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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
136/374

124(杏子) 目標

 藤本ふじもとのバックアタックが真直ますぐ最終防衛線(Red Line)をぶち破り、8―7。


 新人戦以降練習をしてきて、対外試合では初めて見せる、パイプ攻撃。


 てっきりフェイントをど真ん中に落とすだろうと思っていたのだが、藤本は全力で打ち抜いた。恐らく、今日の大会で真直がまともに抜かれたのは、この一撃が最初だろう。さすがに冷静じゃいられなかったようで、総崩れになるのを危惧した玉緒第二のキャプテン――〝なべてな(All Time)らず(Best)〟の最上もがみ瑶子ようこは、ベンチにタイムアウトを要求。一旦、試合が途切れる。いい判断だったと思う。


 さて……敵の立場になってみると厄介この上ない玉緒第二たまのをの守備に楔を打ち込んだ格好の館商うちだが、そのわりに、ベンチの空気はやたら重い。


 監督は何も言わず座ったまま――なのは、まあ、いい。うちが取ったタイムアウトじゃないのだ。特にミスが目立つわけでも流れが悪いわけでもない。現状維持で行け、という指示を態度で表しているのだろう。


 空気が重いのは、ひとえに、藤本が押し黙っているからだ。サーブを打ち終えてから、何だか様子がいつもと違うのは、みんな察している。たぶん、藤本はこの場で何かを言おうとしている。が、とりあえず、藤本が呼吸を整え、ドリンクを置くまでは、待つしかない。


 やがて、藤本は、ふうっ、と息を吐いて、静かに語り始めた。


「……僕たちの目標は」


 底冷えするような低い声で、前置きもなく藤本は言う。


「県ベスト4以上――そう、新人戦の前に決めました」


「うん、その通りだあね」


 軽く相槌を打つキャプテンの明晞あき。空気を和らげようとしているのだ。が、藤本はその意図をわざと無視して続ける。


「県ベスト4以上……四強のうち一つを倒さない限り、その目標は達成できません。ついては、ちょっと、四強のリベロを思い浮かべてください。ああ、『あの人』のことはいいです。それ以外の人たちです。去年の新人戦……実際に戦うか、生で見るか、録画で見るかしたはずですが、覚えてますか?」


 しん、と沈黙。イエス、の意味。


「四強のリベロは……その全員が、全国で戦える力を持っています。あの人は言うまでもなく、蝶と蜂の二人は、中学の県選抜で僕と同じコートに立ちました。そのことを――僕たちが超えようとしている四強ハードルの高さを、もっと意識してください」


 藤本は、淡々と(と言うにはいささか不機嫌そうに聞こえるが)、事実を語る。


「『目標は県ベスト4以上』……言うだけなら誰でもできます。ベスト8級のチームならどこもそう言うはずです。ただ、僕は、そういう口先だけの言葉は好きじゃありません。尾崎おざきさんも、斎藤さいとうさんも、佐々木(ささき)も、瑠璃るりも……本気で四強うえに行きたいなら、最低でも緋上さん(Red Line)は越えてください。あの人に躓いているうちは、四強は無理です」


 強さを推し量る物差しにかつての仲間こうはいが使われるのは、正直、あまりいい気分ではない。もちろん、藤本に名指しされる選手プレイヤーが、そう多くいるわけではないっていうのは理解しているが。


やなぎさん」


 言いたいことは言った、とばかりに、藤本は威圧感を少しだけ和らげ、セッターの千里センリに向き直る。


「どうした? さっきのバックのことか?」


「いえ、そのことではなく、この試合のことです。今日は、僕、もうトスを呼びません。上げていただければ決めますが、基本的にレシーブに専念します」


「……おう。わかった」


 続いて、藤本は瑠璃に声をかける。


「瑠璃さ、例の(S3)ローテ、寄りたいならセンターに寄っていいよ」


「ほい来たっ! その言葉を待ってたよ!」


「ただし決めろ」


「そんなん貴様に言われるまでもない!」


 こんな空気の中でも、瑠璃は楽しそうだ。今日は市川いちかわしずかが来ていて、いいところを見せたいという話は昼過ぎからずっとしている。藤本が攻撃を控えると宣言した現状は、降って湧いた幸運ボーナスタイムだろう。


 いや……でも、それは瑠璃以外も似たり寄ったり、か。


 玲子れいこはぐるぐると肩を回している。郁恵いくえ千里センリと速攻のタイミングについて打ち合わせを始めた。明晞は困った風な顔をしているが、口元がにやついている。


「よおし、みんな、いちい君の有難いお言葉は胸に沁みたかなあ?」


 ぱんぱんっ、と手を叩いてみんなを集め、明晞がメンバーの顔を見回す。玲子はにやりと笑んで、瑠璃はぎらりと目を輝かせて、郁恵はかくりと頷いて、藤本は眉間にびっしりと皺を寄せて、それぞれ応える。


「おーけー。じゃあ、がんがん攻めていこう。あんまりヘタレてると、杏子あんず選手交替チェンジだからねえ、頑張るように」


 みんなが私に目を向ける。ここで振ってきたか明晞め――と、とりあえず私はできるだけ不敵に笑って、発破をかける。


「そうだな……点が取れないアタッカーのためにボールを繋ぐ義理はない。自信のないヤツは名乗り出ろ。私はいつでも前衛フロントで行ける」


 半分は冗談だが、半分は本気。玉緒第二(昔のチームメイト)との試合はいつもそう。拾うだけでは物足りない。跳びたくて、打ちたくて、決めたくなる。


「というわけでえ、いっちょうやりますかあ! せえーの――気合い入れて行くぞッ!!」


「「しゃああああッ!!」」


 気炎万丈――私たちは意気揚々とコートへ向かった。

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