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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
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111(千愛) あの人

 これといってミスらしいミスはしていないけれど、なんとなく流れが掴めずに、ずるずる引き離されて、現在スコアは、7―12。


 さすがにタイムアウトだった。


「気が入ってないぞ。ちゃんと集中しろ、真直ますぐ


 集合するなりそう言ったのは、キャプテンの最上もがみ瑶子ようこ先輩。どうやら瑶子先輩主導のタイムアウトだったらしい。こういうとき、寺尾てらお監督はあまり口出しをしてこない。今のところは、私たちだけでどうにかできる、と判断しているのだろう。


「うー……面目ないです、ほんと」


 名指しでダメ出しを受けて、真直ますぐは顔を覆う。瑶子先輩は、背格好や雰囲気があの人に似ているので、お叱りを受けるのは堪えるのだろう。私はフォローを入れる。


「すいません、瑶子先輩。真直ますぐってば、後輩が来てるからって、いいカッコしようとしてるんですよ」


「あの城上しろのぼりの連中のことか?」


 間髪入れずに問い返す瑶子先輩。『あの』という指示語を使いつつも、そちら(ギャラリー)には視線を向けなかった。なんとなく、瑶子先輩もあの中に後輩がいるのだと感じ取って、感じ取った直後に、瑶子先輩が落中らくちゅう出身だったことを思い出す。


 ひかりの後ろにいたあの大きな子――〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟のいた、落山らくざん中学。


「後輩が見ている前なら、なおさら気を引き締めろ」


 突き放すように(たぶん本人に他意はない)正論を吐く瑶子先輩。真直は胸に手を当てて、深呼吸を繰り返す。


「うー、すいません。やっぱり、そう思えば思うほど、緊張してしまって」


 そのらしくない弱々しい姿に、瑶子先輩は僅かに首を傾げ、私に小声で問う。


「……千愛ちい、その来ている後輩というのは誰だ?」


「私たちが引退した後の、紅一点リベロです」


「真直の後釜か。上手いのか?」


 そこで、私より先に真直が応える。


「ひかちゃんは……私の知る玉中たまちゅう出身者の中では、『二番目』に上手なレシーバーです」


 瑶子先輩は、表情を変えずに、目だけを細める。


「……それはつまり、お前や日下部くさかべよりも上だということか?」


「はい。そりゃもう、お姉さん譲りの怪物バケモノですから、あの子は」


 ざわっ、と傍観に徹していた周りのメンバーも、色めき立つ。


 私たち玉中出身者――ひいては当該世代の北地区出身者が、『あの人』を引き合いに出されて、平静でいられるわけがない。


 さしもの瑶子先輩も、たっぷり間を置いてから、聞き返した。


「…………その、姉譲りというのは」


「はい。ひかちゃんのフルネームは、三園みそのひかり。あの人の……実の妹です」


「……驚いたな」


「とか言って、瑶子さん、本当に顔に出ないですよね」


 くすっ、と真直は苦笑する。口に出したらすっきりしたって顔だ。瑶子先輩はじっと真直を見つめたまま、しばし考え、そして短く言った。


「行けるか?」


「はいっ! カッコいいとこ見せつけます!」


「調子に乗るな」


 ぴしゃりと断じて、瑶子先輩は他のメンバーに目を向ける。締めに入るのだろう――と思っていたら、半端に口を開けたまま動かなくなった。


 その視線は、体育館の入口のほうを向いている。私たちもみんなそちらを見た。お馴染みの深紫軍団――石館(いしだて)商業しょうぎょうだった。


 ぴりっ、と、試合とは別種の緊張がメンバー内に走る。


「もたついてる場合じゃないですよね……!」


 そんなことを言ったのは、センターの長谷川はせがわ香弥かや。私と同じ二年で、出身は石館二中。館二だてに館三だてさんが中心の石館商業――特に同学年・同中出身・同ポジションの宝円寺ほうえんじ瑠璃るりさん――には色々と思うところがあるのだ。


香弥かやの言う通り。だが、意識はあくまで目の前の敵に向けろ。館商だてしょうはそのあとだ。いいな?」


「「はーいっ!」」


 ここで「はいッ!」と畏まらないのが玉緒第二――というか、玉中っぽい。瑶子先輩に言わせると「闘争心が感じられない」返事。もちろん、みんな全力でプレーするし、勝ちたくないわけではない。


 ただ、「試合をする」「相手に勝つ」という経験が、他と少しズレているだけ。


 曰く、「彼女と小学校から一緒にプレーしてきた」私たちが「そうなるのも無理はない」。


 ともあれ、タイムアウトが終わり、私たちはコートへ戻る。


 一番に駆け出したのは真直ますぐ定位置コートポジションに立つと、大きく手を広げて叫んだ。


「ばぁあーっちこぉーい!」


 うん。ようやく、らしくなってきたみたい。


 これで……もう防衛線うしろへの憂いはない。


 私は、ふうっ、と息を吐いて、まえを見据えた。

登場人物の平均身長:164.4cm

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