表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
106/374

99(瑠璃) 一大事

 部活帰りに立ち寄った駅前の喫茶店。軽く食べるついでに課題をやっていたら、大好きな人から連絡が来た。


「あっ、しずねえだ」


 私がそう言うと、対面で抹茶オレを飲みながら携帯を弄っていた彼女が、顔を上げた。


「なんて?」


城上女じょじょじょのバレー部に復帰することにしたんだって」


「……へえ」


「うわっ、興味なさげ」


「そんなことないよ。市川さん、上手いし」


 ちゅ、と抹茶オレを飲んで、また携帯弄りに戻る彼女。彼女がこんななのは今に始まったことじゃないし、普段は気にならないのだが、愛しのしず姉の話なので私はちょっとムキになる。


「これはね、一大事だよ」


「……はぁ?」


「だって、おかしくない? 二年近くずっと部に戻らなかったしず姉が、なんでこのタイミングで復帰するの? これは何か裏があるよ」


 自分でも適当に言ったつもりだったが、よくよく考えると、確かに何かがあるはずだった。しず姉が今になって部に戻ろうとする、あるいは、今になってしず姉を部に戻そうとする、強い動機的なものが。


「……市川さんはなんて?」


 目だけでこっちを見る彼女。食いついてきた。私も気になってきた。これは課題どころではない。


 私は超高速でしず姉にメッセージを送る。しず姉は詳細を話したがらなかった。が、その辺を切り崩すのはお手の物だ。私が頼めばしず姉は最終的に断らない。自校の部を辞めているのに他校の部の活動に参加してしまうくらい、しず姉は私に大甘おおあまなのだ。


「よし、さすがしず姉チョロいぜ」


「……瑠璃るりってさ、控え目に言って最低だよな」


「失敬な。私はしず姉が本気で嫌がることはしないもん」


「……まぁ、いいけど。それで?」


「聞きたい?」


「そういうのいいから」


「いや、実はまだ入口のところなんだけど」


 私は携帯の画面を彼女に見せる。そこには、なんやかんやあってしず姉の復帰した城上女バレー部がどんなチームなのかを教えてもらう流れに至った一連の会話が表示されていて、最後の吹き出しにはしず姉の念押しがあった。


『……このことは、他の人には言わないでね?』


「瑠璃さぁ」


「はい、見たね。共犯だよ共犯」


 じと、と非難げに目を細めて私を睨む彼女。私はどこ吹く風で問い掛ける。


「何が聞きたい?」


「……とりあえず、他にどんなメンバーがいるのか」


「おっけー。ちょい待ち」


 そして、私はしず姉から城上女のメンバーを聞き出すことに成功する。


 まずはしず姉と同じ三年生。しず姉を引き戻した張本人である、マネージャーの人。それから、石館いしだて四中よんちゅう出身の、かなり背が高いサウスポーの人。


館四だてよんのサウスポー……? 名前は?」


「えっと……んー……『油町ゆまち』って人」


「ユマチ――あぁ、じゃあ、たぶんあの人だ」


「知ってるの? 強い?」


「なんて言えばいいんだろ……おかしな人だった。小六のときにクラブにふらっと入ってきたんだけど」


「ふーん」


「身体は鍛えられてた。背も当時は超えられてた。そしてオープントスを空振る」


「それは変な人だね……」


「次、二年生行って」


「へいへい……っと、げっ、そうだった……」


「なに?」


「二年生は一人で、私の知ってる子だった……」


「誰?」


岩村いわむら万智まちちゃん――もとい、館一だていちの〝ガン(Transistor)タンク(Glamour)〟」


「……そう言えば、去年の会場で見たな。そうだ……城上女だったっけ」


「まずい……」


「何が?」


「私、苦手なんだよね、万智ちゃん」


「あの人、光属性だからな」


「しず姉が取られる……」


「そこは知らないけど……いいや。一年生。きっと、メインはそこだろ。時期的に見て」


「そうだね……えーっと――」


 私はまた携帯を操作する。対面の彼女は、私と一緒に画面を見ているのが面倒になったのか、自分の携帯を弄り始めた。私ももう携帯を机の上に置くのはやめて、普通に手元でフリックする。すると、驚きの事実が次々出てきた。


「どう?」


 なんだかんだで気になるらしい。彼女は携帯弄りの手を止めてそう言った。私としず姉の会話が終了したのを、私の手の動きから感じ取っての「どう?」だ。私はしず姉からのメッセージを今一度読み返す。


「……これ、面白いよ」


「誰?」


「これね、面白い」


「瑠璃」


 不機嫌そうな声。ああ、もう、わかったわかった。


「一年生はね、五人いるみたい。この五人と万智ちゃんで六人になって、そこでしず姉が呼ばれたんだね」


「だから、誰」


「今言うから。まずね、他県から来たっていう経験者と、初心者の子」


「そういうどうでもいいのじゃなくて」


 また、じと、と睨まれる。私は少し満足して、微笑みを返す。


「まず、大物その1――丘中おかちゅうの〝(Snow on)(the Edge)〟」


「……霧咲きりさき、だったっけ。だとすると、ツーセッターか」


「たぶんね」


「その2は?」


玉中たまちゅう紅一点リベロ


「玉中の……一つ下は知らないな。上手いの?」


「わからないけど、名前が『三園みそのひかり』だって」


 その名を聞いた瞬間、彼女の目が大きく見開かれた。なかなか見られない表情だ。


「………………妹、か」


「別人だったら逆に面白いよね」


「……そっか。いや、でも、上が卒業してからレギュラーになったなら、あの人ほどじゃないってことだろ」


「あの人云々を抜きにしても、杏子あんずさんや緋上ひのうえさんの系譜ってだけで十分脅威だよ」


守り(リベロ)繋ぎ(セッター)は地区代表級……。それで、肝心の攻め(アタッカー)は?」


「聞いちゃう? この超大物」


「……あぁ、誰かわかった」


 低い声でそう言うと、彼女――藤本ふじもといちいは、ちっ、と舌打ちをして、苦々しく眉根を寄せた。私は「おや?」と首を傾げる。


「そいつの名前は言わなくていい」


 いちいはそう言うと、残っていた抹茶オレを全部飲み干した。そして、どんっ、と苛立たしげにグラスをテーブルに置いて、そのまま席を立とうとする。


「えっ? なに? ちょ、待った待った!」


「なんだよ。もういいって。大体わかったから」


 ぎろっ、と私を睨みつけてくるいちい。いきなりキレてどうした。いや別に好き好んで地雷を踏むつもりはないけど。


「とりあえず座って。ここからなんだって、面白いの」


 いちいは訝しげに目を細めて私を見る。そして、また舌打ちをして、席に戻った。身体を私ではなく出口のほうに向けている。話がつまらなかったら今度こそ帰るつもりだ。私はなるべくいちいの興味を引くように喋る。


「しず姉たち、今日(みなみ)五和いつわと練習試合したんだって」


「平日に?」


「なんか訳アリっぽいんだけど、そこは重要じゃなくて」


「南五和……あの変な黄色のリベロと、デカい左利き(サウスポー)と、珠衣みいのいる」


「そう。その南五和。で、まあ、わりといい勝負をしたんだって。なんかOGとかもいたらしいんだけど、最初に現役同士でやって、一セット取ったって」


 それを聞くと、いちいは目を閉じた。そして、しばらく考え込んでから、言う。


「……いけなくはないんじゃない。南五和はムラあるし」


「どういうシミュレーションしたのかわからないけど、ちなみに、しず姉と油町さんは途中出場らしいよ」


「は? それじゃ人数が足りないだろ。あの人の妹が前衛フロントもやったってこと?」


「そういうことらしい」


「……いや、まあ、あの人の妹ならありえる話か」


「で、それから」


「まだ何かあるの?」


「南五和との練習試合の前に、音成おとなる女子とも戦ってるんだって。一年生五人+万智ちゃん+音成のキャプテンで。そこでも一セット取ったんだってさ」


「……音成のキャプテンって、あのセンターの人だっけ」


「そうだったと思う」


「だとしたら、それは嘘だよ。ありえない。瑠璃、それはね、ありえないよ」


鞠川千嘉マリチカさんに限って、ってこと?」


「それもあるけど、マリチカさんを除いて考えても、一年生でどうにかなるものじゃないだろ、四強は」


 吐き捨てるように言って、いちいは黙ってしまう。私は、けれど、引き下がらない。


「でも、いちい、逆に考えようよ」


「は?」


「それがありえたら、当然、南五和にも無理なく勝てるよね」


「……ありえたら、ね」


「いちい、しず姉はね、嘘つかないよ。それこそ『ありえない』。音成の件は伝聞みたいだけど、信憑性が薄い話なら私には言わないし、信用できる人から聞いたことなんだよ。で、しず姉が信用する人なら、やっぱり嘘は言わないと思う」


 いちいは目が疲れた人みたいに眉間を押さえて、また黙り込む。私は待つ。そして、たっぷり約五分後。


「………………その」


 私に身体を向けたいちいは、私の携帯を指差す。


「一年生五人のうち……初心者じゃないやつ。他県から来たって経験者。どこの県の、なんていう中学から来たやつ?」


「それは私も聞いた。でも、しず姉もよく知らないみたい」


「……名前は?」


宇奈月うなづき実花みかちゃん」


「身長は? 高いの?」


「しず姉より小さいって」


「……ポジションは?」


「ポジションは――『今のところセッター』」


「は? 何それ? セッター以外もできるってこと?」


「たぶん。そういうことじゃないかな」


 いちいは、ちょいちょい、と腹を上に向けた人差し指を曲げ伸ばしする。私は意図を察して携帯の画面を見せる。いちいは私としず姉の会話を読み返すが、欲しい情報はなかったらしく、苦虫を噛み潰したような顔で携帯を私に押し戻した。


「瑠璃さ……」


「なに?」


「このダダ甘な喋り方なに? 猫被り過ぎ。吐き気がする」


「そこ!? つか、ひどくね!?」


 苦虫を噛み潰したような顔してたけど、苦虫って私かよ!


「いつかボロ出して見放されないようにしろよ」


「やめて。想像すると悲しくなる」


 いやさ、猫を被りたくて被ってるんじゃないんだって。しず姉が天使過ぎるのがいけないんだ。


「……まあ、とりあえずは、来週の地区大会だろ。市川さんたちは、たぶん不参加だろうけど」


「それはほら、いつも通りやれば楽勝でしょ?」


 私がそう言うと、いちいは、ふん、と鼻を鳴らした。


「……確かに、地区予選で手こずってるようじゃ、四強うえには届かない」


「蝶・蜂・龍・虎――どこかを崩せば、ブロック大会。県大会より上は、私には未知の領域だよ」


「うちの県の四強を崩せるなら、ブロック大会もいい線行ける。僕が保証するよ」


「やったろーじゃん」


「言うだけなら誰でもできる」


 突き放すようにそう言って、いちいは席を立ち、さっさと店を出てしまう。あいつめ……と思いつつ、私は途中から放棄した課題のプリントを鞄にしまって、いちいの分も含めて、机の上のグラスをカウンターに戻す。


 外に出ると、自動ドアの横にいちいが突っ立っていた。先に帰ったものだと思っていたので、ちょっと驚いた。そして、立つと本当に高いな、こいつ。


「それじゃ」


「うん。また明日」


 そんなことを言い合って、私といちいは別れる。私は線路を渡って向こう側へ。いちいは線路を越えずに元来た道へ。石館市は線路で二分されていて、私といちいは、中学まで敵同士だった。


 そんないちいとは、なんの因果か、今は同じチーム。


 そして、ずっと味方だったしず姉とは、このままいけば、インハイ予選で戦うことになる。


 でも、それはもう少しだけ、先の話だ。

登場人物の平均身長:165.6cm

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ