126(月美) ブロック大会中央地区予選
ブロック大会中央地区予選。
大会は、新人戦同様、わたしたち南五和高校の優勝で終わった。
決勝の相手は、こちらも新人戦同様、大田第二高校。
大田第二は、立地的にわたしや珠衣の元チームメイトである大田第一中学出身者が多いところだ。
なので、大田第二と決勝戦をした後はいつも、閉会式が始まるまでの僅かな時間に、大田一中出身者はどちらともなく集まってお喋りをする流れになる。
「またやられたわ。っていうか、なんかローテ変えた?」
さっぱりと笑ってそう言ったのは、高天原遊。わたしと同期で、大田一中時代のキャプテン。大田第二でも同様にキャプテンを務めている。
「変えた。知人にこっちのほうがいいって言われて」
その知人というのは、城上女子の立沢胡桃のこと。『言われた』のは、正確にはわたしではなく可那だ。あの練習試合の直後に『あなたたちはローテを変えたほうがいい』という旨のメールが届いた。ささやかながら、市川静の件の謝礼ってことらしい。
「有能な知り合いみたいね。新人戦より安定してたと思う」
「実戦はこの大会が初だったんだけどね」
「えっ、そうなの?」
遊は目を丸くして、それから、ぷっ、と吹き出した。「つまり新しいローテの試運転にこの地区大会を利用したのね?」的なニュアンスの苦笑だと思われる。
「じゃあ……県大会は期待していいの?」
ここで「任せて」なんて言えるわたしではないので、隣で同じく元チームメイトとお喋りしてる後輩に質問を反射してみた。
「県大会は期待していいの、珠衣?」
「モッチですよっ!! だって珠衣がいるんですから!!」
「よっ! さすが珠衣ちゃ、頼もっし!」
どんと胸を叩いた珠衣に合いの手を打ったのは、二年生の日比谷まもり。150(可那)に届かない小柄な子で、大田第二の正リベロを務めている。
「調子乗ってベスト8落ちしたら許さないわよ」
腕組みしたままそう言ったのは、同じく二年生の国木田弥子。言葉やポーズこそ高圧的だが、口調に毒気はなく、面白半分に揶揄っているだけなのがわかる(ここにいる大田一中出身者で珠衣の実力に疑いを持つ者などいるはずもない)。
弥子のポジションはセッター。稀有な才能を持ち、大田第二の変則ローテを支えている。
「……応援してるから、珠衣ちゃん」
親しい者が見なければ無表情と区別がつかないくらい控え目に微笑んでそう言ったのは、矢野十稀子。
とてももの静かで大人しい子だが、身長は175で、県内では信乃や法栄大立華の天久保純に次ぐ県内屈指の左として有名だ。当然、大田第二のエースアタッカーでもある。
「ベスト8入りも大事だけど、実際のとこ、四強に行く気はどれくらいあるの?」(遊)
「うーん……今のところは何」(わたし)
「音成女子にだけは何が何でも勝ちますよ!」(珠衣)
「珠衣ちゃはホンっト芽衣先輩が好きだね!」(まもり)
「好きとか嫌いとかいう問題じゃなくて!」(珠衣)
「……ふふっ……」(十稀子)
「あんたが芽衣さんを抑えるとして……あの県内最高の左がどれだけ怪物に張り合えるかよね」(弥子)
「信乃と鞠川千嘉かぁ」(わたし)
「今日の感じだと、かなりいい線行きそうに思えるけれど?」(遊)
「うーん……」(わたし)
「ねえ、珠衣ちゃ、成女のリベロってあの潮一中の人だよね? 抜けるの?」(まもり)
「抜ける抜けないじゃない! ぶち抜くのだよ!」(珠衣)
「……ふふっ……」(十稀子)
「ちなみに、成女以外は?」(遊)
「やるだけやります!」(珠衣)
「まあ……山積みの課題を片付けていけば、少しは光が見えるのかな」(わたし)
言うまでもなく、四強の壁は高い。わたしの感覚では、まだ、よくて一セット取れるかもってレベル。元県選抜の珠衣や県内最高の左である信乃なら、個人としては十分戦える。でもチームとしては、南五和にはまだ至らない部分が多い。
その差を、このブロック大会で、少しでも埋められれば……と思う。
「相変わらずね、珠衣も、月美も。ま、その時を楽しみにしてるわ」(遊)
遊はそう言って、ぽふっ、とわたしの肩を叩く。楽しみにされてしまった。おかしいな……わたしは何の意思表示をした覚えもないのに。
「月美ちゃーん、珠衣ちゃーん、そろそろ閉会式始まるよー」
ちょうどいいタイミングで、小夜子が声をかけてきた。あっちもあっちで元大田二中メンバーと歓談していたはずだが、今は南五和メンバーと一緒にいた。
「おっと、私たちも集合しなきゃ」(遊)
「もう佑乃さんが集めてるっぽいですよ」(弥子)
「それは助かる」(遊)
「珠衣ちゃ、月美先輩っ! また県大会で!」(まもり)
「おうっ! 決勝で待ってる!」(珠衣)
「……ふふっ、またね」(十稀子)
「そっちも、頑張ってね」(わたし)
わたしたちは手を振って別れ、互いの今の仲間のところへと戻っていく。
遊たちは抹茶バニラの大田第二のところへ。わたしと珠衣は朽葉色の南五和のところへ。
「おかえりー」
どうやら、わたしと珠衣が最後だったようだ。部長の小夜子は、わたしたちを迎えると、メンバーに整列するよう指示を出した。開会式でそうだったように、わたしたちは縦一列に並ぶ。
先頭は、当然、部長の小夜子。次に、副部長のわたし。三番目に、可那。可那より後ろは、まずベンチメンバーが背番号の若い順に並ぶ。控えメンバーはその後ろで、学年と背の大きい順に並ぶ。そして、最後尾はマネージャーの烏山史子となる。
「大田一の連中は、なんだって?」
他のチームも整列して、まもなく閉会式が始まろうかというタイミングで、可那が話し掛けてきた。わたしは前を向いたまま、小声で返す。
「四強撃破、楽しみにしてるって」
「お前はなんて答えたんだ?」
「『うーん』って」
「おい」
喧嘩腰にツッコミを入れてくる可那。この状況でキレられると非常に面倒なので、わたしは宥めるように言い訳する。
「いや、ほら、神社なんかでさ、神様にお願い事をするときは、内容を口にしちゃいけないって言うし」
「ばか野郎、まず前提がおかしいだろ。なんで神頼みなんだよ」
可那は不機嫌そうに、そして呆れたように言う。
「実力で叶える願いなら、事あるごとに口に出せ。言わなきゃ他人には伝わらねえ。そんな気持ちは無いも同じだ」
思わず後ろを振り返る。仏頂面の黄色と目が合った。
「あんだよ?」
「……なんでもない」
可那のガン飛ばしから逃げるように、わたしはすぐに前に向き直る。結局、可那はそれ以上何も言ってこなかった。
まったくこの黄色は……と、心の中で、わたしは深い溜息をつく。
笑い声を上げそうになるのを、必死で堪えながら。
おかげで、表彰式で賞状を受け取る小夜子の晴れ姿を、わたしは涙で滲んだ視界で見ることになってしまった。
本当に、可那は可那だから困る。
登場人物の平均身長:164.2cm




