119(吹子) 苦戦
ブロック大会北地区予選、決勝戦。
VS石館商業。
わたしはそれを応援席から見ていた。
スコアは、3―1。
取られた3点、その全てが、館商のエースである〝千紫万紅〟――藤本いちいセンパイによるもの。
小学生の頃から上手い人で、中学の時もすごい人だったけど、高校ではさらに怪物度が増している気がする。
2―0から板野万里センパイが取り返したものの、すぐサイドアウトを取られて、また館商のサーブ。
打つのは、館三出身だという三年生、尾崎玲子センパイ。
こちらの前衛は、左から田村真琴センパイ、石蕗千愛センパイ、板野万里センパイ。
三枚攻撃だけれど、玉緒第二で一番点が取れる万里センパイがライトにいる。万里センパイは特にライトが苦手というわけではないが、館商のレフトブロッカーが179センチの藤本センパイなので、このローテに限っては力押しができない。ここは千愛センパイか真琴センパイに頑張ってもらいたいところ。
「「サーブカットー!! 一本!!」」
揃って声を出す、控えメンバー。もちろん、わたしも一緒。
ばしっ、
と尾崎センパイのサーブが放たれる。ボールは落中出身のキャプテン――〝なべてならず〟の最上瑶子センパイへ。尾崎センパイのサーブは球威があって、瑶子センパイのカットはそれに押されて少しレフト側へ乱れる。セッターの倉知娃佳センパイは、いつもの弾むようなセットアップでトスをレフトへ。
カットとともにブロッカーも副審側へ寄っていたので、真琴センパイの前にはぴたりと二枚ブロックがついた。しかし、真琴センパイは思いきり振りかぶって、
だんっ!
と強打。ボールは丘中出身のミドルブロッカー・佐々木郁恵センパイの腕に阻まれ下へ落ちる。それを、
「真直っ!!」
「――上がってますっ!!」
フォローに入ったリベロの緋上真直センパイが素敵にフォロー。ボールはきっちり倉知センパイの真上へ。
「こっち行くぞ、娃佳っ!!」
直後、着地した真琴センパイが、逆サイドへ大きく回っていく。
〝円の外〟――真琴センパイの得意技、ブロード攻撃。
「おっけー、真琴ちゃん!!」
〝束の間〟――娃佳センパイはジャンプしてボールに触れ、それを、
ぽんっ、
と軽くレフトへトス。
「っ……!」
ミドルブロッカーの佐々木センパイが驚くのも無理はない。上から見ているわたしだってびっくりしたのだから。
「ナイストス、娃佳ぁー!!」
娃佳センパイのトスと同時に颯爽とレフトへ姿を現したのは、さっきまでライトにいた万里センパイ。
真琴センパイがライトへ移動する裏、セッターの娃佳センパイやブロックフォローに入っていた千愛センパイや真直センパイの裏で、万里センパイもまた移動していたのだ。
館商側から見たら壁が大勢いて、突然出てきたように見えるだろう。たぶん真琴センパイは、真直センパイのブロックフォローからここまで計算に入れて、最初のスパイクで相手ブロックにぶつけていったのだ。
「そら――っと!!」
ライトから逆サイドへ約9メートルもダッシュしてからのジャンプ。けれど、〝頂の上〟――万里センパイの打点は下がらない。『飛ぶ』ことに関しては北地区でも随一のウイングスパイカー。
だんっ!
と、万里センパイのスパイクは乱れたブロッカーの上からクロスいっぱいに決まる。
「「「っしゃあああ!!」」」
万里センパイ、娃佳センパイ、真琴センパイが三人でハイタッチ。三人は、みんな同じアパートに住んでいて、生まれながらの幼馴染みなのだ。わたしが小三で『たまのを』に入ったときから、センパイたちの息はぴったりだった。
「吹子の先輩たち……連携すごいね。中学時代もああだったの?」
そう訊いてきたのは、隣の瀬尾千晴。わたしと同学年で、館三出身のセッターだ。
「うん。センパイたちの代は、県ベスト8まで行ったから」
「ベスト8!? えっ、二つ上の玉中ってそんな強かったの?」
千晴が驚くのも無理はない。千晴が主に見てきた玉中――真直センパイたちの代や、わたしたちの代は、とうとう地区代表の四枠に届かずに終わったのだから。
そして、わたしの知る限り、県ベスト8というのは、北地区の中学が行き着く最高到達点。あの藤本センパイと〝燈炯燿煌〟がいた館三、黒い〝鉄鎚〟こと藤島透を擁した落中も、ベスト4まで行ったという話は聞いてない。
二つ上の玉中は、それほどのチームだった。
あるいは、それ以上のチーム。あの時の玉中は、わたしの目には、ベスト4に手を掛けていたように見えた。
「えっ、でも、玉中時代も万里先輩がエースで、一番高かった――みたいな感じじゃなかったっけ?」
「うん、合ってる。一番高かったのは万里センパイ」
「ってことは……今に輪を掛けて守りが堅かったのね。そこからあの連携――玉緒第二に館商のリベロの日下部杏子先輩が加わるんだから、ベスト8は行くか……」
千晴の中では何かの整合性が取れたようなので、わたしは敢えて、『あの人』のことには触れない。
レフトエースの板野万里センパイ。
セッターの倉知娃佳センパイ。
当時はセンターだった田村真琴センパイ。
その対角で石館第一に行った小谷架センパイ。
ライトは日下部杏子センパイ。
唯一の二年生レギュラーだったリベロの緋上真直センパイ。
そこに――もう一人。
今、北地区にはいない、あの人。
当時の玉中を語る上で欠かせない、というか、当時の玉中を語るということは、あの人を語るということに等しい……そんな人。
――ぱんっ!
軽快な打音で、我に返る。藤本センパイのスパイク。超インナーとでも言うべきコース――ほとんどネットと平行に打たれたボールが、FLを守っていた瑶子センパイの右側の足に当たり、ネットの下を通過して館商コートへ飛んでいった。
スコア、4―2。
「……すごいというなら、元館三の藤本センパイ。全部一人で決めてるよね」
「それはあなた、あのいちい君先輩ですもの……」
畏れのこもった千晴の言葉。
館商のローテが回る。その藤本センパイは、まだ前衛。ミドルブロッカーの佐々木センパイが下がって、一旦、杏子センパイが抜ける。
代わりに前衛に上がってきたのは、元館二のセンター――宝円寺瑠璃センパイ。
お昼は真直センパイたちにああ言ったものの、実際に、全力のセンパイたちが苦戦している姿を見ると、北地区一位の壁――ひいては県ベスト8の壁というのが、どれほどのものかわかる。
でも、センパイたちが、口ではあんなことを言いつつも、コートではまったく諦めていないのも、わたしにはよくわかる。
……頑張って、ください。
「「サーブカットー!! 一本!!」」
千晴と一緒に声を出す。それが、今のわたしにできる、唯一のことだから。
登場人物の平均身長:164.3cm




