127(胡桃) そこはかとなく詮索されたくない事情がありそうな雰囲気
ブロック大会北地区予選。
その偵察の、帰り道。
試合後に駅前のファミレスに寄ってだべったわたしたちは、日が暮れて少し経ったくらいで解散。その場で万智と静と由紀恵と別れ、そして先程、反対側のホームを発った電車――ひかりと透と音々と梨衣菜を乗せた車両――を見送って、今は、実花と二人きり。
「……ありがとね、実花」
「ひかりんのことですか?」
「そう。さすがに驚きが大きくて、気が回らなかった。名前も出身中学も知っていたのに……本当、なんで今まで気付かなかったんだろう」
「実際に口にしてみないと気付かないことって、ありますよね!」
「そうだね。うん」
わたしはマル秘ノートの当該ページを思い浮かべる。
五年連続県代表――法栄大附属立華高校、三年、リベロ。
その『彼女』と、出身中学、苗字、名前の最初と最後の文字、そしてポジションまで同じ、わたしの後輩、三園ひかり。
二人が姉妹であることは、情報を並べてみれば明らか。
そう言えば、静が最初にひかりの自己紹介を聞いたとき、やたら驚いていたっけ。『玉中の三園』――そっか、静は知っていたのか。
「このこと……実花はいつ知ったの?」
「音成女子と練習試合したときですよ。ゲーム後のクールダウンで、まりちか先輩とお話して、その中で話題が挙がりました。一緒にひかりんもいたので、名前が出てきたときに『あれ?』ってなって」
「そんな話をしてたのね……」
「ひかりんは、特に隠すつもりもないみたいでした。お姉さんとまりちか先輩の組んだ試合を見た、なんて話もしてました。でも、そこはかとなく詮索されたくない事情がありそうな雰囲気だったので、それ以上は何も聞いてません」
「まあ、わたしは一人っ子だからよくわからないけれど、姉妹というのは複雑なものみたいよね。けど……そう、選りにも選って『彼女』の妹か……」
避けて通れる人物ではない。
どころか、この県でバレーをやる限り、全ての道は彼女に通じているといっていい。
「……とりあえず、ひかりと個人的に話をしてみる。できれば、目標決めまでに。遅くとも再来週まで。ブロック大会県予選――希望を募って偵察に行くつもりだったから。そこで県一位の法栄大立華の話をしないわけにはいかないし」
「私もそれがいいと思いますっ!」
と、そこで、わたしたちの前に電車が来た。
わたしと実花は電車に乗り込む。車内の何人かがこちらを見る。原因はたぶん実花の持っているバレーボールだ。試合会場ではありふれていたが、電車の中では物珍しい。
「ほんと、ひかりのこと、ありがとね」
「いえいえっ。大したことではないですよ!」
実花は、ぶいっ、とピースする。わたしは苦笑して、少し、口が滑る。
「そう言えば、あなたも――」
「はい?」
わたしは実花を見つめる。無邪気そうに、にこにこと笑っている実花を。
「……ううん、なんでもない」
そこはかとなく詮索されたくない事情がありそうな雰囲気……ね。
わたしは首を振って、余計な考えを頭の隅に追いやる。
「ところで、館商、戦ったらどうなると思う?」
「うーん、やっぱりとーるう次第ですかねー」
「そっか。透は……あの子も、やっぱり色々あるみたい。中学時代の先輩とも、ひかりや音々とは反応が違って見えた」
「まっ、いざとなったら、とーるうの頭の中をひかりんでいっぱいにしてしまえばいいんです!」
「なるほどね。それはいい考え」
ツボに入ったわたしは、くっくっと忍び笑いする。実花はにこにこしながら言った。
「大丈夫です! きっと、なんとかなりますよ! 北地区予選も、その先もっ!」
「……頼もしいね、あなたは、本当に」
「えへへっ! それほどでも! ぶいっ!」
やがて、電車が城上駅に到着する。
そこから、わたしは自転車の停めてある学校へ、実花は家のあるほうへと、走って帰っていった。
ご覧いただきありがとうございます。AT石館商業高校編はこれにてひと区切りです。
次章からは舞台が変わりまして、別の高校の話になります。
内容的にはスピンオフに近いので、本編のストーリーを追いたいという方は、お手数ですが『目次』に戻って『第八章』へお飛び下さい。




