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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
131/374

119(吹子) 苦戦

 ブロック大会北地区予選、決勝戦。


 VS石館(いしだて)商業しょうぎょう


 わたしはそれを応援席ギャラリーから見ていた。


 スコアは、3―1。


 取られた3点、その全てが、館商のエースである〝千紫(Kaleido)万紅(Scope)〟――藤本ふじもといちいセンパイによるもの。


 小学生の頃から上手い人で、中学の時もすごい人だったけど、高校ではさらに怪物バケモノ度が増している気がする。


 2―0から板野いたの万里ばんりセンパイが取り返したものの、すぐサイドアウトを取られて、また館商のサーブ。


 打つのは、館三だてさん出身だという三年生、尾崎おざき玲子れいこセンパイ。


 こちらの前衛フロントは、レフトから田村たむら真琴まことセンパイ、石蕗つわぶき千愛ちいセンパイ、板野万里センパイ。


 三枚攻撃だけれど、玉緒第二で一番点が取れる万里センパイがライトにいる。万里センパイは特にライトが苦手というわけではないが、館商(向こう)のレフトブロッカーが179センチの藤本センパイなので、このローテに限っては力押しができない。ここは千愛センパイか真琴センパイに頑張ってもらいたいところ。


「「サーブカットー!! 一本!!」」


 揃って声を出す、控えメンバー。もちろん、わたしも一緒。


 ばしっ、


 と尾崎センパイのサーブが放たれる。ボールは落中らくちゅう出身のキャプテン――〝なべてな(All Time)らず(Best)〟の最上もがみ瑶子ようこセンパイへ。尾崎センパイのサーブは球威があって、瑶子センパイのカットはそれに押されて少しレフト側へ乱れる。セッターの倉知くらち娃佳あいかセンパイは、いつもの弾むようなセットアップでトスをレフトへ。


 カットとともにブロッカーも副審側レフトへ寄っていたので、真琴センパイの前にはぴたりと二枚ブロックがついた。しかし、真琴センパイは思いきり振りかぶって、


 だんっ!


 と強打。ボールは丘中おかちゅう出身のミドルブロッカー・佐々木(ささき)郁恵いくえセンパイの腕に阻まれ下へ落ちる。それを、


真直ますぐっ!!」


「――上がってますっ!!」


 フォローに入ったリベロの緋上ひのうえ真直ますぐセンパイが素敵にフォロー。ボールはきっちり倉知センパイの真上へ。


こっち(ライト)行くぞ、娃佳あいかっ!!」


 直後、着地した真琴センパイが、逆サイド(ライト)へ大きく回っていく。


 〝(Rotary)(Cutter)〟――真琴センパイの得意技、ブロード攻撃。


「おっけー、真琴ちゃん!!」


 〝束の(Pop the)(Clutch)〟――娃佳センパイはジャンプしてボールに触れ、それを、


 ぽんっ、


 と軽くレフトへトス。


「っ……!」


 ミドルブロッカーの佐々木センパイが驚くのも無理はない。上から見ているわたしだってびっくりしたのだから。


「ナイストス、娃佳あいかぁー!!」


 娃佳センパイのトスと同時に颯爽とレフトへ姿を現したのは、さっきまでライトにいた万里センパイ。


 真琴センパイがライトへ移動ブロードする裏、セッターの娃佳センパイやブロックフォローに入っていた千愛センパイや真直センパイの裏で、万里センパイもまた移動ブロードしていたのだ。


 館商側から見たらひとが大勢いて、突然出てきたように見えるだろう。たぶん真琴センパイは、真直センパイのブロックフォローからここまで計算に入れて、最初のスパイクで相手ブロックにぶつけていったのだ。


「そら――っと!!」


 ライトから逆サイド(レフト)へ約9メートルもダッシュしてからのジャンプ。けれど、〝頂の上(Over Top)〟――万里センパイの打点は下がらない。『飛ぶ』ことに関しては北地区でも随一のウイングスパイカー。


 だんっ!


 と、万里センパイのスパイクは乱れたブロッカーの上からクロスいっぱいに決まる。


「「「っしゃあああ!!」」」


 万里センパイ、娃佳センパイ、真琴センパイが三人でハイタッチ。三人は、みんな同じアパートに住んでいて、生まれながらの幼馴染みなのだ。わたしが小三で『たまのを』に入ったときから、センパイたちの息はぴったりだった。


吹子ふうこの先輩たち……連携すごいね。中学時代もああだったの?」


 そう訊いてきたのは、隣の瀬尾せお千晴ちはる。わたしと同学年で、館三出身のセッターだ。


「うん。センパイたちの代は、県ベスト8まで行ったから」


「ベスト8!? えっ、二つ上の玉中たまちゅうってそんな強かったの?」


 千晴が驚くのも無理はない。千晴が主に見てきた玉中――真直センパイたちの代や、わたしたちの代は、とうとう地区代表の四枠に届かずに終わったのだから。


 そして、わたしの知る限り、県ベスト8というのは、北地区の中学が行き着く最高到達点。あの藤本センパイと〝燈炯(Radical)燿煌(Flames)〟がいた館三、黒い〝(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟こと藤島ふじしまとおるを擁した落中も、ベスト4まで行ったという話は聞いてない。


 二つ上の玉中(わたしのセンパイたち)は、それほどのチームだった。


 あるいは、それ以上のチーム。あの時の玉中は、わたしの目には、ベスト4に手を掛けていたように見えた。


「えっ、でも、玉中時代も万里先輩がエースで、一番高かった――みたいな感じじゃなかったっけ?」


「うん、合ってる。一番高かったのは万里センパイ」


「ってことは……今に輪を掛けて守りが堅かったのね。そこからあの連携――玉緒第二うち館商あっちのリベロの日下部くさかべ杏子あんず先輩が加わるんだから、ベスト8は行くか……」


 千晴の中では何かの整合性が取れたようなので、わたしは敢えて、『あの人』のことには触れない。


 レフトエースの板野いたの万里ばんりセンパイ。


 セッターの倉知くらち娃佳あいかセンパイ。


 当時はセンターだった田村たむら真琴まことセンパイ。


 その対角で石館第一に行った小谷こたにかけるセンパイ。


 ライトは日下部くさかべ杏子あんずセンパイ。


 唯一の二年生レギュラーだったリベロの緋上ひのうえ真直ますぐセンパイ。


 そこに――もう一人。


 今、北地区(この場)にはいない、あの人。


 当時の玉中を語る上で欠かせない、というか、当時の玉中を語るということは、あの人を語るということに等しい……そんな人。




 ――ぱんっ!




 軽快な打音で、我に返る。藤本センパイのスパイク。超インナーとでも言うべきコース――ほとんどネットと平行に打たれたボールが、FL(フロントレフト)を守っていた瑶子ようこセンパイのネット側の足に当たり、ネットの下を通過して館商コートへ飛んでいった。


 スコア、4―2。


「……すごいというなら、元館三そっちの藤本センパイ。全部一人で決めてるよね」


「それはあなた、あのいちい君先輩ですもの……」


 畏れのこもった千晴の言葉。


 館商のローテが回る。その藤本センパイは、まだ前衛フロント。ミドルブロッカーの佐々木センパイが下がって、一旦、杏子センパイが抜ける。


 代わりに前衛フロントに上がってきたのは、元館二のセンター――宝円寺ほうえんじ瑠璃るりセンパイ。


 お昼は真直センパイたちにああ言ったものの、実際に、全力のセンパイたちが苦戦している姿を見ると、北地区一位の壁――ひいては県ベスト8の壁というのが、どれほどのものかわかる。


 でも、センパイたちが、口ではあんなことを言いつつも、コートではまったく諦めていないのも、わたしにはよくわかる。


 ……頑張って、ください。


「「サーブカットー!! 一本!!」」


 千晴と一緒に声を出す。それが、今のわたしにできる、唯一のことだから。

登場人物の平均身長:164.3cm

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