5(希和) 経験者
四月。
私立明正学園高校入学式、当日。
桜田駅西口を出たあと、何の気なしに立ち寄ったコンビニの入口で、同じ制服を着た女子(制服がぱりっとしていたので、たぶん同じ新入生)とすれ違った。彼女は胸に一冊の雑誌を抱えていた。いかにも大事そうに。
その女子はやたらと背が高く、ちょうど雑誌のタイトルが私の目線の高さにあって、そんなつもりはなかったんだけれど、何を買ったのか盗み見てしまった。
思わず、「えっ」と驚きの声を上げてしまいそうになる。
なんで入学式の日の朝にコンビニで『月刊バレーボール』なんて買ってるの、こいつ?
その女子は、私の訝りの視線には気付かず、そのまま小走りにどこかへ走り去っていった。
……バレーボール経験者、なのだろうか?
一応、私も、実体はどうあれ、ぱっと見で『月刊バレーボール』を『月刊バレーボール』だと認識できるくらいのバレーボーラーではある。小・中と続けてきて、県大会に出たこともある。
ただ、この県庁地区のタメに、あんな女子はいなかった。あんな背の高いヤツがいたら確実に覚えている。地区大会に参加する中学の数もそこまで多いわけじゃないから、見逃していたとも思えない。
下手すると、『あの二人』より高いんじゃないか……?
考えられるのは、他地区から来た選手、ってとこかな。やっぱりバレー部に入るつもりなんだろうか。意識高い系のヤツだとちょっと面倒だけど……いや、でも、この地区でガチなのは明星だけって聞くし、そこまでキツいことにはならないよな。
というか、それを言うなら、この地区の高校って時点で、バレー部のレベルは知れているのだ。
県大会で一回戦を突破すれば奇跡――それが、この県庁地区のバレー水準。
こちとら小学生の頃からやってるし、中学の頃みたいにほどほどでやっておけば、文句は言われないだろう。
コンビニで飲み物を買った私は、周りを歩く同じ制服の集団に紛れて、学校を目指し、やがて正門に辿り着く。
明正学園は新設校というわけではないが、私立だけあって外観はそれなりに綺麗だ。
案内によると、入学式が行われるのは、最近新築したという第二体育館。人の流れに乗って、体育館の入口の受付まで辿り着く。ロビーで上級生の女の人から資料を受け取って、体育館の中へ。
と、そのとき。
一人の上級生とすれ違った。
さらさらとしたセミショートの黒髪を揺らしながら、早足で受付のほうへ向かう、小柄な女の人。
気付くと、私は、見えない糸に引かれるように、振り返っていた。
女の人は受付の人と何かのやり取りをしていた。たぶん生徒会関連の役員なのだろう。
ぼうっと見ていると、女の人は、ふと私の視線に気付いてこちらを向いた。そして、愛想よく微笑みを返した。
私はなんだか気恥ずかしくなって、ぎこちなく会釈し、逃げるように体育館の中へ入っていく。
にしても……なんかどこかで見たことがあるような人だったな。
整然と並んだパイプ椅子の間を歩きながら、私は首をひねる。
が、なかなかそれらしい人物がヒットしない。
「……ま、いっか」
指定された区画に辿り着いたのを区切りに、私は思い出すのを諦めて、空いている一席に落ち着いた。
このとき、もっと根気よく記憶を浚っていれば――と、のちのちの私は溜息をつくことになる。
この時点で彼女が誰なのか気付いていれば、たぶん、私の高校生活は、もっと別の形になっていた。
それは、間違いない。
登場人物の平均身長(第五章):165.0cm




