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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
122/374

110(ひかり) 先代

 ブロック大会北地区予選、Bコート準決勝。


 前回大会・北地区二位――玉緒たまのお第二、VS、前回大会・北地区三位――修英(しゅうえい)学園。


 その一セット目、リードしていたのは、修英学園でした。


 準々決勝の勢いそのまま、と言えばいいのでしょう。見たところ、玉緒第二には170を超える選手プレイヤーがいないので、攻撃面では修英のほうが有利です。


 〝放漫(Dynamite)浪漫(Might)〟――大堂だいどういつき先輩、170センチ。


 〝皮剥(Petit)ペティ(Knife)〟――兵地ひょうち文香ふみか先輩、168センチ。


 〝(Cheap)細工師(Trickster)〟――宝条ほうじょう薫子かおるこ先輩、165センチ。


 〝焔の(Phony)残像(Phantom)〟――吉倉よしくら知佳子ちかこ先輩、169センチ。


 実力派のアタッカー陣が、美森(Rolling)千穂(Star)先輩のレシーブと、遠藤(Zero)かつき(Gravity)先輩のトスに支えられ、景気よく決めていきます。


 ノりにノっている修英学園。玉緒第二はなかなか反撃の糸口を掴めません。そうこうしているうちに二度目のみなとゆかり先輩――〝軌跡(Miss)を喚ぶ女(PARABOLA)〟の天井サーブ。


 どんっ、と力強く打ち上げられるボール。よく見ると回転まで掛けられています。


 リベロの緋上ひのうえ先輩が手を挙げて落下点に入ります。が、結果はまさかのCカット。それを辛うじてレフトへ繋ぎますが、決定打にならず、修英のコンビの餌食となってしまいます。


 スコア、7―12。


 ここで、玉緒第二の監督が一回目のタイムアウトを取りました。先輩方の不調にずっとはらはらしていた私としては、やっとか、という思いです。


立沢たちさわ先輩……これはどう思われますか?」


 深呼吸をして、張っていた肩の力を抜き、私は立沢先輩にご意見を求めます。


「単純に、身体が暖まってるか暖まっていないかの差だと思う。修英学園はここまで二戦快勝。しかも準々決勝からの連戦――心身ともに硬さが取れて、今が一番脂が乗ってる。

 対して、シードの玉緒第二は、午前中に格下と一試合戦っただけだから、これがほぼ初戦みたいなもの」


「あるいは、隣のコートで落山らくざんきたVS石館(いしだて)第二の大熱戦があったのも、影響しているでしょうか?」


「そうだね。石館第二が落山北を下したことで、下克上の気運が高まっているのかもしれない。それが修英学園を後押ししている可能性もある。

 まあ、それを差し引いても、この結果は予想の範囲内。修英は攻撃力のあるチームだから。個々のアタッカーの実力も高いし、コンビも安定して使えている。ただ……」


 立沢先輩はマル秘ノートに目を落とし、静かに語ります。


「修英学園のスパイク――まだ、一度も、打ったボールが玉緒第二のエンドラインを割ってない。得点はしているけれど、玉緒第二のレシーバーは、その全てに触っている。反応も対応もできている、ということ。本調子ではないにも拘らず、ね。

 まあ、この辺の事情は、わたしよりあなたのほうが、当然詳しいでしょ?」


 私は頷きを返して、玉緒第二のベンチに目を向けます。


 十二人の選手プレイヤーの中で、一人だけユニフォームの色が違うあの人に。


「あなたの先代の紅一点は、『そういうこと』を得意とするリベロ」


「……はい。その通りです」


 同じ紅一点でも、微妙に違う、リベロとしての特色カラー


「その定位置はエンドライン上中央。広い視野と守備範囲を持ち、的確な指示と判断力でチームを最後方から支える要塞とりで。打たれたボールを決して背後に逸らさない――たとえ拾えなくても直後にボールに追いついて必ず『止める』。彼女は、そういう選手プレイヤー


 私は(Fire)、あの人は(Red)


「先代・玉中の(Red Line)紅一点(Keeper)――緋上ひのうえ真直ますぐ


「おっしゃる通り……〝最終防(Red Line)衛線(Keeper)〟、です」


 三年前にも、私は緋上先輩のプレーする姿を、こうして応援席ギャラリーから見ていました。


 そして、それから一年間、私はあの人が引退するまで、その紅をずっと見続けてきました。


 だから、わかるのです。あの人の紅は、まだまだこんなものではありません。


「そんなに心配しなくても、そろそろ血がめぐってくる。北地区二位――玉緒第二の真価はここから」


 そう言った立沢先輩は、不意に、体育館の入口のほうに目を向けました。


「ところで、ひかり。先輩を応援したいのはわかるけど、ちゃんとあっち(Aコート)も偵察してね」


 現れたのは、強者の風格を漂わせる深紫ジャージの一団。


 タイムアウトが明け、玉緒第二と修英学園の選手がコートに散っていくのと同じタイミングで、足早に反対側(ステージ側)のAコートへ向かっていきます。


 前回大会・北地区一位――石館いしだて商業しょうぎょう高校。


 あちら(Aコート)は石館第二が連戦なので、試合開始はもう少し先。私はひとまず、玉緒第二の応援――失礼、偵察に戻ります。


 ちょうど、コートの中で、大きく手を広げた緋上ひのうえ先輩が声を上げるところでした。


「ばぁあーっちこぉーい!」


 そのとき、ふふっ、と背後で笑い声。


 振り返ると、にこにこ顔の宇奈月うなづきさんと目が合いました。


「ひかりんと同じこと言ってる」


 私は首を振ります。


緋上先輩あっちがオリジナルですよ」


 玉緒第二VS修英学園。


 風向きが、変わり始めました。

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