3(颯) 波乱
四月。
私立明正学園高校入学式、当日。
突然だが、わたしには、どうしても倒さなければいけない敵がいる。
露木凛々花。
ヤツに受けた屈辱は、高校で十倍にして返す。
その決意を胸に秘め、真新しい制服に身を包んだわたしは、桜田駅へと降り立った。
県庁所在地・桜田市の片隅に住むわたしにとっては、一駅隣の勝手知ったる駅構内。だが、高校の制服を来ている今は、見慣れた景色もなんだか新鮮に感じる。
中央改札を降りて、西口へ向かう。途中、わたしは立ち止まって、反対側の東口を振り返った。
「どうした? もしかして……いまさら明星に行きたくなったのか?」
抑揚の少ない低い声でそう言ったのは、隣に立つわたしのパパ――今川立志。今日はわたしの入学式に出席するため、仕事は有給でお休み。いつもの地味なスーツではなく、そこそこ洒落たスーツを着ている。
「そんなんじゃないよ。明正の制服、好きだし」
わたしは余計な誤解を招かないよう、すっぱりとそう言って、歩き出す。
進路を決めたときにも、パパは似たようなことを言った。「明星じゃなくていいのか」と。
明正学園と明星学園は色々あって現在はライバル校的な関係なのだが、ことバレーに関しては、明星のほうが圧倒的に強い。この県庁地区でバレーをしたい子は、みんな桜田駅の東側にある私立明星学園高校に行くのだ。
わたしは、そこを敢えて、西側の私立明正学園高校に行くことを選んだ。
露木凛々花を、敵として倒すため。
何につけても『一番』が好きなヤツのことだ、高校は明星に行くに決まってる。そしてヤツのことだ、どうせすぐにレギュラーになる。地区ナンバー1の高校でレギュラーになり、有頂天のヤツ。それを、わたしが完膚なきまでに叩き潰す。
……ふっ、我ながら完璧な計画だ。
ただし、わたしの進路決めに露木凛々花が関わっていることは、パパには言っていない。なので、時々、今みたいに心配されてしまう。
「けど、颯、露木さんとバレーしたかったんじゃないのか?」
「ちがっ――! 誰があんなヤツと!」
ちなみに、パパは露木凛々花のことを知っている。わたしがうっかり話に出したり、地区大会を見にきたりしているからだ。そのせいでさらに余計な混乱を招いている。
「もうっ、今日は晴の入学式なんだから! あんなヤツのことなんか思い出させないで!」
「そ、そうか……」
「ほら、コンビニ寄るよ」
かつかつ、とパパを置き去りにしてコンビニに向かうわたし。お店の前に着く。来客を告げる電子音に合わせて開く自動ドア。すると、中から同じ明正の制服を着た生徒が現れた。
わたしと同じくらいの身長の女子。なかなか珍しい。顔が目の前にある。なんだかどこかで見た顔だな……。
って、露木凛々花!?
わたしが気付くと同時に、あちらもわたしに気付いた。ヤツの吊り目がみるみる大きくなる。
「「なんでお前(あんた)がここに!? というか、その制服!! なんで明星じゃないんだ(の)よ!?」」
わたしたちはそう叫ぶと、ぎろっ、と睨み合った。そして、互いを無視して、かつっ、と学校へ歩き出す。
「お、おい、颯!?」
「凛々花! どうしたの!?」
パパと知らない女の人がわたしたちに呼び掛けるが、そんな制止は耳に入らない。わたしと露木凛々花は桜田駅前の大通りを猛然と歩く。いつの間にかどっちが先に学校に着くかみたいな流れになっていた。流れになってしまったものは仕方ない。それがなんであれ、こいつとの勝負には負けられない。
そして、気付けば昇降口。
新入生は直接第二体育館へ集合、という案内板が出ていた気がするが、最後のほうはダッシュになっていたのでその時には目に入らなかった。正門をくぐったのは同時だったので、ひとまず手近な昇降口へとラストスパートを掛けたのだ。
開いていたドアから、文字通り転がり込むように校内へ入るわたしたち。
はあはあ、とすっかり息が上がっていた。周りの上級生からは奇異の目で見られている。
――ふと、
正面の掲示板に貼ってある、とあるポスターが目に入った。他のポスターに比べて異彩を放っていたそれは、よくよく見てみると女子バレーボール部のポスターで、しかも、『挑戦者求ム!』などとアグレッシブな文言が書かれていた。
わたしと露木凛々花は目を合わせる。そしてポスターの前に行き、その内容を一読したのち、即座にポスター下部に暖簾みたいに引っ付いていた『挑戦券』をちぎり取った。
「この入部試験で決着をつけようじゃない、今川颯ッ!」
「そうだな……露木凛々花。試験に落ちたほうは、バレー部に入らないってのはどうだ?」
「上等よ!」
「決まりだな!」
かくして、わたしの高校生活は、波乱の幕開けとなった。
登場人物の平均身長(第五章):164.4cm




