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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
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113(透) 霞ヶ丘女子

「だいじょーぶー、とーるう?」


「うぅ……ありがと、実花みか。あとで払うね……」


 体育館のロビーにあった自販機で、実花がスポーツドリンクを買ってきてくれた。それを受け取って飲む。もう噛んだところには沁みなかった。気分が落ち着いてくる。


 体育館の軒下に腰掛けて、空を見上げる。まだ日が高い位置にあって、一面、薄い水色。試合の密度が濃いから、もう日が沈むくらい時間が経ってたんじゃないかと思ったけれど、全然そんなことない。


館商だてしょうのいーちー先輩とは、中学時代に何かあったの?」


「何かあった……わけではないの。あ、その、いちいさんのいた館三だてさんとは大会のたびに試合したり、県選抜でお世話になったりしたんだけど……そういうことじゃなくて。たぶん、私がおどおどしてるのが、気に入らないんだと思う……」


「性格の不一致?」


「……うん。でも……だって、いちいさん、恐いんだもん」


「なるほどー」


 そう言って、実花は私の頭をさわさわと撫でてくれる。いつか三園みそのさんがしてくれたときと比べると、実花のそれは控え目だ。


「落ち着いたなら、みんなのとこ戻る? とーるう、有名人だから、あんまり出入口ここに長くいないほうがいいと思うけど」


「うん。そうする。偵察……しなきゃね」


「偵察もいいけど、とーるうの場合、まず恐がりを直すところからだねっ!」


 ちょんっ、と実花はピースで私の横腹を突いた。


「ちょ、実花っ! く、くすぐったいから!」


「ぶいっ! ぶいっ!」


「ひょ、ひにゃん!?」


 なんてじゃれ合っていた、そのとき。


「おー? そちら落中らくちゅうの黒い藤島ふじしまさんではー?」


 ほにゃっ、とした眠そうな声に呼ばれて、振り返る。


「えっ……わっ! と、燈子とうこさん!?」


 そこにいたのは、望月もちづき燈子さん。館三でミドルブロッカーをしていた一つ上の先輩だ。着ている服は、ジャージやユニフォームではなく、どこかの制服。


「おー覚えててくれたかー」


 燈子さんは欠伸するようにほわあっと微笑む。いちいさん同様、大会のたびに対戦していた人なので、忘れるわけがない(というかついさっきまで妹の炯子けいこさんがプレーしているところを見ていたし)。


 それから……後ろにいる、同じ高校の制服を着た人たちのことも、同じくらい忘れられるわけがない人たちというか、普通に知り合いだった。


「よっす、とおる! お、なんか元気ないね? どうした? ってかなんで制服なの?」


 爽やかに笑って片手を挙げたのは、元同級生(チームメイト)――落中(らくちゅう)で私の対角を務めていたウイングスパイカー、多摩川たまがわ勝美かつみ


 さらに、


「出たな黒い鉄鎚(バケモノ)ォ!」「ここで会ったが百年目ェ!」「中学の借りは高校でペイバァーック!」「え、つかァお前どこ高行ったの?」


 左右から矢継ぎ早に捲し立てる、声も顔立ちもそっくりな二人組。音々(ねおん)のお友達で、双子のウイングスパイカー――霞ヶ丘(かすみがおか)中の〝(Winter)(Summer)〟さん。


「……わたしも気になるんだけど……」


 ぼそっ、と小声の呟きは、望月さんや勝美や〝(Winter)(Summer)〟さんの影から聞こえてきた。姿は見えないけど、誰かはわかる。館三のリベロ――〝働き者の(Restless)奥方様(Mistress)〟さんだ。


 あと、もう一人、たぶん一年生っぽい感じの人がいる。北地区でバレーをしていた人かもしれないけれど、あいにく覚えがない。ただ、あっちは私を知ってるみたいで、ちょこんと会釈された。


 そんな、同世代を中心とした、揃いの制服の六人組。


「透は城上しろのぼり女子だよねっ!」


 勝美が先に言う。丘中の双子さんが揃って眉をひそめた。


「城上女子ィ?」「なんでまたァ?」「館商とかァ!」「強豪じゃねえのよォ!」


「あ、あの、私、その」


「館商は藤島透には無理……いちい君先輩がいるから」


「あー、そーだよー、いちい君だよいちい君ー。ねー、黒い藤島さんー、ケイは今どーしてるー?」


「あっ、そ、そうです! 今、試合中ですよっ!」


「おー、そーかー、ありがとー」


 ふらふらっ、と燈子さんは私の横をすり抜けて体育館に入っていく。けど、勝美たちは残ったままだ。


「あっ、ごめん、透。何か言お」


「「ああああああァ!?」」


「……おい、急に叫ぶな双子……」


「城上ィ!?」「城上って城上女じょじょじょかァ!?」「城上女だなァ!?」「城上女だろォ!?」


 似た顔の二人が同時に迫ってきて、私の前に立つ。そして、二人は声を揃えて訊いた。


「「音々(ねおん)はどうしてる!?」」


「うえっ? え、えっと、仲良くやらせてもらってます……」


 私がそう返すと、双子さんは二人して目を丸くした。何か変なこと言っちゃったかな、と思っていると、勝美に声をかけられる。


「音々って、〝(Snow on)(the Edge)〟だっけ?」


「う、うん、そうだよ」


「あっ、じゃあ、ちょうどうちと逆さまというか、落中らくちゅう丘中おかちゅうのトレードって感じですね。これでやすみちゃんのお友達が城上女だったら面白いけど」


「……館三うちから城上女に行った人はいないはず。あとはまあ三園みそのひかり……は、どうせ玉緒たまのお第二……」


「み、三園さん、城上女うち、です」


「……なんだと? おい、それは本当か……?」


「えっ、は、はい! 本当です!」


「そいつは……いいことを聞いた。城上女……確実に潰す……」


 目が据わってる! ど、どうしよう! 黙ってればよかったのに……私のばか!


「それで、そちらの方もバレー部の……?」


 名前のわからない人が、実花に声をかける。傍観していた実花は、にこっと人懐っこく笑って、(ぶい)サインで応じた。


「いかにも! 城上女子バレーボール部一年、宇奈月うなづき実花みかです! よろしくお願いします! そういう皆さんは?」


 実花の問いに、霞ヶ丘の双子さんは顔を見合わせて(二人はいつの間にか元の調子に戻っていた)、息の合った台詞を返す。


「おいおい嬢ちゃんよォ!」「一年でうちらを知らねえたァ!」「地区外出身アウターかァ!?」「初心者トーシロかァ!?」


 双子さんは、びしっ、と左右対称のポーズを決めて、名乗りを上げる。


「最終成績北地区二位――霞ヶ丘中の〝(Winter)(Summer)〟こと、左担当レフト久々原(くぐはら)古夏こなつゥ!」


「同じく、右担当ライト久々原(くぐはら)千冬ちふゆゥ! ちなみに二卵性なんでェ! 以後よろしくゥ!!」


 あっ、二卵性だったんだ。双子で利き腕違うって珍しいって思ってたんだよね。


「どーもっ、初めまして! あたしは多摩川たまがわ勝美かつみ! 最終成績北地区一位の落山中学出身で、そこの透の対角やらせてもらってた者です!」


 勝美はにぱっと明るく笑ってみせる。ついこの間までは一緒の学校に通ってたはずなのに、なんだかひどく懐かしい。


桜木さくらぎやすみ……最終成績北地区三位――石館第三中学出身。誰から何を聞いているか知らないけれど……わたしが現一年の北地区ナンバー1レシーバーだ。繰り返す……わたしがナンバー1だ」


 そこはどうしても譲れないらしい。でも、確かに、桜木さんと三園さんでは、実績を比較すると圧倒的に桜木さんのほうが上なのだ。館三は県大会の常連だが、三園さんは、とうとう最後まで地区代表の枠に入れなかった(ちなみに最後の夏に玉中を敗退させたのは落中うち)。


「あ、えっと、佐原さはら由利乃ゆりのです。最終成績は……その、二回戦負けで……あ、左利き(サウスポー)ですっ」


 六人目は、佐原さん、というらしい。左利き……やっぱり思い出せない。でも北地区の人みたいだ。


「ご丁寧にありがとうございます!」


 ぺっこり頭を下げる実花。久々原さんたちは満足そうだった。


「えっと……みんなが、じゃあ、霞ヶ丘(かすみがおか)女子バレー部ということで?」


 私は勝美に確認する。勝美の進学先は、丘女おかじょで合っていたはず。


「そゆことっ! 上級生が二人しかいなくって、今回はエントリーが間に合わなかったんだよね。そういう城上女はどうなの?」


「あっ、うちも同じような感じ。だから、出るのは次から」


 私が言うと、勝美と久々原さんたちと佐原さんは爽やかに、桜木さんだけは陰鬱に笑った。


「じゃあ、決勝で会おうな!」


「「お前と音々と玉中の紅一点リベロなら余裕だろォ!」」


「……一回戦で消してやる……」


「お、お手柔らかによろしくお願いしますっ!」


「あわ、えっと、こちらこそ」


「お願いしまーすっ!」


 そのとき、ぴこんっ、と実花の携帯が鳴った。


「おっ、とーるう! 準決勝終わっちゃったって! 決勝は三十分後――それまでに、これまでのおさらいするから戻ってこいだって」


「あっ、もうそんなに経ってた……? う、うん」


 先に入口へ向かう実花のあとに、私もついていく。途中、勝美たちのほうを振り返って、軽く手を振る。


「そっちも頑張って! 私が言うのもなんだけど、高い人いっぱいだよね! うちも負けてられないなぁ――あ、練習試合とか、できたらいいな! あ、あと、燈子さんにもよろしく! じゃあねー!」


 ぱたぱたっ、と私は実花を追って体育館の中へと戻っていった。

登場人物の平均身長:164.3cm

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