114(勝美) 高校生
今日北地区の大会があるなんて話はつい数時間前まで燈子先輩を除いて誰も知らなくて、練習が終わって部室で携帯を弄っていた燈子先輩が「おー、炯勝ったのかー」などと呟いたのをきっかけに古夏と千冬があれこれ聞き出し、なんやかんやでみんなで偵察に行こうという流れになった。
勝ち上がってるらしい高校名に透の行った城上女が挙がらないのはなんでだろう……とぼんやり疑問に思っていたのだが、どうやらあっちも事情は似ていて、今回は大会に出てなかったのだった。
「そっちも頑張って! 私が言うのもなんだけど、高い人いっぱいだよね! うちも負けてられないなぁ――あ、練習試合とか、できたらいいな! あ、あと、燈子さんにもよろしく! じゃあねー!」
ぱたぱたっ、と透が慌ただしく去っていったあと、あたしたちはなんとなくすぐ中に入る気になれず、その場に留まった。
「『高い人いっぱい』、ねェ」
くくくっ、と可笑しそうに笑ったのは、久々原古夏――173センチ。
「ま、ホントあいつに言われてもなんだよなァ」
呆れ気味に同意したのは、久々原千冬――171センチ。
加えて、燈子先輩が174センチ、あたしが169センチ、リベロの桜木恷は除いて、あとは佐原由利乃が161。そして、今は不在の、ゲームをやると言って帰ったあの人が167センチ。
170前後が五人というのは、地区大会レベルではかなり高いに違いない。
もちろん、透は言うまでもなく、〝白刃〝〟は千冬以上古夏未満で、あたしより高い。透と一緒にいたポニーテールの人も160半ばくらいですらっとしていた。
「んー」
「勝美ちゃん、どうしたの?」
「あっ、いやいや! なんか、透の口ぶりだと、他にも高い人がいるような感じがしてさ!」
「そりゃ音々だろォ?」
「〝白刃〟以外に、ってことだよ。えっと、透の中での透自身の戦力って、外から考える透の戦力より、確実に小さく見積もられてるんだけど」
「あいつそういうとこあるよなァ」
「で、そんな透の口から『うちも負けてられないなぁ』って言葉が出てきたよね?」
「五分かやや上の相手に使う言葉だよなァ」
「そうそうっ! そんでさ、透はさっき、頭の中で、あたし・あんたら・燈子先輩って四人のアタッカーと、〝白刃〟+透(過小評価)を比べて、『負けてられない』って言ったとするよね? 五分というには若干バランス取れてなくない?」
「燈子先輩もカウントされてるなら……そうだな。セッターの〝白刃〟と藤島透(過小評価)の二人だけじゃ、釣り合わない……」
「だから、あたし思うんだけど、〝白刃〟の他に、少なくとも二人くらいは、170前後のアタッカーがいるんじゃないかなって」
「170前後っつゥと、一年にはもう残ってなくねェ?」
「燈子さんの妹は石館第二っつってたもんなァ」
「ってことは……上級生?」
「寧子さんは石館第二だったかァ」
「郁恵さんは館商でェ」
「落中だと新子先輩――は石館第一だっけ」
「玲子先輩、いちい君先輩は館商。燈子先輩はうち、炯子は石館第二、燿先輩は落山北、煌先輩は石館第一……」
「あ、あの」
「可能性があるとしたら……館二の三年生か、二年生だと宝円寺先輩、長谷川先輩辺りが高いけど。いや……でも館二の人なら普通に石館周辺の高校に行くよな……」
「あのー」
「あっ、ごめん、どうしたの、由利乃?」
「いや、普通に、中に入って、直接ご挨拶してくればいいのでは? 城上女の人たち、いるみたいだから」
「おおっ、言われてみれば!」
「どーするよォ、チフ?」「どーすっかァ、コナ?」
「……わたし、パス」
「あー、ええっと……まあ、なんにせよ中に入ろう? 燈子さんも待ってるだろうし」
ごもっともだった。
かくして、あたしたちは試合会場内へと入っていったのである。
そして、結論。
透たちを遠目に見たら、確かに高い人はいた。具体的に判明したのは、二つ上の館二のセッター(燈子先輩が教えてくれた)。だが、恷以外の一年生はいまいちどんな人か思い出せなかった。
むしろ、城上女の人たちの中では小柄な館一の〝ガンタンク〟に、あたしたちは恐れ戦いた。そして冗談半分に〝ガンタンク〟の伝説を語っていたら、さすがに由利乃に怒られた。
ちなみに、由利乃の出身は、石館第一中学。
館一のガ――もとい岩村先輩とは、浅からぬ縁があるらしい。なんだか事情があるらしく、詳細は濁されてしまった。
大会のほうはというと、もう大詰めを迎えていて、連戦のための休憩が終わり次第、決勝と三位決定戦が行われるらしい。
決勝のカードは、石館商業VS玉緒第二。今の北地区ではこの二校が鉄板なのだとか。
三位決定戦のカードは、修英学園VS石館第二。
石館第二は、燈子さんの妹の炯子さんが活躍し、あたしの先輩が多くいる落山北を破って、県大会出場を決めたらしい、っていうのを、その落山北に行った真里亜先輩から聞いたっていうか、その落山北のレギュラーと、ギャラリーで隣り合ってるの、ちょい気まずい。
……まあ、でも、たぶん、直に慣れるとは思うけど。
みんなそれぞれの場所で、それぞれのやりたいことを、それぞれのやりたいようにやる。
足並み揃えて同じ道を歩いた小・中学生の頃とは違う。
高校生になったんだなあ、と、あたしはその時にしみじみ思ったのだった。




