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じょばれ! 〜城上女子高校バレーボール部〜  作者: 綿貫エコナ
第三章(城上女子) VS南五和高校
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98(ひかり) 北地区一位

「そう言えば、藤島さん。さっき珠衣ミィ先輩とお話ししていた『一位』の件ですが――」


 片付けを済まし、部室に集合し、制服に着替えてミーティングを終えた後。


 油町ゆまち先輩はバスケ部のところへ行くと言って先に出て、私たちも帰ろうとなっていたときに、ふと、思い出して隣の藤島さんに聞いてみました。


「あぁ……『いちい』さんのこと……」


 藤島さんが話しにくそうに下を向きます。何人かが、私たちの会話に反応してこちらを向きます。


 ちなみに、部室は体育館パルテノンのすぐ隣にある長屋のような建物のうちの一部屋です。全面をコンクリートに囲まれた六畳一間で、窓はなく、ロッカー的なものもありません。入口を除く壁際にベンチがあり、そこを均等に席割りして、あとは個人で適当に使う感じです。Tシャツやシューズなどの私物はベンチの下などに収納します。制服などは奥にある衣紋掛けに引っ掛けます。また一角には共用のカラーボックスがあり、鏡やヘアピンなどの日用品、それに記録ノートや月刊バレーボール等が置かれています。


 席割りと平面図は以下の通り。先のミーティング時に全員で話し合って決めました。


  ―――入口―――

 |藤 三   岩 |

 |霧      市|

 |衣      立|

 |掛北 宇 油 棚|

  ――――――――


 現在は、油町先輩がいないだけで、他のメンバーはまだ帰り支度をしているところです。位置関係も席割りの通り。


「藤島、どうしたの?」


 最初に話に入ってきたのは、霧咲きりさきさん。携帯から顔を上げて、藤島さんを見ます。なお、部活後なので、長い髪を下ろして眼鏡になっています。クラスの違う霧咲さんとは部活で一緒にいる時間のほうが長いので、眼鏡姿を見ると、なんだかプライベートな姿を覗き見しているみたいで、ちょっとどきっとします。


「あ、いや、地区予選のことなんだけどね……」


「いきなり地区一位と当たったらどうしよう、とかそんな話?」


 おお、霧咲さん、話が早いですね。


「どういうことっスか?」


 ここで北山きたやまさんも話に参加。霧咲さんは「えっと……」と言葉を選んでいるご様子。そこに岩村いわむら先輩が説明を買って出ます。


「大会の組み合わせの話だよぉ。北地区予選はトーナメントなんだけどねぇ、初戦でいきなり強いところと当たっちゃったらどうしよう、って話。……だよね?」


「は、はい、そんな感じです」


「ふむふむ……なるほどっス。確かに、いきなり『一位』と当たったら大変っスよね。今日のみなみ五和いつわが、中央地区一位だから、同じくらい強いとこを倒さなきゃいけない。そういうことっスよね?」


 北山さんが立沢たちさわ先輩に目を向けます。立沢先輩は小さく頷きます。


「新人戦――前回大会の北地区一位は、石館いしだて商業高校――通称、館商だてしょう可那かなたち南五なんいつと同じで、新人戦では地区一位からの県八強」


「大丈夫っスか……?」


「わたしもいきなりクライマックスを迎えたくはない。そこは運任せ。ただ、いずれにせよ、地区優勝を目指せば館商とは間違いなく戦う」


「……いちいさん……」


「あの、藤島さん、なにゆえ先程から『一位』にさん付けを……?」


「あっ、三園みそのさん、たぶん藤島さんは――」


 市川いちかわ先輩はそこで言葉を切り、なぜか「しまった」みたいな表情になりました。立沢先輩が訝るように目を細めます。市川先輩は「えっと……」と発言を取り下げようとしますが、時既に遅し。立沢先輩の視線を避けつつ、続きを話します。


「その……たぶん藤島さんの言ってる『いちい』って、地区一位のことじゃなくてね……いや地区一位のことでもあるんだけど……」


「どういうこと、しずかちゃん?」


 隣の岩村先輩が首を傾げます。岩村先輩と立沢先輩に挟まれている市川先輩は、どんどん追いつめられていきます。


万智まちも……三園さんと霧咲さんも、たぶんわかると思うんだけど……私の一つ下の館三だてさんのエースが」


「あ」(私)「え」(霧咲さん)「ああっ!」(岩村先輩)


 館三のエース――それだけで全てが通じました。


「彼女がね……館商でもエースをしているんだ。その名前が……『いちい』。藤本ふじもといちい」


 OIC(オーアイシー)です。お名前は存じ上げませんでしたが、石館三中のエースと言えばあの方以外におりますまい。私たちの学年でいう藤島さんに相当するお人――岩村先輩の学年のナンバー1・ウイングスパイカーですからね。


「その藤本いちい先輩というのは、どういった方なんですか?」


 と宇奈月うなづきさん。


「上手い人だよぉ」「上手い人ね」「上手い人です」


 一斉に答える岩村先輩、霧咲さん、私。


「なるほど! 上手い人なんですね!」


 ご納得の宇奈月さん(こんな漠然としたしかも単一の回答でよかったんですか、とちょっと申し訳なく思います)。しかし、どうやら北山さん的には不十分だったようで、


「その藤本殿と、藤島殿だと、どっちが強いっスか?」


 と地雷を踏み抜きました。


「「………………」」


「えっ!? あ、なんかごめんなさいっス!!」


「あ、いや、甲乙つけ難いってことだよ……。タイプは違うんだけど、藤本さんも藤島さんと同じで、中学の県選抜でレフトを任されていたほどのウイングスパイカーだから」


「なんと!? 県選抜っスか!?」


「うん……。藤本さんの学年は全国ベスト4って言ってた気がする」


「ええ!? 全国ベスト4のエース!?」


「ま、まあ、そうなるのかな……」


「そんな人がいるチームと初戦で当たったら、いきなりクライマックスじゃないっスか!?」


梨衣菜りいな、落ち着いて。それもうわたしが言った」


「そ、そうでしたっスね……!」


 北山さん、大興奮です。逆に藤島さんはそろそろ精神の限界かもしれません。さっきから顔を覆ったまま石像のように固まっています。そんな藤島さんをよそに、北山さんたちは話を続けます。


「石館商業……そんなすごい人がいるチームが、同じ地区にいるっスね」


「というか、そんな人が進学先に選ぶくらいだから、館商って相当強いんじゃ……」


「あぁ、そうだねぇ、去年の地区一位も館商だったよぉ」


「二年前も、そう。私たちはストレート負けしてる。今年もかなり強くて、藤本さんの他にも、私と同期の館二だてにのエースとか、館三だてさんのエースもいて……」


「市川先輩の同期の館二・館三のエースというと」


「一応……中学時代、最終成績は館二が地区二位、館三が地区四位で地区代表」


「めっちゃエリートじゃないっスか!」


「しずしず先輩、他のメンバーもわかったりしますか?」


「えーっと……あ、そうだ、霧咲さんは覚えあるんじゃないかな。現二年生の佐々木(ささき)さんって人」


「あぁ、郁恵いくえ先輩。そうですね、石館商業に行くって言ってた気がします。高校でもセンターですか?」


「うん、そうだよ。あとは……リベロの日下部くさかべさんが玉緒たまのお中で」


 おっと、先輩の名前が出てきました。これは黙っていられません。


「日下部先輩は、高校ではリベロをされているんですか?」


「うん。えっと、中学時代はどこだったんだっけ……?」


「日下部先輩はセッター対角のライトでした」


玉中たまちゅうならリベロじゃなくても守備力は折り紙付きよね」


「聞けば聞くほど強そうっス!」


「……というか、静はなんでそんなに館商に詳しいの?」


 ここで立沢先輩の追求が入りました。市川先輩は「あ……」と口にして、おろおろと目を泳がせます。


「おかしいと思ってた。普通にジャンプフローター決めるし、由紀恵ゆきえにもドンピシャで合わせるし、静、二年前からまるで腕が鈍ってないよね。それどころか上がってるよね。小学校のクラブを手伝ってるみたいな話をしていたけど、それだけじゃないよね。明らかに高校生用のネットとボールに慣れがあるよね。どういうこと?」


 だらだらと滝の汗(比喩)を流す市川先輩。立沢先輩はそれを見て、はぁ、と溜息をつきます。


「どこで練習させてもらってたの?」


「それは……その……」


「その?」


「…………石館商業」


 えっ、と岩村先輩が目を丸くして口を覆います。立沢先輩は深い溜息をついて市川先輩を睨みます。


「ねえ、静」


「…………なんでしょうか」


「わたし、怒っていい?」


「…………いいと思います」


「どこの世界に、自分の通ってる高校の部活辞めて、別の高校の部活に混ぜてもらう大馬鹿者がいるの」


「…………ここに一人」


「開いた口が塞がらないとはこのこと」


「ま、まあまあ、胡桃くるみさんっ! それだけ静ちゃんがバレー好きだってことですから! 今は部活に戻ってきましたし、ブランクがないのは喜ばしいことです!」


「……まあ、万智がいいなら、いいけど。確かに、腕は落ちてないし、館商の情報を持ってるし、結果オーライと言えば結果オーライ」


「…………大変申し訳ございませんでした」


 顔を覆って蹲るようにように下を向く市川先輩。なんということでしょう。私が端を発した会話で、二名も轟沈してしまいました。


「ところで、今名前が挙がった館商だけど」


 そう言って立沢先輩は立ち上がると、いつも手に持っているノートとは別の色のノートを棚から取り出し、掲げてみせます。その表紙には『マル秘』の文字。


「みんなには次の次の日曜日、直に見てもらう予定だから」


 はて?


「偵察。ブロック大会北地区予選――わたしたちは不参加だけど、だからこそできることをする。自分たちが倒すべき敵を、じっくり見れるいい機会」


 ふふふっ、と立沢先輩はあくどい笑みを浮かべます。


「実績ゼロでインハイ予選に臨むのは確かにリスクがある。けど、それは今言っても仕方がないこと。組み合わせの不利は、情報戦でカバーする。というわけで、みんな、他校の知り合いにあんまりぺらぺら城上女うちのことを喋っちゃダメだからね」


 おおう……さすが立沢先輩です。市川先輩から館商のことを聞き出す気満々なのに、その逆はNGとは。


新生・城上女(わたしたち)のお披露目は、六月のインハイ予選。そこで度肝を抜いてやりましょう」


 ふふふっ、という立沢先輩の笑い声が、部室に不気味に響き渡りました。

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