96(ひかり) ダイジェスト
さて、その後のことをダイジェストでお送りしましょう。
目出度く復帰を決意してくれた市川静先輩。そうと決まれば黙っていないのが、OGの皆さんです。
「さあ、雪辱戦をするわよ! カトレア、降りてきなさい!」(片桐里奈先輩)
「もちろん! もう身体がうずうずしてるんだから! 紀子と衣緒も準備しな!」(川戸礼亜先輩)
「だってさ、衣緒」(桑本紀子先輩)
「静と同じコートに立つの辛いわ……」(美森衣緒先輩)
「あの……私、ご遠慮したほうがいいんですかね」(市川先輩)
「いや、主役が引っ込んでどうすんのよ」(川戸先輩)
「衣緒、大丈夫だよ。静のほうがぶっちぎりで上手いのは、みんな二年前からわかってるんだから」(桑本先輩)
「斬新な『大丈夫』の使い方★」(美森先輩)
そんなこんなで、再び両陣営に別れ、第二セット。スターティングメンバーは以下の通りです。
―――城上女―――
川戸 桑本 市川
美森 油町 岩村
L:三園
―――南五和―――
赤井 片桐 逢坂
生天目 結崎 江木
L:有野
主審は宇奈月さん。副審は佐間田珠衣先輩。北山さんと藤島さんはラインジャッジに加わり、霧咲さんは北山さんについてラインジャッジの手ほどきをします(大会では、得点係とラインジャッジは各校持ち回りで生徒が行うのが普通なので、できるようになっておかないと後々困るのです)。
雪辱戦は、南五和の快勝に終わりました。第一セットは私が前衛でよく勝つことができたな――と思うほどの猛攻に晒され、私としては課題の残る試合内容でした。もっとも、私以外の城上女の先輩方は、勝ち負けに拘っている様子はありませんでしたが。
さらにその後、美森先輩が「肉体の限界★」を迎え、北山さんと交替してポジションを、
―――城上女―――
川戸 桑本 市川
油町 北山 岩村
L:三園
と改めて第三セット。今度は川戸先輩も桑本先輩も勝ちを狙いにいったようで、第二セットより白熱した内容となりました。結果は18―25で、第二セットよりは健闘しましたが、負けは負け。中央地区一位はそう簡単に白星を譲っていただけないようです。
川戸先輩はよほど悔しかったらしく、自分の代わりに藤島さんを投入しようと(本末転倒な)提案しますが、その辺りで部活終了の時間が来てしまいました。
「あぁ、もうっ! 衣緒がいないから今度は行けると思ったのに!」(川戸先輩)
「まったくです!」(桑本先輩)
「オブラートの偉大さを感じる瞬間★」(美森先輩)
「当然でしょ。地力は南五のほうが上なのよ。今も二年前もね」(片桐先輩)
「はっ! 二年越しの負け惜しみとは見苦しいわ!」(川戸先輩)
「負け惜しみじゃなくて事実。ってか、私的にはカトレア――あんたの後輩を褒めたつもりなんだけど」(片桐先輩)
「中央一位のお褒めにあずかったわよ! よかったわね、衣緒!」(川戸先輩)
「上げてー★」(美森先輩)
「いやその子じゃなくて」(片桐先輩)
「落とすー★」(美森先輩)
「基本よね」(桑本先輩)
「現役生よ。半分以上一年生で、さっき普通に試合になってたじゃない。これは大会も期待できそうよね」(片桐先輩)
「聞いたわね、静! 県大会では今日の借りを返すのよっ!」(川戸先輩)
「う、うん……」(市川先輩)
市川先輩が控え目ながらも頷いたのを見て、川戸先輩は満足したように微笑みました。それから、川戸先輩は立沢先輩と一言二言やり取りをして、他のお三方に声を掛け、さくさくと帰り支度を始めました。私たちは揃ってお礼とお別れを言い、先輩方を送り出します。その後、OGの皆さんは更衣室に移動して、ほんの五分もしないうちに、あっさりと帰っていきました。
そうして先輩方を送り出したあとは、全員でクールダウン。
それぞれ適当に二人組を作って(今日は、私と藤島さん、宇奈月さんと霧咲さん、岩村先輩と北山さん、市川先輩と油町先輩、という組分けになっています)、喉を潤したり、汗を拭いたり、柔軟をしたりします。
そんな中、城上女と南五の三年生が談笑(?)を始めました。柔軟していた市川先輩と油町先輩のところに有野先輩がとことこ歩いていって、それを見た立沢先輩と江木先輩が駆け寄り、逢坂先輩は我関せずといった風で遠巻きに見ている、という構図です。
「よう、市川。それと――」(有野先輩)
「油町由紀恵ですっ!」(油町先輩)
「そう、油町。今日はありがとな。楽しかったぜ」(有野先輩)
「あ、い、いや……こちらこそ、ありがとうございます。お世話になりました」(市川先輩)
「この続きは県大会で――っつっても、お前ら来月のブロック大会予選は出ねえんだろ?」(有野先輩)
「来月?」(油町先輩)
「あ、えっと、それは……」(市川先輩)
「残念だけど、不参加。地区予選のエントリーが去年度だったから」(立沢先輩)
「ふん。じゃあ、やっぱ次に会うとしたらインハイ予選か。つか、市川、お前県大会に出てこなかったらどうなるかわかってんな?」(有野先輩)
「……ど、努力します」(市川先輩)
「可那ちゃん、恐い顔しちゃダメだよ」(江木先輩)
「これくらいしとかねえとまたヘタレっかもしんねえだろ」(有野先輩)
「と、言われてるけど、静?」(立沢先輩)
「…………努力します」(市川先輩)
肩身が狭そうな市川先輩。しかし、残念ながら私ではお力になれないので、心の中で応援するに留めます。
と、そのとき。
「あー、やっぱブロック大会は出ないんだねー」
三年生のほうを見ながらこちらに歩いてきたのは、珠衣先輩。プレー中は気付きませんでしたが、その整った顔立ちとお下げの巻き髪は、確かに音成の佐間田芽衣先輩にそっくりです。
そんな珠衣先輩に、藤島さんは私の背中を押していた手を止めて、ご挨拶。
「お疲れ様です、珠衣さん」
「おつ。あっ、そっちのあなたもお疲れ様。見てたけど、なんかすごい上手いよね。バレーはいつからやってるの?」
「お疲れ様です。バレーは小学二年生からですね」
「小二!? ひゃー、道理で」
珠衣先輩は私の傍にしゃがみ込んで、しげしげと私を眺めます。そこへ、放置されていた藤島さんが会話に復帰します。
「あっ、あの、珠衣さん。それで、どうかしましたか?」
「ん、ああ、ごめんごめん。別にどうしたってほどでもないんだけどさ」
「えっ、あ、はあ……」
「透たちは、今度のブロック大会に不参加だから、夏のインハイ予選が初陣ってことになるんだよね?」
「そういうこと……になるんですかね。はい、たぶんそうだと思います。それが何か?」
「おやおや? 随分と余裕だね、透くん。けど過信はよくないよ?」
「そんなつもりはありませんけど……。あの、よく話が見えないんですが」
首を傾げる藤島さん。珠衣先輩は「失礼」とその場に腰を下ろすと、長い足を伸ばしてリラックスした姿勢で話し始めました。
「そりゃまあ、市川さんとか、透とか、そっちのリベロの子とかがいる時点で、城上女は余裕で地区代表レベルだと思う。というかさっき珠衣たちも一セット取られたしね。強いよ、あなたたち。でも、実力があることと、地区予選を突破できることは、別物だからね」
「えっ? どういうことですか……?」
「透たちはインハイ予選が初陣。だったら、そこそこの確率でありうるでしょ。北地区予選の方式は知らないけど、組み合わせ次第では」
「え、っと……?」
「だから、いきなり北地区一位――もとい『いちい』とぶつかるって展開」
「っ!?」
さっ、と藤島さんの顔が青ざめます。言われてみれば、と私も焦りを覚えます。どういう形式にしろ、組み合わせは実績のある強豪同士が初戦で潰し合わないように調整されます。
しかし、私たちにはその実績がゼロ。地区一位に限らず、上位の強豪チームのどこかとは、確実に早い段階で当たります。
ただ、大会で格上との対決を避けて通れないのは、当たり前と言えば当たり前のこと。明日明後日にすぐ対決するわけでもありませんし、大会に向けて一緒に頑張っていきましょう、藤島さん。
「……いちい……さん……」
「……藤島さん?」
なんだか藤島さんの様子がおかしいです。私は珠衣先輩に説明を求めようと目を向けますが、そこで集合の時間になってしまいました。
南五の皆さんとはここでお別れです。お互いに向き合って整列し、「ありがとうございました」で締めて解散となりました。
南五の皆さんを更衣室に送り出し、私たちは後片付けを始めます。準備のときより部員が多くなっているので、あっという間に完了します。途中、制服に着替えた有野先輩が体育館に顔を出して、また一騒ぎ起こしていましたが、立沢先輩と江木先輩のご尽力により、登場時よりは大人しく帰られていきました。
「今度はそっちから遊びに来いよな、静っ!」
有野先輩が去り際に残していったのは、そんな爽やかなお言葉。
遺恨も禍根も綺麗に取り除かれた、と受け取っていいのでしょう。立つ鳥跡を濁さず、です。
かくして、南五和高校との練習試合、及び市川先輩復帰作戦は、大成功に終わりました。




