122(音々) 三面ローテ
ブロック大会北地区予選、決勝戦。
石館商業VS玉緒第二。
ハイレベルなラリーの応酬に、観戦するこちらの胸も熱くなってくる。
スコアは、5―4。
藤本いちいのジャンプサーブを一本で切った玉緒第二が、その気勢を増す。
セッター対角の田村真琴先輩のサーブ。それを拾った館商は、レフトの斎藤明晞先輩を使ってくる。斎藤先輩はブロックの穴であるストレートへ打ち込むが、セッター・倉知娃佳先輩の上を抜かれるのは折り込み済だったようで、いい位置に構えていたBRの田村先輩がナイスカットを見せる。
それを倉知先輩がレフトの最上瑶子先輩に繋ぐ。最上先輩はしっかり助走を取ってクロスへ打ち込んだ。しかし、ボールは自称北地区ナンバー1ミドルブロッカー・宝円寺瑠璃先輩の手に当たり、床ではなく上空へ大きく跳ね上がる。
ワンタッチボールをリベロの日下部杏子先輩が拾って、再び館商の攻撃。
アタッカーはもう一度レフトの斎藤先輩で、今度はクロスへの強打。それを板野万里先輩が拾う。全員リベロとはよく言ったもので、そのカットはきっちりセッターの定位置に上がっている。玉緒第二のコンビ――先程決めた長谷川香弥先輩を囮に、最上先輩へ速めのレフト平行が上がる。
だばんっ!
ライトブロッカー・柳千里先輩の腕を弾き、ボールはレシーバーのいないコートの外へ落ちた。
スコア、5―5。
今はどちらもセッターが前衛にいる二枚攻撃のローテ。攻撃力が幾分か落ちている状態。高さの利は館商にあるが、ラリーが続いてくると、守備力のある玉緒第二のほうにチャンスが広がってくるようだ。
そして、次のラリーも、再び激しい攻防に。
終止符を打ったのは、宝円寺先輩のブロック。
長谷川先輩のAクイックをシャットアウト。宝円寺先輩は「っしゃあ!」と声を上げて喜びを表す。静先輩の話では、二人は同じ館二出身で学年もポジションも同じ、身長も1センチしか変わらないので、ライバル的な関係なのだとか。
ただ、このシャットで玉緒第二の勢いが削がれるかというと、恐らくそうではないだろう。玉緒第二は、激しいラリーの中で速攻を使えたのだ。カットがきっちり上がっている証拠。
とまれ、これで6―5。
館商のローテが回り、セッター対角の尾崎玲子先輩が前衛に上がってくる。
ここで、胡桃先輩のワンポイント解説。
「おさらいの時にちらっと言ったのだけれど、今前衛に上がったセッター対角の尾崎玲子は、レフトからのスパイクが得意で、ライト打ちは苦手。一方、斎藤明晞はレフトでもライトでも同じように打てる。
なので、当然と言えば当然なのだけれど、ここから二ローテは、セッター対角の尾崎玲子がレフト、レフト対角の斎藤明晞がライトを務める」
ばしっ、と柳先輩がサーブを打つ。直後、胡桃先輩の言った通り、尾崎先輩はレフト、斎藤先輩はライトの位置に立った。
「そして、レフトの尾崎玲子が十八番としているのが、ストレートとクロスの打ち分け。深いところへ刺さる、足の長いスパイク」
ラリーの中、その尾崎先輩にトスが上がる。尾崎先輩はそれを、すぱんっ、とストレートの角を狙って打ち込んだ。
「っ、真直!!」
「オーライです!!」
ぎりぎり反応した田村先輩がオーバーハンドでボールに触れる。反応できなければ角に決まっていただろう。辛うじて上がったボールを、〝最終防衛線〟――緋上真直先輩がカバーし、玉緒第二はなんとかラストボールを返す。
館商のチャンスボール。日下部先輩が例の弾道の低い『速め』のカットをセッターの柳先輩に返す。まともにコンビを使えれば、高さのある館商が優位。三枚攻撃――トスはライトへ上がる。
「ここかなあー!」
ばしんっ!
斎藤先輩のライトサイドからの強打。最上先輩の右腕を弾き、勢いそのまま玉緒第二コートの中央へ落ちる。板野先輩が手を伸ばすも、届かず。跳ねたボールを緋上先輩がキャッチして、ラリー終了。
スコア、7―5。
「〝帚星の尾〟――尾崎玲子と、〝明の一番星〟――斎藤明晞。170以上のウイングスパイカーが両サイドにいるこのローテで館商にチャンスボールを与えるのは、一点を与えるのとほぼ同義」
「明晞も尾崎さんも、小学生の時からチームを引っ張るサイドアタッカーだったからね。その二人が同時に踏み込んでくるんだから、守る側は大変だよ」
「当たり前だけど、サイドアタッカーが二人ってことは、ミドルブロッカー含めて三枚攻撃ってことだから、サイドに気を取られているとセンター線が来る。
強いて安心材料を挙げるなら、コンビがレフト平行―速攻―ライトセミ一択ってことかな。音成みたいに複雑な交差をしてくることはなくて、レフトはレフトから、センターはセンターから、ライトはライトからしか打ってこない」
「安心材料なのかな……それ。三人全員が得意なところから打ってくるってことだよね?」
「そうとも言う」
試合のほうは、しかし、玉緒第二が粘り勝つところだった。リベロの緋上先輩が後衛、ミドルブロッカーの長谷川先輩が前衛で、それぞれ要石の役割を果たし、館商の三枚攻撃に対抗している。
スコア、7―6。
「さて、ここで館商のサーブカットなわけだけど、レフト打ちの得意な尾崎玲子を敢えてセッター対角に置いていることが、ここで利いてくる」
サーブカットのフォーメーションを見て、あたしはなるほどと手を打つ。
「そっか……藤本いちいが上がってくるまでは、尾崎先輩が常にレフトサイドから打てるのか」
「おおっ、つまり、こういうことっスね!」
*
<館商S1ローテ>
―――ネット―――
宝
柳
尾 斎
日 藤
―――――――――
※前衛(FLから):尾崎、斎藤、宝円寺
<館商S6ローテ>
―――ネット―――
佐
尾 斎
柳
藤 日
―――――――――
※前衛(FLから):佐々木、尾崎、斎藤
*
「そう。館商のサーブカットのフォーメーションは、先の『僕様ローテ』で藤本いちいが三回、今話題にしているローテで尾崎玲子が二回、残り一つのローテで斎藤明晞が一回と、レフトからの決定力が高い選手が、その決定力に応じて、より多くレフトから打てるようになってる。こうして館商のエース偏重ローテは成り立っているんだね。
普通、チームで二番目に決定力のある尾崎玲子は、一番決定力のある藤本いちいの対角に置くものだけれど、そこを敢えてセッター対角に置くことで、より有効に尾崎玲子という選手を使っている」
「もちろん、尾崎さんと藤本さんが前衛でバッティングしてしまうローテでは、尾崎さんが苦手なライトに追いやられてかなり勿体ないって難点がある。けど、その不利を補ってあまりあるほどの力が、藤本さんにはある。
もう一つの難点は、尾崎さんと藤本さんの二人が後衛に下がってしまうローテで攻撃力が弱まるっていう点。だけど、これも、明晞が前衛にいるからさほど問題にはならない。明晞だって、館二でエースを張っていた、十分に力のあるウイングスパイカーだから。相方も同じ館二の瑠璃だしね」
「藤本いちい、尾崎玲子、斎藤明晞。三人のレフトエースが入れ替わり立ち替わり現れる――エースと裏エースの二面じゃなく、三人エースの三面ローテ。それが石館商業の攻撃力の秘密」
「よくできてますね……」
個々の力関係や特性をうまく活かしている、とあたしは手放しで感心する。
でも、感心すると言えば――。
わあああっ!
と大きな歓声が上がったのは、玉緒第二の応援席。玉緒第二のエース――〝頂の上〟、板野万里先輩が例の『待つ』レフト平行で決めたのだ。
スコア、7―7。
同点――玉緒第二が、再び館商に追いつく。
尾崎先輩・斎藤先輩という横の攻撃力と、長谷川先輩・緋上先輩という縦の守備力が、拮抗している。
そして、ラリーが続けば、連携力に優れる玉緒第二が上を行く。
「やっぱり藤本さんのサーブが切られたからですかねぇ。玉緒第二が流れを掴んでる感じですぅ」
と、万智先輩。あたしの目にも、そう見える。このまま逆転はありそうだ。
「……いちいさんが、黙って逆転を許すとは思えないです……」
ぽつり、と呟いたのは、透。
言われてみれば、前衛であれだけ大暴れしていた藤本いちいが、サーブを終えてから借りてきた猫のようだ。一体何を考えているのやら……。
妙な緊張感が漂うコートの中を、あたしは見つめた。
<バレーボール基礎知識>
・ローテの呼び方
バレーボールのローテーションは、六人が順番に六つのポジションを回っていくので、全部で六種類あります。
各ローテを区別するための表現方法の一つに、『S○ローテ』という呼び方があります。
Sとはセッターのことで、○には、コート上の位置を示す1〜6の数字が入ります。
『セッターの定位置がどこか』で表現するのが、『S○ローテ』という呼び方です。どの数字がどの定位置を示すのかは、ユニフォームの話題のときと同じで(サーブを打つ順です)、以下の通り。
―――ネット―――
4番 3番 2番
5番 6番 1番
セッターの定位置が1番のローテなら、S1ローテ。
セッターの定位置が6番のローテなら、S6ローテ。
という風に表現します。
あくまで『定位置がどこか』なので、実際の立ち位置は番号の通りにはなりません。例えば、館商のS1ローテでは、見かけ上、セッターの柳さんが2番の位置にいるように見えます。
<館商S1ローテ>
―――ネット―――
宝
柳
尾 斎
日 藤
―――――――――
これは、わかりやすく並ぶと以下のようになります。
<館商S1ローテ>
―――ネット―――
尾 斎 宝
日 藤 柳
―――――――――
こうして見ると、セッターの柳さんの定位置が1番=S1ローテ、というのが一目でわかると思います。
が、実際の試合ではこんなシンプルなポジション取りをするわけにもいかないので、元の図のように、ルールで許された範囲内で(ローテーションの規則を守って)うまくポジション取りをします。




