125(ひかり) 試合結果
ブロック大会北地区予選、決勝戦。
石館商業VS玉緒第二。
それは、決勝戦に相応しい、とても見応えのある試合でした。
攻撃の石館商業と、守備の玉緒第二。
両校の中核である、館商のエース・藤本いちい先輩と、玉緒第二のリベロ・緋上真直先輩の直接対決において、緋上先輩の代名詞である最終防衛線を抜かれたときは、とても心配になりましたが……。
しかし、私が案じるまでもなく、タイムアウトできっちり立て直した緋上先輩は、その後も的確な指示と不撓不屈のプレーで、玉緒第二の〝最終防衛線〟として活躍されました。
館商のほうは、序盤に猛威を振るった藤本先輩が、その後はあまり表立った攻撃をしてこなくなり、むしろ藤本先輩以外の先輩方にトスは集中しました。
取りつ取られつ、両者譲らぬ攻防の中、より着実に得点を重ねていったのは、石館商業。
強力なサイド攻撃と、それによって生まれた隙を穿つセンター線。
藤本先輩を半ば温存する形でも、その攻撃力は、さすがの北地区一位。
試合結果は、
第一セット、25―21。
第二セット、25―19。
石館商業高校が、ストレートで優勝を決めました。
振り返ってみると、高さで勝る館商が、地力の差で押し切った――そんな試合内容でした。
他方、隣のBコートで行われていた三位決定戦は、こちらもストレートで、修英学園の勝利。一人だけそっちを見ていた美森先輩は大満足のご様子でした。
ブロック大会北地区予選。
優勝:石館商業高校。
二位:玉緒第二高校。
三位:修英学園高校。
四位:石館第二高校。
以上の四校が、二週間後に行われる県大会に、北地区代表として出場します。
決勝が終わると、既に試合を終えていた修英学園や石館第二、それに、応援席で観戦していた他の参加校から、石館商業と玉緒第二に惜しみない拍手が送られました。
もちろん、偵察に来ていた私たちも、同様に拍手を送ります。
あとは、閉会式を残すのみ。応援席に残っていた選手が一斉に動き出します。参加校でない私たちは、その流れを邪魔しないように避けて、ほとぼりが冷めたところで本日のまとめに入ります。
「さて、だんだん人も減ってきたね。みんな、今日はどうだった?」(立沢先輩)
「面白かったよー!」(油町先輩)
「熱かったっス!」(北山さん)
「楽しかったです!」(宇奈月さん)
「来てよかったです」(私)
「参考になりました」(霧咲さん)
「とても勉強になりました」(藤島さん)
「みんな頑張ってたね」(市川先輩)
「インハイ予選が待ち切れないですぅ!」(岩村先輩)
「あぁー受験勉強に戻りたくねえ★」(美森先輩)
「二浪したいんですか?」(立沢先輩)
立沢先輩は、美森先輩に冷たい視線を送ったのち、私たちに暖かい微笑みを向けます。
「それぞれ収穫があった、と受け取っていいのかな。企画した甲斐があったよ」
そのとき、立沢先輩の携帯が鳴ります。試合中はマナーモードだったのを、いつの間にか通常モードにしていたようです。
「……南五和も、中央地区予選を一位で抜けたって」
「おおっ、おめでたいっス!」
「言っておくけど、インハイ予選ではみんな敵だからね?」
ふふっ、と微笑みつつも、念を押すように立沢先輩は言います。
「今日の偵察で、北地区のレベル、相対的に県大会のレベルも、わかってくれたと思う。それを踏まえて、来週のゴールデン合宿までに、みんなで『目標』を決めようと思います」
「目標、ですか?」
「うん。個人の目標と、チームの目標。できる限り、具体的に」
「礼亜ちゃんの代のチーム目標は、『県ベスト8』だった。達成……と言えば、達成した」
「私たちの代は『県大会出場』だったね。私個人では『バックトス克服』。残念ながら、どっちも叶わなかったけどさ★」
「と、いった感じのことをね。次の全体ミーティングまでに、それぞれ、自分がどうしたいのか、このチームで何をしたいのか、を考えてきてください」
私たちを見回す立沢先輩。私たちも、互いに目配せし合って、簡易的な意思の疎通を計ります。
「参考までに、わたしが掲げようとしているチーム目標を、この場で言っておく」
立沢先輩は、目を活き活きと輝かせて、宣言します。
「『全国大会出場』」
語気を強め、立沢先輩は言います。
「わたしは、あなたたちなら、その可能性があると思っている。南五、館商、そして音成女子を超えて、この県の頂点にして中心――五年連続県一位、法栄大立華に、手が届くと思っている」
不意に出てきたその高校名に、どくんっ、と血が廻り、身体中が熱くなります。
日輪にして、心臓。
法栄大附属立華高校。
「と言っても、みんな法栄大立華がどんな高校か知らないよね。興味がある子は言って。新人戦の録画映像を見せてあげる」
なんと。録画映像まで持っているんですか。焼いてください。
「新人戦は決勝の相手が音成女子だったんだけどね。間違いなく度肝を抜かれると思うよ。特に鞠川千嘉と法栄大立華のリベロの――」
ぴたっ、と突然に、立沢先輩の動きが停止します。
誰かが超能力で時間を止めたわけでは……もちろんなく、立沢先輩は半開きの口のまま、ゆっくりと、視線を私に向け、
「くるみー先輩っ!」
ずずいっ、と立沢先輩の前に進み出たのは、宇奈月さん。
「私、なんだかお腹が空いてきました! みんなでどこか食べに行きませんか? 今日の試合のことも振り返りたいですし! ねっ、みんなはどう?」
宇奈月さんはそう言って北山さんに視線を向けます。
「自分もご飯行きたいっス!」
そこからは、連鎖反応。
「わ、私も、みんなが行くならっ」(藤島さん)
「あたしも、このまま帰るのはなんだなって思ってた」(霧咲さん)
「いいねー! じゃあ来る途中にあったファミレスとか?」(油町先輩)
「あそこは……たぶん、閉会式終わったら館商とかとバッティングするよ。駅前まで戻れば他にもお店あるから、そっちがいいと思う」(市川先輩)
「駅前のことならお任せでぇす!」(岩村先輩)
そうやってみんなが賑わい立つ中、立沢先輩だけは、ぽかんと私を見つめたままです。
「というわけなんですけど、くるみー先輩とひかりんはどうします?」
にこにこ、と私たちに笑顔を見せる宇奈月さん。立沢先輩は、宇奈月さんと私を一回ずつ見て、ようやく口を閉じ、ばつが悪そうにぽりぽりと頬を掻きます。
「ああ……わかった。わたしも、もちろん行く」
「私も行きます」
「おっけー、決まりっ!」
ぱちんっ、と宇奈月さんは両手を合わせます。その無邪気なにこにこ顔に流されて、立沢先輩は諸々のことを有耶無耶にし、足元の鞄を持ち上げました。
「じゃあ、ひとまず移動しよう。万智か静、手頃なお店を教えて。席があるかどうか確かめる」
「それくらい私がやりますよぉ。胡桃さんはみんなをよろしくお願いしまぁす」
「う、うん」
立沢先輩は、私を一瞥しますが、ひとまずみんなの先頭に立って歩き出します。私もそれに続きます。
かくして、本日の偵察は終了。
大会会場である石館商業高校を後にした私たちは、ほのかに夜の気配が漂う中、元来た道を石館駅へと歩いていきました。




