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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
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109(悦子) 今の私たちに足りないもの

「じゃあ、ラインジャッジとスコア係は、二年生にお願いするね。一年生は、次のインハイ予選からやってもらうことになるから、今回で二年生を見てやり方を覚えること。それが終わったら一度、全員でCコート――旧体育館に集合。そのあとは……」


奈央なお、それは集合のときでいいんじゃない?」


 私が言うと、奈央は口をぱくぱくさせて、ロボットのようにかくりと頷いた。


「そう、ね。はい。そういうことで。ここで少し自由時間に入ります。じゃあ、一旦、解散で!」


「「はい!」」


 新体育館の裏手――教室棟への渡り廊下で輪になっていた私たち。解散と同時に、小椋おぐらようを中心とした二年生が、一年生を連れて体育館の入口へ動き出す。


 残ったのは、私、矢吹やぶき奈央、真木まき志乃布しのぶ舞鶴まいづるちゆの三年生四人と、マネージャーの本橋もとはし真里亜まりあ、それから、試合後から抜け殻になって使い物にならない片山かたやましのぶこと、ノブ


「じゃあ、私、ちょっとトイレ」


 そう言って、そそくさと輪から抜けていったのは、奈央。


 私と志乃布シノとちゆと真里亜は、黙ってその背中を見送る。


「……奈央のこと、追っかけなくていいの?」


 志乃布シノが私に言う。真里亜も同じことを視線で訴えている。私は首を振った。


「私は瑶子ようこみたいにうまいこと言える自信ないから。それに、今回はあの時と違って、もう次の試合があるわけじゃないし……」


 私は、奈央が消えていった体育館の角を見つめる。


「まあ、今の奈央なら、自力で立ち直るでしょ」


「でも……もし、とおるちゃんとばったり会ったりしたら」


 そう言ったのは真里亜。その可能性は考えてなかったので、私は少し焦る。が、代わりに志乃布シノが応えた。


「それはない、と思うよ。奈央も透も、さすがにこのタイミングでばったりするのは避けるはず」


「そ、そうだよね……」


「その透っていうのは、ギャラリーにいた、落中の『あの』一年生よね?」


 確認を挟む、舞鶴まいづるちゆ。石館いしだて二中にちゅう出身の彼女は、三年前の夏に落中(私たち)と――つまり透と戦っている。


「そう、その一年生。我らが無敵の〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟こと、藤島ふじしま透。いきなり現れるから驚いたわ」


「あの集団はなんなんだろうね?」


「あれね……たぶん、城上しろのぼり女子のバレー部」


 志乃布シノの疑問に、ちゆが応える。


「城上女子――って、新人戦では出てなかったとこだよね? 何か知ってるの?」(志乃布シノ


「私とタメの、館二うちのセッターがいたの」(ちゆ)


館二ちゆたちのセッターっていうと……まさか、〝静止(Stationary)軌道(Front)〟?」(私)


「そう。本名は市川いちかわしずかっていうんだけど、静は二年前に部活辞めちゃったはずなのよね。でも、今日あそこにいたってことは、復帰したのかも」(ちゆ)


「城上女子、城上女子……思い出せないなぁ。どういうとこだったっけ?」(志乃布シノ


城上女じょじょじょは、二つ上に、館二うちでエース・キャプテンしてた川戸礼亜カトレアさんって人がいて、当時は地区二位だったよ。

 でも、川戸カトレアさんが引退して、静も辞めちゃって、一つ上の代は代表枠に届かずって感じだったはず。それ以前は知らないけど、バリバリの進学校ってイメージ。特別バレーが強いとこじゃないと思う」(ちゆ)


「なんで透がそんなとこ……? あの子ならスポ薦でどこにでも行けたでしょうに」(志乃布シノ


「その……辞めてたっていう〝静止(Stationary)軌道(Front)〟が復帰したってことは、つまり、そういうことよね?」(私)


「わからないけど、まあ、そういうことでしょ。というか、落中の子以外も、高い子がわらわらいたわよね……」(ちゆ)


「そのうち一人は……丘中おかちゅうの〝(Snow on)(the Edge)〟だと思いますよ」


 ひどく弱々しい声で言ったのは、ノブ。渡り廊下の端に座り込んで、虚ろな目でこちらを見上げている。


ノブちゃん、大丈夫なの?」(真里亜)


「大丈夫じゃ、ない……けど、話してたほうが楽かなって」(ノブ


ノブさー、そんなんで私たちが引退したあとやってけるの?」(志乃布シノ


「なんかそれ……『ききょう』のときも中学の時も言われたような」(ノブ


「奈央を見習って、ちゃんと進歩しなさいよあんた。もう一年生だって入ってきてるんだから」(私)


「そう、です……よね」(ノブ


 ごしごし、と目元を拭って、ノブは立ち上がった。


 と、そのとき、よう貴理子きりこが戻ってきた。


「あん? おい、ノブ、立てるなら働けよ」(燿)


「ごめんね、この子、たった今生き返ったとこなの。それよりようたち、ラインジャッジは?」(私)


「経験者の一年生を含めたら人数が足りたので、可奈子かなこに『レギュラーは休んでいてください』って押し出されました」(貴理子)


 応えたのは貴理子。私は「そっか」と頷く。さすが可奈子はできた子だ。


「ところで、なにか、お話の途中だったみたいですけど?」(貴理子)


「あのギャラリーにいた謎の制服集団の話」(志乃布シノ


「あっ、そうなんですよ! 同中の友達チームメイトがいて、もうびっくりしました」(貴理子)


「貴理子も知り合いがいるの?」(私)


「はい。館一だていちの同級生で、キャプテンだった岩村いわむら万智まちって子です。『きたかぜ』でバレーやってたって言ってたので、ちゆさん、覚えてませんか?」(貴理子)


「ああ……あのボブの子はやっぱり万智ちゃんだったか。髪染めてたから自信なかったけど、うん、よく覚えてるよ。練習熱心ないい子だった」(ちゆ)


「その岩村って、館一の〝ガン(Transistor)タンク(Glamour)〟のことだよな?」(燿)


「ちょっと、そのガンタンクってあだ名やめてあげてよ。万智、けっこう気にしてたんだから」(貴理子)


「いや……でも、それ以外にあの豪腕を表現する言葉がねえだろ……」(燿)


「強い子なの?」(私)


「そうっすね。トウ――今日のケイの姉っす――が『ブロックしたくない』なんて言った相手は、館一のあいつだけですよ」(燿)


「万智は小柄なんですけどパワーの塊で、特に肩がもの凄く強いんです。中学陸上の、砲丸投げの県記録持ってるんですよ」(貴理子)


「噂で聞いたことあるぜ。時速150キロで投げたんだろ?」(燿)


「もう、だからそういうのやめてって。普通に普通の県記録だから」(貴理子)


「いや、県記録は普通じゃないわよ……」(私)


「あと、なんだっけ、ノブ。ほら、丘中の――」(志乃布シノ


「〝(Snow on)(the Edge)〟」(ノブ


「一年生? ポジションは?」(ちゆ)


「そいつなら、セッターっすよ。俺の一つ下の霞ヶ丘(かすみがおか)中のセッター。つか、そっか、霧咲(Snow on)音々(the Edge)もいたのか……」(燿)


「どういう子なの?」(私)


「セッターなのに俺と同じくらい――今は抜かれてるかもっす――タッパあるんすよ。セットアップがめちゃめちゃ高くて、トス回しも速いし正確でしたね。俺らの代以下の北地区では、間違いなく一番上手いセッターっす。高さと速さだけなら、館二だてにの〝静止(Stationary)軌道(Front)〟――市川さんも越えてるんじゃないですかね」(燿)


「ちなみに、その静もあそこにいたわよ」(ちゆ)


「マジっすか!? うお、道理で高校では見かけないと思ったら……」(燿)


 聞けば聞くほど、話が大きくなっていく。透一人だけでも十分脅威なのに、中学陸上の県記録保持者やら、〝静止(Stationary)軌道(Front)〟やら、高さと速さならあいつを超えるっていう詐欺みたいな一年生やら。しかも、あそこにいた長身選手の数は、今挙がった名前の数より明らかに多いんだけど……。


 これで守備レシーバーに穴がなければ、たちまち地区代表級のチームが出来上がってしまう。


「あのさ……もしかして、透や今日の望月炯子(あいつ)だけじゃないの? 今の一年生で、他に有名な子っている?」


 私は燿や貴理子、ノブに質問を投げかける。応えたのは、燿だ。


「有名と言えば、断トツで先輩らんとこの〝黒い(Headlong)鉄鎚(Hammer)〟っすよ。あとは、今言った丘中の〝(Snow on)(the Edge)〟。同じく、丘中のウイングスパイカーで〝(Winter)(Summer)〟ってのがいて。あとは、ま、さっきのケイっすね。ここまで全員、たぶん(170)超えっす。

 あと……なんでか今日は見なかったっすけど、桜木さくらぎやすみっていう、館三うちで俺らの代から正リベロだったヤツがいます。中学バレーで終わるヤツじゃないと思うんで、他の地区に行ったのか、なんかの事情で今回だけ出てないのか……」


「長身と言えば……勝美かつみとか、そろそろ170に届いてもおかしくないような」


 ノブに言われて、私と志乃布シノは顔を見合わせる。二つ下の多摩川たまがわ勝美かつみ――そうか、あの子、今はそんなに伸びたのか。


「今日は出てなかったチームが……インターハイ予選には出てくるかも、ってことだよね。透のいるとこみたいな」(志乃布シノ


「今日の望月妹センターだって、次は最初からスタメンかもしれないわよね……」(ちゆ)


「午前中の石館第一も、館商だてしょう相手にわりと頑張ってたっすよ」(燿)


「隣の修英しゅうえいは……玉緒たまのお第一にストレート勝ちしてましたよね」(貴理子)


「ってか、今回地区代表から外れたせいで、次回いきなりVS館商(だてしょう)とかないわよね……?」(私)


 誰も答えない。重い沈黙が流れる。そこへ、


「……えっ、なに、この雰囲気?」


 現れたのは、目を真っ赤に腫らした奈央。顔はひどいことになっているし、声もがらがらだが、気持ちのほうは持ち直したらしいのが私にはわかった。


「あ、あのね、奈央ちゃん」


「んー、いや、まあ、大体わかるけど」


 おろおろする真里亜が可笑しかったのか、奈央は軽く苦笑する。そして、私たちのところまで歩いてきて、奈央は言う。


「あのね……強いヤツが強いのは、もうそういうものなのよ。勝てないと思うなら、諦めればいい。勝ちたいと望むなら、必死に練習するしかない。そうでしょ?」


 奈央は、ちらっ、とノブを見る。ノブは黙って頷く。


「今日、石館第二に負けて……またたくさんの課題が見えた。次のインハイ予選まで、一ヶ月と少し。もっと強くなれるよう、みんなで考えて、できる限りのことをしましょう」


 みんなを見回す奈央。私たちは、その言葉に頷きを返す。


「さっ、いつまでもここにいると、さすがに冷えるわよ。中に入って準決勝を見学しましょう。今の私たちに足りないものが、きっとそこにあるわ」


 言うと、奈央は踵を返して、体育館の入口へと歩き出す。


 私は一足先にその隣に追いついて、軽く脇腹を小突き、揶揄からかうように言う。


「奈央、せっかくだから、透に挨拶してく?」


「ばか。こんな顔で会えるかっての」


 奈央は思いっきり顔をしかめて、私を睨んだ。


「……あの様子だと、インハイ予選では顔を合わせることになるでしょ。個人的に、あの子と会うなら、コートの外より中のほうがいい。だから、今日は知らんぷりしとくわ」


 奈央はそのまま、しかめっ面を崩さずに、ずんずんと歩いていった。

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