も同じことを言ったらしい。
それでいい。馴れ合うつもりはない。あたしがあいつに心を許すことなんてありえない。正直、顔を見るのだって嫌なのだ。
あの時のことを思い出すたびに、あたしは震えるほどの怒りを覚える。
今川颯だけは……許さない。
ただ、もちろん、あたしと今川颯以外は何も事情を知らない。話す気にもなれない。しかし、困ったことに、栄が挑戦者のよしみとか言ってあたしと今川颯の間を行き来するせいで、周りの女子も面白がってあたしと今川颯を引き合わせようとするのだった。
あたしとあいつは敵同士。たとえ同じ学校に通うことになっても、同じ教室で学ぶことになっても、相容れないものは相容れない。なのに周りはこぞって「仲良くしなよ」と囃し立ててくる。これにはさすがに辟易してしまった。
……けど、それもこれも、入部試験で決着をつければ、終わるはず。
否、終わらせるんだ。
あたしは決意をより強くして、入学してしばらくの間の、何かと落ち着かない日々を過ごした。
そして、ついに、その日はやってきた。




