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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
132/374

120(ひかり) いちい君の僕様ローテ

 石館いしだて商業しょうぎょうVS玉緒(たまのお)第二。


 藤本ふじもといちい先輩の決定力はもはや別次元。しかし、それで引き下がる玉緒第二ではありません。


 現在、スコアは4―2。


 館商のサーブ。サーバーは佐々木(ささき)郁恵いくえ先輩。


 角張ったフォームから打たれたボールは、緋上ひのうえ真直ますぐ先輩のところへ。


 緋上先輩は、丁寧に、正確に、ボールをセッターの倉知くらち娃佳あいか先輩へ返します。倉知先輩の得意な、頭の真上よりは少し前の空間を狙っているのもまた、緋上先輩らしい心憎い気遣いです。


 ライトから石蕗つわぶき千愛ちい先輩が速攻へ、センターの田村たむら真琴まこと先輩は十八番のライトへの移動攻撃ブロード。そして、玉緒第二のレギュラーの中で、唯一私がその中学時代の姿が思い出せない落中らくちゅう出身の最上もがみ瑶子ようこ先輩は、その場(レフト)で平行を待ちます。


 そして、倉知先輩が選んだのは、最上先輩。


 ブロッカーは一枚半。ライトブロッカーのやなぎ千里ちさと先輩と、自称・北地区最強のミドルブロッカーこと宝円寺ほうえんじ瑠璃るり先輩。


 自身より高い二人のブロッカーに対し、最上先輩は、


 ぱちんっ、


 と気負うことなく強打。ボールは横っ飛びした宝円寺先輩の腕に当たり、方向を変えてもスピードは変わらないままで、だんっ、と館商コートの中央部へ落ちます。


 落ち着いて、相手をよく見ています。高さに惑わされたり、焦ったりするような様子も、まるでありません。


 基本的に忠実に、状況に対して最適に、常に可能な限りの最善ベストを尽くす――そんなプレースタイル。


 曰く、〝なべてな(All Time)らず(Best)〟。


「変わらないなぁ……瑶子さんのああいうとこ」(藤島ふじしまさん)


「恐いくらい落ち着いてるわね。虎視眈々っていうの? チャンスは見逃さない、って感じだわ」(霧咲きりさきさん)


「決めるべきところはきっちり決める――これも、玉緒第二の強みだね。エースの板野いたの万里ばんりとキャプテンの最上瑶子が要所を押さえるから、繋ぎ続けることで活路が開ける」(立沢たちさわ先輩)


「見習いたいところですよねぇ」(岩村いわむら先輩)


「ボールを床に落とさなければ勝てる、っていうのは、『いつか決めてくれる誰かがいるから』ってのが必須で、玉緒第二にはその『決めてくれる誰か』がちゃんといる」(市川いちかわ先輩)


「いいチームですねっ!」(宇奈月うなづきさん)


 玉緒第二、方々から絶賛の嵐です。とてもいい気分です。るんるん、です。


「ところで、梨衣菜りいな」(立沢先輩)


「はい、なんっスか!」(北山きたやまさん)


「館商のサーブカットのフォーメーション、藤本いちい(レフトエース)がいつもレフトにいるのは気付いてる?」(立沢先輩)


「む……?」(北山さん)


「ほら、今の藤本さんなんか、定位置コートポジションFR(フロントライト)のはずなのに、ほぼFL(フロントレフト)の位置で構えてるよね? あれが、館商のローテの特徴の一つ。明晞あき曰く、『いちい君の僕様ローテ』」(市川先輩)


「そ、そのネーミングは、いちいさんの了承を得てるんですか……?」(藤島さん)


「いや、口にするたび睨まれてたよ」(市川先輩)


「ものすごい度胸ですね……」(藤島さん)


「脱線しないの、そこ二人。えっと、梨衣菜、図解するとこう」(立沢先輩)


「ふむふむ……?」(北山さん)


 *


<いちい君の僕様ローテ1>


 ―――ネット―――

    佐

  藤

  柳      尾

      斎

   日


 ―――――――――


※前衛(FLから):藤本、佐々木、尾崎




<いちい君の僕様ローテ2>


 ―――ネット―――

 柳    佐


  藤      尾

      斎

   日


 ―――――――――


※前衛(FLから):柳、藤本、佐々木




<いちい君の僕様ローテ3>


 ―――ネット―――

 宝柳


   藤     日


   斎   尾


 ―――――――――


※前衛(FLから):宝円寺、柳、藤本


 *


「とまあ、サーブカットに参加しないミドルブロッカーとセッターの位置をうまいこと調節して、レフトエースである藤本いちいが常にレフトから打てるようなフォーメーションを取っているんだね。

 このうち二回はセッターが前衛フロントの二枚攻撃だけど、こうして藤本いちいに得意なポジションで打たせることで、確実にサイドアウトを取れるように工夫してる」(立沢先輩)


「なるほどっス。あ、でも、その3番目のローテは、さすがに宝円寺殿がやりにくいんじゃないっスか? 藤本殿がレフトに回りたい気持ちもわかるっスけど、宝円寺殿だってなるべくセンター寄りにいたいはずっスよね?」(北山さん)


「うん。それについては、あの二人、いつも熾烈な位置ポジション争いをしてるよ。瑠璃から聞いた話では、練習試合で意地になってポジショナルフォールトを取られたこともあるくらい。まあ、ただ、そうは言ってもね――」(市川先輩)


 そう言って、市川先輩はコートに目を向けます。試合は、話題の3番目のフォーメーションから、藤本先輩がレフトに回り、とっ、とフェイントを決めるところでした。石蕗先輩センターのサーブで緋上先輩リベロがコート内にいない状況では、フェイントが来るとわかっていても、なかなか対応するのは難しいようです。


 スコア、5―3。


 ここまで、館商の得点は、全て藤本先輩です。


「藤本さんの決定力が桁違いだから、どうしても、瑠璃より藤本さんの要求のほうが通りやすい。こういうのは、なにも瑠璃と藤本さんに限ったことじゃなくてね。対角の明晞あきやセッターのやなぎさん以外は、みんな何らかの形で藤本さんに譲ってる部分がある。

 例えば、藤本さんは、館商ではリベロの日下部くさかべさんと同じくらいサーブカットが得意なんだけど、藤本さんが積極的にサーブカットに参加するのは後衛バックのときだけなんだ。前衛フロントでは、攻撃に支障がない範囲でしか取らない。意図的に守備範囲を狭めて、他の選手プレイヤーに取らせてる」


「それは……でも、サーブカットが乱れたら元も子もないのでは?」


「普通はそう。だけど、館商の場合は違う。なぜなら、藤本さんにAカットをさせて他の誰かに打たせるより、Cカットでもいいから他の誰かにレシーブさせてレフトの彼女に二段トスを上げたほうが、点が取れるから」


「な、なるほどっス……」


 ふむむ、と北山さんが深く頷きます。


「まさに『藤本殿の僕様ローテ』っスね」


「梨衣菜! それいちいさんの前では言っちゃダメだよ! 本当にダメだからね!?」


 藤島さん、大慌てです。その剣幕に驚いた北山さんが「じょ、冗談っスよ!」なんて返しますが、藤島さんは「冗談でもダメ!」と涙目で訴えます。


 まあ、相手が藤本先輩でなくとも、本人が不快に感じるようなことは言うべきではないですよね。


 閑話休題。


 館商はローテを回し、ここでようやく、藤本先輩が後衛バックに下がります。


 否、ただ後衛バックに下がっただけでは、まだ安心はできません。


 むしろ、いよいよ来てしまったか、くらいの感じです。


「うお、来たっス……藤本殿のサーブ」(北山さん)


「さっきの石館第二との試合でも、エース決めてたよねぇ」(岩村先輩)


「すっごい速かったですよね!」(宇奈月さん)


 そうなのです。藤本先輩は、下がっても已然、エースなのです。


「中学の頃も、ぼこぼこ決められた記憶があるわ」(霧咲さん)


「いちいさんのあのサーブは……全国大会でも、取れないチームがあったくらいだから……」(藤島さん)


 藤本先輩は、サービスゾーン後方、エンドラインから大きく距離を取ったところで、くるくると手の平の中でボールを回しながら、集中を高めています。


 館商サイドの応援席ギャラリーも、藤本先輩のサーブの時だけは、しん、と無言。


 ぴしっ、と空気が張りつめていきます。今は瞬き一つも迂闊にできません。


 高校生になってから、『それ』が打てる選手プレイヤーを見たのは、これが二人目。


「……ジャンプサーブ……」


 リベロとして、見逃すわけにはいきません。刮目して見よ、です。


 やがて、ぴっ、と笛が鳴ります。藤本先輩は、すうっ、と呼吸を整えたのち、


 さっ、


 とボールを投げ上げ、


 ぐんっ、


 と全力の踏み込みから、


 だんっ!


 高々と、その身を宙に躍らせました。

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