107(真里亜) 総力戦
ばしんっ!
二年生のエース対角――片山忍こと、忍ちゃんがスパイクを打つ。
それは、一、二セット目なら十分決まっていただろう、勢いのあるスパイク。しかし――、
がっ!
相手センターの大きな手に阻まれ、速度を殺されたボールは、何度打っても相手のコートに落ちてくれない。
三セット目から登場した、170センチを超えるミドルブロッカー。
館三の〝炎璧〟――望月姉妹の妹のほう。中学時代、あの〝炎璧〟を真正面から打ち抜けたのは、落中――ひいては北地区全体を見回しても、透ちゃん一人だったと思う。
忍ちゃんは、わたしたちの代の落中で、透ちゃんの対角だったウイングスパイカー。透ちゃんに次ぐパワーの持ち主。だけど、それでも抜けない。石館第二は本当にとんでもない秘密兵器を出してきたものだ。
ぱしんっ、
と、その望月炯子に速攻を決められる。これで石館第二の三連続得点。
直後に本田先生は椅子から立ち上がって、この第三セット、一回目のタイムアウトを取った。
プレーが一旦止まり、選手がベンチへ戻ってくる。
「いいか、まずレシーブだ。コンビを使っていけ。あのセンターをサイドに回すな」
集まったメンバーに、本田先生が簡潔な指示を出す。その邪魔にならないよう、わたしはドリンクを出したりタオルを渡したりと動き回る。
「それと、片山。なにも全部を全力で打たなくてもいい。半分の力でいいから、ストレートに打て。無理ならフェイントでもいい。前だと読まれるから、なるべく奥へな」
手振りも加えて、先生は忍ちゃんに対症療法を授ける。忍ちゃんは……うーん、あれはいっぱいいっぱいな顔だ。
「片山が下がったら、高橋を入れるからな。向こうの高いセンターが後衛に下がったら、一気に取り返すぞ!」
忍ちゃんへの指示出しを終えた先生は、次にセッターの浅野悦子ちゃんを手招きした。
フリーになった忍ちゃんに、エースの小椋燿ちゃんが近付いて、肩に手を回した。わたしは他のみんなのところを回りつつ、二人(特に忍ちゃん)の様子を伺う。
「よう、忍。生きてっか?」
「どーだかな……。つーか石館三中の一年、中学からまた一段とデカくなってね?」
「永遠の成長期なんだろ。俺も中三で抜かれた時はショックだったさ――じゃなくて。マジで炯は力じゃ抜けねえから。あと、実際、速度でもキツいだろうな。振れないと思ったほうがいいぞ」
「んなこたわかってる。透や丘中の〝白刃〟と同期のミドルブロッカーが、半端なパワーとスピードでどうにかなるヤツかよ。けど、こう……なんか意外な弱点とかねえの?」
「ねえよ。館三の望月姉妹は北地区最強のミドルブロッカーだぜ? いちい君か〝黒い鉄鎚〟を連れてこい。次点で館一の〝ガンタンク〟でもいい」
「連れてこれるなら連れてきてる……」
忍ちゃんは溜息をついてギャラリーに視線を向ける。透ちゃん(あと館一のキャプテンも)がいることは、試合の途中でわたしや他のみんなも気付いていた。
「で、何が言いたいんだよ、燿?」
「必要以上に熱くなんなってことだよ。炯は単独でどうにかできる相手じゃねえ。避けるには、ぽんの言う通りコース打ちかフェイントだが――お前どっちも苦手だろ?」
「あたし詰んでんじゃねえか……」
「だから、一発に頼らず、繋いで繋いで粘り勝つしかねえんだって。とにかく、一人で決めようとしてプレーが雑にならねえように。それだけ、気をつけろ」
「……総力戦ってやつだな」
「結局、勝つには一番疲れるやり方しかねえんだ」
「誰もがゆきつく冴えないやり方か……ふぅー」
タオルで顔を覆って天を仰ぐ忍ちゃん。昔から、苦しい場面で忍ちゃんがよくやる仕草だ。
「いけそう? 忍ちゃん」
わたしが聞くと、忍ちゃんは、顔からタオルを取り去って、それをわたしに返す。
「どうにかやってみる。タオル、さんきゅな、真里亜」
「頑張って!」
そこで、「集合!」と矢吹奈央ちゃんの声。忍ちゃんと燿ちゃんは輪の中へ。わたしは選手が置いたスクイズボトルやタオルを素早く回収する。
「まだまだここからよ!! 全員で勝ちに行きましょう!!」
キャプテンの奈央ちゃんが熱を込めて叫ぶ。
「北高おおおおお――ふぁいっ!!」
「「おおおおおおおおッ!!」」
コートへ戻り、それぞれのポジションにつくメンバー。
手にはまだ片付けられてないボトルやタオルがあったけど、それを見ていたら、わたしも自然と声が出ていた。
「サーブカットぉー!! 一本集中っ!!」
ここからは、全員で勝ちにいく総力戦。
わたしだって、その力の一部になりたいのだ。
スコアは、12―16。
みんな、頑張って……!
登場人物の平均身長:164.3cm




