115(ひかり) 決勝戦
宇奈月さんにメッセージを送ると、宇奈月さんと藤島さんはすぐに戻ってきました。
「透ちゃん、おかえりなさぁい」
「た、ただいまです」
「藤島さん、大丈夫ですか?」
「う、うん、ご心配をおかけしました」
ぺこっ、と頭を下げる藤島さん。顔色は良くなっていますし、隣の宇奈月さんもVしているので、一安心です。
「ねえ、透」
藤島さんが復活したと見るや、ちょっと早口に霧咲さんが呼び掛けます。藤島さんが「なに?」と聞き返すと、霧咲さんはギャラリーの反対側を指差します。
「あっちにあいつらがいるんだけど……もしかして、もう会った?」
「あ、うん、久々原さんたちだよね。さっき入口でばったり」
「なんか変なこと言ってなかった?」
「えっ? んー……特には。いつもの感じだったよ」
「そう……」
霧咲さんは少しほっとしたようにそう呟きます。そこへ、すかさず立沢先輩がマル秘ノートを見ながら確認を取ります。
「久々原というと、霞ヶ丘出身の〝双翼〟?」
「そうです、そのお二人です」
「また有名人っスか! どの人っスかどの人っスか!」
「反対側にいる制服の……ほら、あの瓜二つの」
「おお、もしかして双子っスか!?」
「二卵性のね」
「そう言えば、どっちがお姉さんなの?」
「右利きの古夏が姉。左利きの千冬が妹」
「あの〝双翼〟は、ずっとあなたとコンビを組んできたのよね?」
「はい。あの二人は小三からバレーやってて、あたしは小四で誘われて……それ以来の付き合いです」
「あの時の『かすみ』は反則でしたよ。霧咲さんと〝双翼〟がずっと前衛にいるんですから」
「小学バレーはローテーションがないからね」
「そうなんだね……あ、でも、中学では並んでるの見たことない」
「中学では、セッターのあたしとサウスポーの千冬が対角になったから」
「ところで、〝双翼〟以外にも高いのがいるみたいだけど、一人は望月炯子の姉で合ってる?」
「はい、合ってます。二年生の望月燈子さんです。あと、もう一人高いのは、多摩川勝美っていって、中学時代に私の対角だったウイングスパイカーです」
「それはまた上物ね……えっと、彼女たちはどこの高校?」
「「霞ヶ丘女子です」」
「事情がうちと似ているみたいです。上級生が少ないって話でした」
「なるほど……うん、インハイ予選前に存在が知れて良かった」
立沢先輩はしみじみとそう言って、マル秘ノートにメモを取ります。それを見て、私は横から小声で補足します。
「あと、あの中で一番小柄な方は、館三でリベロをされていた方です。桜木さんというのですけれど」
「桜木――桜木恷ね? 館三の〝働き者の奥方様〟」
「はい。一つ上の代から館三で正リベロだった方です。要注意人物かと」
「オーケー。ありがと」
と、背後に何やら気配を感じ振り返ると、なぜかおろおろしている藤島さんと目が合いました。おろおろの理由はよくわかりません。確かめようかとも思いましたが、隣の立沢先輩がノートから顔を上げる気配がしたので、そちらに意識が引き寄せられました。
「……ようやくお出まし、だね」
そう呟く立沢先輩が見ている方向――体育館の入口に、私も目を向けます。
「お色直しも完璧だ★」
美森先輩のおっしゃる通り、各チームとも準決勝とは配色を変えてのご登場。中でも目を引くのは、やはり、勝負ユニフォームで決勝に臨む二校です。
深紫地にゆらゆらと立ち上る真紅の陽炎――石館商業。
赤と白の〝廻る血球〟――その緋の和バージョンは、玉緒第二。
「準決勝までは好きなほうを見てもらったけど、ここからはみんな決勝戦――北地区一位と二位を、しっかり見てね。この二校を倒せなければ、たとえ組み合わせに恵まれて県大会に行ったとしても、一回戦負けは必至」
立沢先輩のシビアなお言葉に、緊張感が高まります。
「まずは北地区二位――玉緒第二からおさらいしていこう」
プロトコールまで間もなく。その短い間に、ネットを使ってスパイク練習を始める各校。
ばしんっ、ばしんっ、とテンポよくボールを打ち込んでいきます。
「背の高い順にいこうか。玉緒第二で一番高いのは、169センチの長谷川香弥。館二出身のセンターで、二年生。彼女は玉緒第二の守備における前衛の要。〝射出軌道〟の名で知られる、優秀なミドルブロッカー」
「うん。香弥を振るのはかなり難しいと思うよ」
補足は市川先輩です。
「次に、168センチ。レフトのウイングスパイカー、〝頂の上〟――板野万里。玉中出身の三年生で、玉緒第二のエース。ジャンプ力があるから、実質的には170級のアタッカーと思っていい。さらに、彼女は高いだけじゃなく」
「倉知先輩と組むことで、速さが加わる」
補足は私です。
「そう。〝束の間〟――セッターの倉知娃佳。玉中出身の三年生。156センチと小柄で、ブロックやセットアップ技術では、他の上位校のセッターと比べるとやや強みに欠ける。けれど、同じ玉中出身のアタッカーとの連携においては、その限りじゃない」
あの方々のコンビは、小学生の頃からですからね。
「彼女のトスがあるから、板野万里は速い攻撃でも思い切ったジャンプができる。彼女の通り名である〝頂の上〟――あの最高到達点でトスを『待つ』平行を引き出せるのが、倉知娃佳というセッター」
私は、こくっ、と頷きます。
「また、同じく玉中出身の、三年生のライト、〝円の外〟――田村真琴、二年生のセンター、石蕗千愛。それぞれ162センチ、165センチ。
この二人と倉知娃佳のコンビネーションもまた抜群。小気味よく打ってくる。
そして何より、板野万里も、田村真琴も、石蕗千愛も、倉知娃佳も、一様にレシーブが上手い。石蕗千愛はミドルブロッカーだけれど、並のリベロとは代わる必要がまったくないほど」
言って、立沢先輩は、一人だけスパイクを『受けている』あの人に目を向けます。
「当然、玉緒第二のリベロは並じゃない。玉中出身の二年生、身長149センチ、緋上真直。玉中の紅一点……これ以上の説明は不要ね」
そして――と、立沢先輩は、藤島さんに振り返ります。
「最後に、玉緒第二のキャプテン。落中出身の三年生、163センチのレフト・ウイングスパイカー――〝なべてならず〟の最上瑶子。抜群に安定感のある選手。中学時代もキャプテンだったのよね?」
「はい。瑶子さんは……なんというか、どんなときでもブレません」
補足は藤島さん。言わんとしていることはわかる気がします。準決勝の様子を見る限り、キャプテンの資質に富む方のようでした。
それと――これは玉中出身者にしかわからないことですが――あの最上瑶子先輩という方は、板野先輩たちや緋上先輩たちのキャプテンとなるのにぴったりな適正を持っているのです。
つまり、どことなく、似ているのです。
「以上が、玉緒第二のレギュラーメンバー。チームとしての特徴はなんといってもあの守備力。レシーバー全員がリベロと言っても過言じゃない。とにかく拾って、繋いで、コンビネーションで決めるチャンスを伺う。
で、じゃあ具体的にどのくらいのレベルの攻撃をすれば玉緒第二を崩せるのかっていうのは……たぶん、館商が教えてくれる」
そして、おさらいの内容は館商へと移っていきます。
「北地区一位――石館商業。北地区の強豪と言えばここ。県ベスト8常連。脅かすつもりはないけれど、わたしたちは一回戦、あるいは二回戦で館商と当たる可能性が大いにあるのだということを、忘れないでね」
今日のトーナメント表を見る限り、その可能性は、約25パーセント。
4分の1の確率で、いきなりクライマックスなのです。
「さて、何度も何度も繰り返すけれど、そんな館商のエースは、179センチ――二年生の藤本いちい。県内でも最上級のウイングスパイカー。中学県選抜では全国ベスト4とのこと。彼女が全国レベルの怪物であることに、もはや異論はないと思う」
一同、深く同意です。
「で、そんな藤本いちいの対角にいるのが、館二出身の三年生。171センチ、〝明の一番星〟――斎藤明晞。藤本いちいを除けば、北地区で最も実力のあるウイングスパイカーの一人。館商のキャプテンでもある」
「明晞はどこからでも決められるのが強みかな。ライトからでも問題なく打てる」
「だからこそレフト対角なんだよね。ま、これは試合を見ながら話すとして――」
と、ここでついにプロトコールです。Aコートのほうでは最上瑶子先輩と斎藤明晞先輩が、Bコートのほうでは修英学園の湊ゆかり先輩と石館第二の室井冴利先輩が、審判に呼ばれて記録席へと向かいます。
「次に、セッター対角。斎藤明晞と同じく、北地区で最も実力のあるウイングスパイカーの一人。館三出身の三年生、172センチ、〝帚星の尾〟――尾崎玲子」
「尾崎さんは、レフトでの決定率が高い。逆にライトからだとそれが下がる。だからこそのセッター対角。よくできてる」
「そう。よくできてる」
市川先輩と立沢先輩は二人揃って何かに感心しています。恐らくは、館商のちょっと変わったローテのことでしょう。
「続いて、セッター。164センチ、館四出身の〝半径四呎〟――柳千里」
「千里ね。昔に比べると上手くなったよー」
「いや、由紀恵、それだと柳さんが昔は下手だったみたいでしょ。そんなことないから」
ちなみに、柳先輩は油町先輩と同じ石館第四中学の出身ですが、小学時代は尾崎先輩や藤本先輩たちと同じバレークラブ――『たいよう』に入っていたそうです。なので、尾崎先輩や藤本先輩と組むのは、高校が初めてではないのだとか。
「あとは、リベロの〝陽の下〟――日下部杏子。玉中出身、158センチ。元アタッカーというだけあって、オーバーハンドでのカットや二段トスにも優れている。この辺り、同じ玉中出身でも、140台のひかりや緋上真直とは少し毛色が違うね」
そうですね。日下部先輩の紅は、言うなれば杏色でしょうか。
「ここまでが、三年生。つまり、館商もミドルブロッカーの二人が二年生なんだね。一人は、ここに来る途中に会った子。館二出身、170センチ、〝飛行原石〟――宝円寺瑠璃。長谷川香弥と比較すると、彼女は攻撃型。特に速いトスを好むみたい」
「瑠璃は、由紀恵ほどじゃないけど気分でテンポが変わるんだ。ハイになってくると、たまに私がボールに触る前から跳んでたりする。すごいのは、そんなタイミングでジャンプしてるのに、トスを上げると打っちゃうところ。ジャンプ力もそうだけど、猫みたいなバランス感覚で空中を動くんだよね、あの子」
それは……すごいのは合わせている市川先輩のほうなのでは……?
「逆に、と言うべきか、対角にいる霞ヶ丘中出身の佐々木郁恵は、きっちりぴったりしたミドルブロッカー」
「郁恵先輩は、ラリー中でも、いつもと同じ位置、同じタイミングで入ってくれます。それも不変じゃなくて、こっちが頼めば逐一調整してくれるので、丘中ではみんなから〝可変翼〟って呼ばれてました。頼りになる先輩です」
「うむむ……聞けば聞くほど凄そうなメンバーっスね」
「ちなみに、館商のスターティングメンバーの平均身長は、県内最高の左こと生天目信乃がいる南五和を超えるよ」
「マジっスか!?」
「そんなに驚くことはないよ、梨衣菜。うちだって、高いほうから六人取り出して平均すれば、南五や館商を超えるんだから」
「なんと!?」
そうこうしているうちに、公式練習が終わり、整列となりました。
Aコート、決勝戦、石館商業VS玉緒第二。
Bコート、三位決定戦、石館第二VS修英学園。
ブロック大会北地区予選、最後の二試合が、まもなく始まります。




