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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
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118(明晞) 慣れないこと

 さてさて、始まりましたねえ、決勝戦。


 開始早々、いちい君のスーパープレーで二連続得点。とりあえずペース掴んだかなあ、と思いきや、ところがどっこい。


 〝最終防(Red Line)衛線(Keeper)〟――緋上ひのうえ真直ますぐちゃん、149センチ。


 〝千紫(Kaleido)万紅(Scope)〟――藤本ふじもといちい君、179センチ。


 ちょうど30センチ差の二人は、ほんの一秒ほど、ネットを挟んで睨み合った。


 あるいは、単純に、ボールを返そうと立ち上がった緋上ちゃんの目と、いちい君の目とが、たまたま合ってしまっただけなのかも。


 でも、まあ、あのいちい君に上から睨まれて目を逸らさない人間なんて、ごくごく限られているわけで。


 二点差くらいでへこたれるわけがない、ってことだね。いやあ、わかってたけどさ。


「すまん、いちい君、ナイスカバー」


 緋上ちゃんからボールを受け取ったいちい君の元に、セッターのやなぎ千里ちさと――千里センリが駆け寄る。いちい君はボールをサーバーである私にパスすると、千里センリを見下ろして言う。


「柳さん」


「ん?」


「トス、割れるくらいなら、ネットの真上に上げてください。ブロッカーがいても僕なら決められます」


「……おう、わかった」


 千里センリは静かに頷く。いちい君はそのままネット際について、相手アタッカーにプレッシャーを掛ける。


佐々木(ささき)


「む、なんだ?」


「センターは僕がチェックする。お前は板野さん(レフト)をマークしろ」


「うむ、了解した」


 冷たく低い声で、簡潔な指示を出すいちい君。ボールを受け取ってから一連の流れを眺めていた私は、サービスゾーンにて、人知れず苦笑。


 いちい君は、試合になると、ただでさえミニマムな愛想が、完全にゼロになる。こういうの、玉に瑕って言うべき? けど、それでこそいちい君のいちい君たるいちい君ってわけで。小学時代から彼女を知ってる『きたかぜ』『たいよう』メンバー以外の、杏子あんず郁恵いくえなんかは、入部したばかりの頃は少し戸惑ってたけど。今ではもう慣れたようで何より。


 スコア、2―0。


 サーブは私。三本目。過去の対戦や、一、二本目からわかる通り、玉緒第二がサーブで崩れることはまずないので、コンビが来ると思っていい。


 BL(バックレフト)守備位置プレイヤーポジションの私がサーバーなので、代わりに杏子がツーアタック(ないと思うけど、一応ね、一応)を警戒している。まあ普通に考えて、いちい君がレフトブロッカーをしている今、ツーやライト攻撃はない。ほぼ間違いなく板野いたの万里ばんりさんのレフト平行が来る。


 ぼむっ、といつものようにボールをワンバウンドさせてから、私はサーブを打つ。ばしっ、と狙ったのは後衛バック最上もがみ瑶子ようこさんと田村たむら真琴まことさんの間。それを緋上ひのうえちゃんの指示で田村さんが取りに入り、ぴったり倉知さん(セッター)に返す。同時に、レフトにいた石蕗つわぶき千愛ちいさんとセンターにいた板野さんがポジションを入れ替わる(スイッチ)


 そして、〝束の(Pop the)(Clutch)〟――倉知くらち娃佳あいかさんが選んだのは、やっぱり板野さんのレフト平行。ミドルブロッカーの郁恵は最初から彼女をマークしていたものの、まだその速さについていけてない。


「っしゃ!!」


 だんっ、


 と、景気のいい音が鳴った。板野さんのスパイクは、郁恵と尾崎おざき玲子れいこの間を抜け、コート中央へ叩き付けられる。


 私は跳ね上がったボールを真正面でキャッチして、ひゅう、と口笛を鳴らす。


 さすがは〝頂の上(Over Top)〟――こうして何度彼女に決められてきたことやら。


「……明晞あき、せめて一歩くらい反応できないもんか?」


 私の代わりに落下点へ飛び込んだ日下部くさかべ杏子あんずが、立ち上がって呆れ気味に言う。


「またまた無茶を言いなさる。昔の仲間(玉中クオリティ)を標準にしないでほしいねえ」


「にしたって、万里(相手エース)のスパイクにキャプテンが棒立ちじゃチームの士気に関わるだろ」


「そんなことで士気が下がるタマかね、うちの唯我独尊アタッカーたちは」


 言うと、杏子は、ふうっ、と小さく息を吐いた。


「どうにも……お前を相手にしてると調子が狂う」


 私は『お手上げ』のポーズで肩を竦めてみせる。


「まあ、確かにキミの上に立つのに私じゃあ役不足さ。ねえ、〝(Low)の下(Lander)〟?」


「……別に、そういう意味で言ったわけじゃない。というか、その『役不足』は誤用だぞ」


 おいおいこれこれ杏子さんよ。誤用そこを指摘しちゃっちゃあつまり、『そういう意味で言った』ことになっちゃっちゃわないかね?


 まあ、それこそ別に、私は『彼女』と張り合うつもりはないけどさあ。


 さてさて、スコアは、2―1。


「カット集中! 一本で切っていこう!」


 定位置に戻った杏子リベロは、いつもの調子で周りに声を掛ける。安心して背中を任せられる仲間がいるってのは、楽な――もとい、うん、いいもんだねえ。


 玉緒第二のサーブは、倉知さん。向こうの攻撃アタッカーは、〝(Rotary)(Cutter)〟――田村真琴さんが加わって、三枚。ラリーが続けば続くほど玉緒第二は厄介だから、サーブカットからの攻撃一回で済ませたいところ。


 ばしっ、


 とサーブが放たれる。コースは玲子と私の間、やや玲子寄りくらい。


「オー」


「だいじょーぶ! 任せ任せえ!」


 私は落下点に入りながら、ボールに反応して手を出しかけていた玲子をライトへ追いやる。


「よおーし、ほい――あっ」


 大見得を切って請け負ったわりには、ライトへ流れる微妙なカットになってしまった。まあ、〝半径(Single)四呎(Step)〟こと千里センリなら、これくらいは許容範囲のはず。


「レフト!」「A!」「ライト!」


 三人のアタッカーが同時に呼ぶ。千里センリはレフトのいちい君へトス。相手ブロッカーは二枚だ。倉知さんが下がったので若干壁は高くなっている。とは言え、150台のブロッカーが160台になったところで、いちい君にとっては誤差でしかあるまいよ。


 ぱぼんっ!


 と、いちい君はライトブロッカーの田村さんの腕に当てて、こちら側へ跳ね返ってくるブロックアウトを取った。ネットのこっち側なら、いくら〝最終防(Red Line)衛線(Keeper)〟こと緋上ちゃんと言えども、手の出し用がない。


 スコア、3―1。


「おおう、ナイスキー、いちい君」


「……斎藤さいとうさん」


 僅かに眉を顰めているいちい君。おや、と思って周りを見ると、千里センリと玲子も同じように訝しげに私を見ている。


明晞あき、どうした、急に?」


 歯の間にものが詰まったような顔で、玲子が言う。恐らくは、今のサーブカット横取りの件だろう。


「いやあ、せっかくの三枚攻撃だし、たまにはキャプテンっぽくフォローしてみようかなあと思って」


 ちょっと照れた感じで私が答えると、玲子と千里センリといちい君は顔を見合わせた。そして、三人を代表したいちい君が、呆れたように言う。


「調子狂うんでやめてください」


 ばっさり切り捨てて、いちい君は定位置に歩いていく。千里センリと玲子も同意見らしく、特にフォローはしてくれない。


 私は杏子のほうに振り返って、肩を竦めてみせる。杏子は口をヘの字に曲げた。


 いやあ、やっぱ慣れないことはするもんじゃないねえ。

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