110(ひかり) 先代
ブロック大会北地区予選、Bコート準決勝。
前回大会・北地区二位――玉緒第二、VS、前回大会・北地区三位――修英学園。
その一セット目、リードしていたのは、修英学園でした。
準々決勝の勢いそのまま、と言えばいいのでしょう。見たところ、玉緒第二には170を超える選手がいないので、攻撃面では修英のほうが有利です。
〝放漫浪漫〟――大堂斎先輩、170センチ。
〝皮剥ペティ〟――兵地文香先輩、168センチ。
〝小細工師〟――宝条薫子先輩、165センチ。
〝焔の残像〟――吉倉知佳子先輩、169センチ。
実力派のアタッカー陣が、美森千穂先輩のレシーブと、遠藤かつき先輩のトスに支えられ、景気よく決めていきます。
ノりにノっている修英学園。玉緒第二はなかなか反撃の糸口を掴めません。そうこうしているうちに二度目の湊ゆかり先輩――〝軌跡を喚ぶ女〟の天井サーブ。
どんっ、と力強く打ち上げられるボール。よく見ると回転まで掛けられています。
リベロの緋上先輩が手を挙げて落下点に入ります。が、結果はまさかのCカット。それを辛うじてレフトへ繋ぎますが、決定打にならず、修英のコンビの餌食となってしまいます。
スコア、7―12。
ここで、玉緒第二の監督が一回目のタイムアウトを取りました。先輩方の不調にずっとはらはらしていた私としては、やっとか、という思いです。
「立沢先輩……これはどう思われますか?」
深呼吸をして、張っていた肩の力を抜き、私は立沢先輩にご意見を求めます。
「単純に、身体が暖まってるか暖まっていないかの差だと思う。修英学園はここまで二戦快勝。しかも準々決勝からの連戦――心身ともに硬さが取れて、今が一番脂が乗ってる。
対して、シードの玉緒第二は、午前中に格下と一試合戦っただけだから、これがほぼ初戦みたいなもの」
「あるいは、隣のコートで落山北VS石館第二の大熱戦があったのも、影響しているでしょうか?」
「そうだね。石館第二が落山北を下したことで、下克上の気運が高まっているのかもしれない。それが修英学園を後押ししている可能性もある。
まあ、それを差し引いても、この結果は予想の範囲内。修英は攻撃力のあるチームだから。個々のアタッカーの実力も高いし、コンビも安定して使えている。ただ……」
立沢先輩はマル秘ノートに目を落とし、静かに語ります。
「修英学園のスパイク――まだ、一度も、打ったボールが玉緒第二のエンドラインを割ってない。得点はしているけれど、玉緒第二のレシーバーは、その全てに触っている。反応も対応もできている、ということ。本調子ではないにも拘らず、ね。
まあ、この辺の事情は、わたしよりあなたのほうが、当然詳しいでしょ?」
私は頷きを返して、玉緒第二のベンチに目を向けます。
十二人の選手の中で、一人だけユニフォームの色が違うあの人に。
「あなたの先代の紅一点は、『そういうこと』を得意とするリベロ」
「……はい。その通りです」
同じ紅一点でも、微妙に違う、リベロとしての特色。
「その定位置はエンドライン上中央。広い視野と守備範囲を持ち、的確な指示と判断力でチームを最後方から支える要塞。打たれたボールを決して背後に逸らさない――たとえ拾えなくても直後にボールに追いついて必ず『止める』。彼女は、そういう選手」
私は火、あの人は緋。
「先代・玉中の紅一点――緋上真直」
「おっしゃる通り……〝最終防衛線〟、です」
三年前にも、私は緋上先輩のプレーする姿を、こうして応援席から見ていました。
そして、それから一年間、私はあの人が引退するまで、その紅をずっと見続けてきました。
だから、わかるのです。あの人の紅は、まだまだこんなものではありません。
「そんなに心配しなくても、そろそろ血が廻ってくる。北地区二位――玉緒第二の真価はここから」
そう言った立沢先輩は、不意に、体育館の入口のほうに目を向けました。
「ところで、ひかり。先輩を応援したいのはわかるけど、ちゃんとあっちも偵察してね」
現れたのは、強者の風格を漂わせる深紫ジャージの一団。
タイムアウトが明け、玉緒第二と修英学園の選手がコートに散っていくのと同じタイミングで、足早に反対側(ステージ側)のAコートへ向かっていきます。
前回大会・北地区一位――石館商業高校。
あちらは石館第二が連戦なので、試合開始はもう少し先。私はひとまず、玉緒第二の応援――失礼、偵察に戻ります。
ちょうど、コートの中で、大きく手を広げた緋上先輩が声を上げるところでした。
「ばぁあーっちこぉーい!」
そのとき、ふふっ、と背後で笑い声。
振り返ると、にこにこ顔の宇奈月さんと目が合いました。
「ひかりんと同じこと言ってる」
私は首を振ります。
「緋上先輩がオリジナルですよ」
玉緒第二VS修英学園。
風向きが、変わり始めました。




