102(千穂) 出場してもいない他校のこと
ブロック大会北地区予選。
私たち修英学園は順当に一回戦を突破し、二回戦に臨んでいた。
その二回戦の相手は、玉緒第一。中学時代の後輩が一人、スタメンで出ている。終盤に少し粘られたものの、序盤のリードを守り切って一セット目を先取。このままいつも通りのプレーをすれば、十中八九、勝てる。
勝てば、県大会出場。
そして、玉緒第二に挑戦する権利を得る。
二セット目までのわずかな時間。試合になると口数の少なくなるうちの監督は、「その調子」と言っただけだった。私たちはドリンクを飲みながら、心身の調子を整える。
ふと、私はギャラリーを見上げた。今日はどういう風の吹き回しか、一つ上のお姉ちゃんが試合を見にきている。浪人生なのだが、予備校が休みなので、気分転換がてらってことらしい。
私に(が?)似て美人のお姉ちゃんの姿は、すぐに見つかった。と同時に、おや? と私は首を傾げる。
午前中、お姉ちゃんは一人でギャラリーにいた(見るからに居心地が悪そうだった)。それが、今はなぜか制服の人たちと一緒にいる。ちょっと前までお姉ちゃんが着ていた制服と同じ――城上女子の制服。
ってことは、バレー部の後輩だろうか? お姉ちゃんたちが引退してから人数が足りなくて大会には出てなかった城上女だけど、一年生の加入で状況が変わった、とか? ああ……そう言えばお姉ちゃんってばこの間、急にバレーシューズと城上女ジャージを持ち出してどっかに行っていたな。あれはバレー部絡みのイベントだったのか……。
「千穂? どうかした?」
ギャラリーを見上げてぼうっとしていた私に、セッターの遠藤かつきが話し掛けてくる。私はギャラリーを見たままそれに答える。
「いや、お姉ちゃんがさ」
「ああ、あの愉快な人」
「おいワードチョイス☆」
「あの気さくな人、今日は千穂の応援に来てくれてるんだよな」
「うん。今はなんか後輩と一緒にいるみたい」
「城上女子……だよな? あそこ、お前のお姉さんが引退したあと廃部になったんじゃなかった? 新人戦にはいなかったはず」
「部そのものは少人数で存続してたところに、一年生がたくさん入ったんでしょ。ほら、普通に頭数揃ってるよ」
私がお姉ちゃんのほうを指差すと、かつきは目を細めてギャラリーを見た。
「……本当だ。ってか、のきなみデカいんだけど……見上げてるから?」
「いや、錯覚じゃなくて普通に大きいと思うよ。一人はあれ、180あるんじゃないの」
「180――? ってか、うそ、館二のセッターがいる……」
かつきは眉根を寄せた。声が震えている。
「誰?」
「……そっか、千穂はリベロだから知らないのか。あたしたちとタメの石館二中のセッターで、〝静止軌道〟の名で通ってた洒落にならないくらい上手いヤツ。中学生でBクイックを使えた化け物。あたしはあいつより正確なトスを上げるセッターを見たことがない」
「なにそれ……」
ちょっと待った。そんなすごい人がいたのに、なんで去年の城上女はお姉ちゃん(お世辞にも運動が得意とは言えない)がセッターなんてやってたんだ……?
「先輩方、どうかされました?」
柔らかな口調で私たちの会話に入ってきたのは、二年生の兵地文香。
「いや、あそこにいる制服の一団なんだけど」
「えっ? ……は? うそ、なんですか、あれ?」
常らしくない、強張った声を出す文香。
「どうしたのよ、文香まで」
「落中の〝黒い鉄鎚〟さんと、丘中の〝白刃〟さん……? えっ、なんなんですか? どうなっているんですか?」
「なに、そんなヤバいのがいるの?」
「わたしの一つ下で、一番強いアタッカーと一番上手いセッターが一緒にいるのです。あと……あれはもしかして、館一の〝ガンタンク〟さんじゃ……?」
「今度は誰?」
「わたしと同学年の子で、大砲みたいなスパイクを打ってくる人です。彼女に比べれば、わたしの皮剥なんて可愛いものですよ。あの方、本気でブロッカーの腕の骨を砕きにきますから」
「んな大袈裟な」
「本当なんですって。風の噂で聞いた話ですけれど、中学の陸上大会の砲丸投げで、時速150キロの県記録を出されたとか」
「砲丸投げは距離を競う競技でしょうが……」
「いずれにせよ、恐ろしく肩が強いことで有名な方なのです」
文香は語気を強めてそう言った。彼女がここまで言うほどのアタッカーなのだから、相当な実力の持ち主なのだろう。
「……お姉ちゃんの後輩、どうなってんのよ」
私はそう呟いて、小さく溜息をつき、思考を切り替える。
軽い雑談のつもりが随分と膨らんでしまった。とりあえず、諸々のことはあとでお姉ちゃんに聞く方向で。
「皆の衆、集合じゃあー!」
キャプテンの湊ゆかりの、すっとぼけた声。そんな意図はないんだろうが、「私がしっかりしなければ」という義務感にかられる。
そうだ。出場してもいない他校のことより何より、今は、やるべきことがある。
「二セット目も……集中していきますか☆」
監督の元へ走りながら、ぴしゃり、と私は自分の頬を叩いた。
登場人物の平均身長:164.3cm




