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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第四章(城上女子) AT石館商業高校
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101(梨衣菜) 大会

 体育館に足を踏み入れて真っ先に感じたのは、多数の人の熱気。


 きゅ、きゅ、きゅ、とシューズと床が擦れる音。


 ばんっ、ぼんっ、ばちっ、とボールが跳ね、叩かれる音。


「こっち」


 白を基調とした広くて綺麗なロビーで、胡桃くるみ殿はすたすたと階段を目指す。衣緒いお殿としずか殿も体育館の構造を理解しているようで、迷わずそちらへ続く。自分たちも黙ってついていく。


 ギャラリーへと至る階段を上り終えると、自分はたまらず柵へ近付いてコートを見下ろした。


 そこは別世界。


 会場内は、『大会』という独特の空気が支配していた。


 複数の、普段は面識のないチーム同士が、同じ場所にいる緊張感。


 試合に向けて、それぞれのやり方で集中していく、緊迫感。


 ごくり、と唾を飲み込む。


 今アップをしている選手たちは、これから唯一無二の試合に臨むのだ。


 この大会、この試合、この本番――この瞬間のために、みんな準備れんしゅうをしてきて、そして、持てる力の全てを注ぎ込む。


 移動しながらも、自分はコートから目が離せなかった。


 どきどき、と胸が高鳴る。


 この高揚感をプレーにぶつけられないのがもどかしい。


「この辺でいっか」


 人と人が小走りでもすれ違えるくらいの幅のギャラリーの、一角。二面コートの間の、どちらも見渡せる位置に、胡桃殿は鞄を下ろした。自分たちも、通路を塞がないように荷物を置いて、ひとまず落ち着く。


「というか、衣緒いおさん、妹さんの応援はいいんですか?」


「ここからでも見れるから。あと話し相手がほしかった。午前中とか正直心細かったよ」


「もう少し計画的に生きてください」


「んなことできたら浪人しねえぜ★」


「おっしゃる通りで」


 ばっさりと切り捨てて、胡桃殿は眼下を見下ろし、トーナメント表を広げる。


「じゃあ、みんな、さっき渡したトーナメント表を出して」


 自分はずっと持っていたそれを、ぱさり、と広げる。


「あと、衣緒さん、よろしければ試合結果を」


「今はこんな感じだね★」


挿絵(By みてみん)


「ありがとうございます。みんなもいいかな?」


「「はーい!」」


「よろしい。さて、北地区一位が石館いしだて商業しょうぎょうだって話は、散々したと思う。さっきの宝円寺ほうえんじ瑠璃るりって子も相当強い子だけど、なんと言ってもあの金髪の――藤本ふじもといちいは別格。彼女に匹敵するウイングスパイカーは『今』の北地区にいない。つまり、とおるを除いて、って意味だけど」


「わ、私なんか、そんな、いちいさんとは……」


「とにかく、館商だてしょうは強い。これは間違いない。で、その館商相手にいいとこまで行けるのが、さっきの赤ジャージのところ――北地区二位、玉緒(たまのお)第二高校。通称、玉緒第二。ここは、立地的にひかりの先輩が中心みたいだね。守備力に限れば、館商より上。県内でも指折りだと思う」


 胡桃殿の視線を受けたひかり殿が、黙って頷く。


「館商と玉緒第二。今年の北地区はこの二校が鉄板。これはトーナメント表を見てもわかる。どっちもシード」


 端っこと端っこ。この二校が決勝で激突することを前提とした組み合わせだ。


「その二校に次ぐ三位・四位――ここまでが地区代表になるんだけど――が、それぞれ、館商と玉緒第二と、ブロックの反対側にいる二校」


修英しゅうえい学園と、落山らくざんきた、っスか」


「そゆこと。あとは、石館第一、石館第二、玉緒第一辺りが地区代表圏内。中学でも、強いのは石館、玉緒、霞ヶ丘、落山だから、立地的に有力選手が集まりやすい。たぶん、あなたたちの知り合いも多くいるはず。

 逆に、小菅こすげ箕輪みのわ塩谷しおや辺りは、そんなに脅威じゃない。実際に、向かって右のステージ側――Aコートは落山北と石館第二、左の入口側――Bコートは修英学園と玉緒第一。これが二回戦(準々決勝)の最後のカード。ここで勝てば、北地区代表確定で、準決勝でそれぞれ館商と玉緒第二と当たることになる」


 ということは、今から行われるのは、県大会出場をかけた試合なのか。この張りつめた空気も納得っス。


「黒に山吹が落山北。攻守のバランスが取れていて、安定したパフォーマンスをする。水色と白のユニフォームが修英。攻撃力があるチームで、勢いづいてくると厄介。ただ、これは両校に言えることだけれど、170以上のアタッカーがチームに一人しかいない。そこが、一位・二位と三位・四位を隔てる壁。簡単に言えば」


「玉緒第二の守備力を上回る攻撃力があれば……館商以外には勝てる」


 答えたのは、172センチの音々(ねおん)殿。


「そう。まあ、その点、わたしたちはとても恵まれている。今試合をしている四校を見ればわかるけれど、梨衣菜りいな


「は、はいっス!」


「あなたより高い選手……今コートにどれだけいる?」


「170以上オーバーってことっスね。えっと、とりあえず一人いて……むー、二人〜四人くらいっスかね」


「うん、それくらいだね。四チーム分でたった数人しかいない。つまり北地区では、平均して、1チームに170台はいても一人ってこと。その点、うちは四人もいる。このアドバンテージは大きい。あとは守備だけど、一年生でひかりを越える子は北地区にいないはず」


「そう自負してます。あくまで『一年生』の範囲ですけど」


「三年生なら館商の日下部くさかべ杏子あんず。二年生なら玉緒第二の緋上ひのうえ真直ますぐ。どちらも玉中たまちゅう出身のリベロ――ひかりが意識してるのはこの二人?」


「はい。特に、緋上先輩は、日下部先輩たちの代から二代連続で紅一点リベロだった人です。現段階では、あの人とポジション争いをしてレギュラーを取れる自信は、私にはありません」


「それは、緋上真直以外なら、肩を並べられる自信がある、と受け取っていいのかな?」


「構いません。いずれにせよ、コートに立つ以上は、自信の有無に関係なく誰よりも拾うつもりです」


「心強いね」


 胡桃殿は微笑む。自分も全面的に同意っス。


「まあ、そんなわけだから、館商と玉緒第二以外の相手は、しっかり準備をすればそう恐れることはない、とわたしは思っている。ハンデ有りとは言えあの音成おとなる女子から一セット取ったこと、そしてみなみ五和いつわから一セット取ったことは、自信にしていい。今の段階でも、あなたたちは十分地区代表級の強さがある」


 胡桃殿は、そう言って自分たちに微笑み、それから、コートのほうを見やる。


「試合を見ながら、めぼしいチームは一通り解説するつもり。注意すべきこともその時々に言う。みんなも、観戦していて、気になった選手がいたら言って。あと、梨衣菜」


「はいっス!」


 胡桃殿は、ちょいちょい、と自分を手招きする。


「ちょうどいいから、バレーの試合の流れを説明する。練習試合では整列してから始まりだったけど、実際の公式戦では、その整列するまでの流れも決まっている。それが、『プロトコール』」


「プロトコール?」


 自分が聞き返すと、由紀恵ゆきえ殿が手を挙げた。


「それなんかよく聞く! 第一試合のプロトコールは○○時、とか開会式で言われるよね! 公式練習を始める時間のことかなーって思ってたんだけど、違うの?」


「大体合ってる。ただ、実際はもっと細かい。たぶんそろそろだから、見ながら説明する」


 そう言うと、胡桃殿はコートのほうを指差した。ちょうどそのとき、審判の人が笛を鳴らした。


「まずは、主審が両校のキャプテンを呼ぶ。ユニフォームの番号の下に横ラインがある人がそう」


 胡桃殿の言う通り、キャプテンが審判のところに集まって、互いに一礼して握手を交わす。


「審判とキャプテンが挨拶をしたら、そのあとにコイントス。当てたほうは、『サーブを先に打つか後に打つかの選択権』、または、『コートをどちらにするかの選択権』――二つのうち一方を選ぶことができる。

 前者の権利を選んだ場合は、後者の権利は相手に移る。後者の権利を選んだ場合は、前者の権利が相手に移る」


「胡桃ー、言い方が難しいよー」


「要するに、サーブ権争いするの」


「なるほどね!」


 胡桃殿が解説しているうちに、両校のキャプテンが、コイントスやら記録用紙への記入やらを済ませ、チームの元へと戻っていく。


「挨拶とサーブ権争いが終わったら、次は公式ウォームアップ。時間は3分ずつ。先にサーブを打つほうから始める」


 見ていると、コートの中に片方のチームのメンバーが集まり、もう片方はコートから出て壁際で練習をし始めた。球拾いも含めた全員の動きがきびきびしている。三分しかないのだから当然だろう。個人的には十分、せめて五分くらい欲しい気がする。


「公式ウォームアップで何をするかは、各校の自由。コンビの確認をするところが多いかな。プロトコールが始まったら、試合開始まで、ネットを使えるのはこの3分間だけだから」


「テスト直前に単語帳見るみたいなもんだ!」


「言い得て妙」


 やがて、笛が鳴ってチームが入れ替わり、もう片方のチームの公式ウォームアップが始まった。3分というのは本当にあっという間で、ばしんっ、ばしんっ、とテンポよく打ち込まれるスパイクを見ているうちに、終わりが来た。


「ここで、整列」


 審判の人が合図をすると、両校の選手がエンドラインに並ぶ。ベンチにいる監督やマネージャーも、その場で気をつけをしている。


 そして、記録係の人がいるところから、審判の人が二人、審判台のほうへ向かう。主審と副審だ。


 そして、ぴぃぃぃぃ、と長い笛の音。


「「お願いしまああああす!!」」


 おおおっ、始まった! 始まったっス!


「このとき、キャプテンはキャプテン同士で握手して、審判とも握手する。この相手チームとの挨拶が済んだら、審判は所定の位置につき、選手プレイヤーは一旦ベンチに下がる」


 ベンチに集まった選手たちに、監督が短い言葉をかける。そして、どちらのチームも全員が輪になって、せーので掛け声。


「「ふぁいっ、おおおー!!」」


 ひゃー、これが生試合ライブ! ぞくぞくするっス!


「そして、試合開始の1分半前に、スターティングメンバーがコートに入る」


 ぴっ、と笛が鳴り、六人ずつ、選手プレイヤーがコートに立つ。FR(フロントライト)FC(フロントセンター)FL(フロントレフト)BR(バックライト)BC(バックセンター)BL(バックレフト)の位置に立った選手プレイヤーたちは、全員が背中を副審に向けている。例外はリベロで、コートの外で待機している。


「スターティングポジションと背番号を、事前に提出したラインアップシートと照合。合ってればボールがサーバーに渡される」


 ぼむっ、と真新しい綺麗なボールが、副審からBR(サーバー)の人へバウンドパスされる。


 同時に、両チームのメンバーが素早く定位置コートポジションへ。リベロがコートの中に入って、サーブを打つチームは前衛フロント後衛バックに分かれ、サーブを受けるチームはサーブレシーブのフォーメーションになる。


 さあああっ! とあちこちから声が上がる。


 コート内から、ベンチから、応援席ギャラリーから、一斉に。


「あとは、試合プレー開始の合図を待つのみ」


 やがて、ぴっ、と短い笛の音。


 横に突き出した腕を折り畳む、サービス許可のハンドシグナル。


「最初の審判とキャプテン同士の挨拶からここまで、きっかり11分。試合はいつもこの流れ(プロトコール)で始まる。セット間や三セット目に入ったときの流れも同様に決まってる。雰囲気だけでも今日覚えていってね」


 そう言った胡桃殿は、マル秘と書かれたノートを広げ、衣緒殿に声を掛けた。


「衣緒さんの妹さんって、もしかしなくても修英のリベロですよね?」


「おっ、よくわかったね。あれか? 私に似て可愛いからか?」


「いえ、県大会出場校の選手レギュラーは調べてあるので。というか以前に衣緒さん自身からも聞いてますし」


「そこは嘘でもイエスと言っとけよ★」


 衣緒殿のツッコミ(ボケ?)を、しかし、胡桃殿はさらりと流した。


「じゃあ、まずは新人戦で地区三位だった修英学園から見ていこう。もし、自分の知ってる選手プレイヤーがいたら、どんな人か教えてね」


 そして、胡桃殿は修英学園の解説を始めた。

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