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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
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104(奈央) コートに立つ理由

 はあ、はあ――と息が上がっていた。試合中は気にならなかったけれど、セットを取られた瞬間に、どっと疲労が押し寄せてきた。


「カットが雑になってるぞ。足を使って、丁寧に拾っていけ!」


 ひげぽん(監督。本名は本田ほんだ秀樹ひでき。あだ名はひでぽん+顎髭(あごひげ)から)の厳めしい声。ちゃんと聞こえているはずなのに、内容が頭に入ってこない。


「ちょっと、奈央なお、大丈夫?」


 セッターの浅野あさの悦子えつこが声を掛けてくる。私は眉間に皺を寄せて、正直に答えた。


「空回りしてる……って自覚はあるのよね。どうしたもんかしら」


「ホントここ一番に弱いわね、あんた」


「……返す言葉もない」


 私の弱気発言に、悦子は小さく溜息をついて、肩を竦める。


「ぽん(注:ひげぽんの略)の言う通り、まずはカットよ。一セット目は全然ちゆと貴理子(センター線)を使えなかった。ようノブだって二枚ブロック相手に決め続けるのはキツいわ。あんたと志乃布シノが踏ん張るしかない」


 私は頷く。が、それが説得力のない頷きであることは、わかっていた。


「しっかりしてよ、キャプテン。落山北ここにあんたの代わりはいないんだから」


 ぽんっ、悦子は私の肩を叩いて、二年生たちのほうへ向かう。


 代わり――。


 真っ白になってる私の頭の中に、その単語が反響する。


 代わり、控え、レギュラー、交替、ベンチ……。


 連鎖して、連動して、連想して、三年前のことが思い出される。


 ふつふつと湧き上がる、悔しくて、情けなくて、恨めしくて、虚しくて、やっぱり悔しくて、どうしようもない、やり切れない気持ち。


 私は、今でもまだ、あの時のことを納得できずにいる。


 そして、あの時のことがあったからこそ、私は今、コートに立っている。


 キャプテンという、多少分不相応な肩書きで、替えのきかない選手プレイヤーとして。


 ……緊張で空回りしている場合なんかじゃ、ない。


 しっかり、しなくては――。


 大きく息を吸い込んで、私は天井を見上げる。


 そのとき、だ。


「………………え?」


 視界の端――ギャラリーのところに、私は意外な(意中の、と言うべきか)人物を見つけた。


 いや、本当なら意外でもなんでもない。それどころか、この大会で対戦相手としてネットを挟むことだって覚悟していた。でも、開会式にその姿がなくて、さては他地区の強豪に引き抜かれたのか、とその時は思ったけど、まさか――。


「奈央? なに見て――ん?」


 悦子と入れ替わりにやってきたのは、センターの舞鶴まいづるちゆだった。私と同じ方向ギャラリーを見て、何かに気付いたように目を細め、それから、これでもかと目を見開いた。


「……うっそ、しずかだ」


「誰? 知り合い?」


元館二うちの天才セッター――〝静止(Stationary)軌道(Front)〟。覚えてない? その子が城上女じょじょじょに行ったんだけど、一年の夏で部活を辞めちゃって……久しぶりに顔見たわ」


「じゃあ、あれは城上女の制服で、あの集団が新しいバレー部?」


「断言はできないけど……たぶん。一緒にいる子も覚えある。館一だていちにいった子――岩村いわむら万智まちちゃんだったかな。貴理子きりこに聞けば間違いないと思うけど。っていうか、ねえ、あの奥にいる大きな子って、確か奈央たちのとこの」


「そう。私の後輩……元落中うち怪物バケモノ


「な、奈央……?」


 ちゆが怯えたような声を出す。そんなつもりはなかったが、私は今、どうやら恐い顔をしているらしい。


矢吹やぶき!」


「はい! ――集合っ!」


 ひげぽんに呼ばれて、私はみんなをひげぽんの周りに集める。


 ひげぽんと選手プレイヤー、それにマネージャーの本橋もとはし真里亜まりあを加えた十四人が輪になって、右手の親指と小指を隣同士で絡め合う。


「……二セット目、必ず勝つわよっ!」


 私の口から、一セット目の不調が嘘のように、力強い声が出ていた。悦子や志乃布シノが、私の急な変化に少し驚いている。


「ここで勝てなきゃ意味がない! 県大会に行くのは私たちよっ!」


 意味がない……そう、意味がないんだ。


 私たちがコートに立つ理由は、真実は、正義は、たった一つ。


 ――勝ちたいから。


 私は肺いっぱいに息を吸い込んで、隣のコートの声まで掻き消すくらいに叫ぶ。


北高きたこうおおおおおおッ!!」


 喉が痛いくらいに、肺がひっくり返るくらいに、声を振り絞る。


 出し惜しみはしない。声も、体力も、気迫も、持てるもの全て――ありったけをぶつける。


「ふぁいっ!!」


「「おおおおおっ!!」」


 絡めた指を切り、身を翻し、私はみんなの先頭に立って、コートに向かう。


「蹴散らしていくわよッ!!」


 無様は晒せない。


 ――必ず、勝つ。

登場人物の平均身長:163.8cm

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