38品目・サーカスからの依頼と、爆裂種(クラムチャウダーとガーリックトースト、ポップコーン)
昨日は、電動綿菓子機の調子が見れたのと、無事厨房倉庫経由で電源を引っ張ることができると確認できたのでよしとしておこう。
もっとも、試食用綿菓子を食べたシャットの絶叫が周囲に響き、大勢の人たちが興味津々でやって来たのには参ったのだが、そこは大人の対応という事で少な目の綿菓子を作って手渡すことにした。
まあ、ついでにシャットとマリアンの二人にも綿菓子を巻く練習をして貰おうと思っていた部分もあるので、宣伝も兼ねて一石二鳥ということで。
そして今日は、昨日の続き。
露店はリクエストに応えて、今日はクラムチャウダーとガーリックトースト。
特に変わった作り方はしないので、仕込みの説明については割愛といこう。
ただ、折角なのでガーリックトーストに使ったガーリックバターの作り方だけでも。
とはいうものの、それほど難しい手順も材料もない。
室温に戻したバターと皮を剥いたニンニク、そして塩コショウ。
バターはボウルに移しておき、そこに擦り下ろしたニンニクを混ぜ、塩コショウであたりを付ける。
ちなみにうちの場合、その時の気分でここにパセコン(パセリのコンカッセ)を加えることもある。
まあ、パセリの粗みじん切りといえばわかってくれると思うが、風味付けだけでいい。
あとはタッパーに入れて蓋をして冷蔵庫へ。
そしてスライスしたフランスパン(バゲット)にさっと塗って、オーブンで軽く焼くだけ。
できるなら、ガーリックバターは使う時に合わせて作った方がいい。
その方がニンニクの風味が強く出るので。
………
……
…
――中央広場・いつもの露店
仕込みを全て終えて露店の場所に向かったが。
すでに大勢のひとだかりができている。
そしてマリアンとシャットの二人が、そのひとだかりの中の一人と話をしている最中のようだが。
「あ、ユウヤ店長、おはようございます!!」
「ということで、彼がうちの店長だにゃ」
「ほほう、ほうほう」
人混みを避けて横か露店の場所に向かうと、一人の貴族風の男性が話しかけてきた。
「貴方が、この町一番の露天商ですか。私はアンドリュー・ブレンディと申します。明日よりこの領都ウーガ・トダールで【デレンディ・サーカス】を取り仕切る興行主でして、実はお願いがあって参りました」
「これはどうも。ユウヤの露店の店主、ユウヤ・ウドウです。それで、お願いとは?」
「実はですね……」
このアンドリュー・ブレンディさんは、国内を定期巡回しているサーカスの興行主らしい。
サーカスとは、大型テントの中で様々な演目を見せる大道芸人の集まりのようなものらしく、テントが円形でそこで次々と演目を繰り広げるところから【サーカス】と呼ばれるようになったとか。
そして説明が終わった後で本題に入ったのだが。
「ぜひとも、収穫祭の期間中は我がサーカス専属の料理人として雇われて欲しいのですよ。いえ、できれば私どもの一座に加わり、共に各地を回って欲しいのですが……」
「あ~、申し訳ないが、それはお断りさせていただく。誰かに雇われているよりは、自由気ままにやっていたいのでね」
「そうですか……それは残念です。街のあちこちの人たちから、この露店の食事は大層珍しいものばかりで、一度食べてみなって言われたものでして」
「それはありがとうございます。でも、雇われてという事についてはご勘弁いただきますので」
「わかりました。では……」
そうアンドリューさんが告げると、いきなり露店の前に並び始めたんだが。
「そちらのお嬢さんから、食べたいなら並べと言われましたので、こちらで待たせてもらいますよ」
「では、そこまで言われたら急いだほうがいいですねぇ。シャット、マリアン、大急ぎで準備するぞ」
「了解だにゃ」
「畏まりましたわ。それで、今日のメニューはなんでしょうか……」
テーブルと保温ジャーを次々と並べ、さらに焼きたてガーリックトーストの入ったバットも取り出す。うん、焼き直し炙り直しのない、盛り付けるだけのメニューはこういう時は強い。
「それじゃあ、二人は一人前ずつ試食を頼む。今日はセルフサービスで。俺は先に露店を始めているから、食べ終わったら手伝ってくれ」
「い、急ぐにゃぁぁぁぁぁ」
「わ、私は試食は後でいいですわ、ユウヤ店長はクラムチャウダーを注いでください、ガーリックトーストは私が盛り付けますので」
「それじゃあ、始めるにゃあ」
シャットの号令と同時に、いつもよりもちょっと早いユウヤの露店が始まった。
最初の客であったサーカス団の団員たちは、クラムチャウダーとガーリックトーストを不思議そうな顔で見ながら食べている。
もっとも、初めて食べる味だったらしく、途中からはそりゃあもう、すごい勢いで食べ始めていたんだよなぁ。
「ユウヤ殿、あとで頼みがあるのですが……」
「んんん、専属シェフの件なら、さっきの話で終わりだと思っていたが、まあ、それ以外の話があるのなら、露店が終わってからにしてくれると助かる」
アンドリューさんが申し訳なさそうに横から話してきたので、とりあえず続きは露店が終わってから。
そして今日もまた、常連客以外にも見慣れない人達が増え始めている。
そのためか、列を無視して買おうとしている輩をどうにか並ばせようと、シャットが必死だ。
「お、ユウヤ店長、私たちも客の誘導、手伝いましょうか?」
「夕食を奢ってくれるのなら、お手伝いしますよ、カップ酒付きで」
「ああ、すまないが頼む。これはちょっと、シャットだけじゃ無理そうだ」
「了解っと、おらおら、そこ、横入りするんじゃねーよ、一番後ろに並びやがれ」
急遽、ミーシャとアベルも客の誘導を手伝ってくれることとなり、どうにか騒動は回避できそうだ。
ただ、あいも変わらず、見た事のない商人たちが背後でうろうろしているのは落ち着かない。
まったく、勘弁してもらいたいものである。
………
……
…
――営業後・露店にて
「ほらよ。ちょいとサーカスの団長と話をするので、悪いが」
「セルフサービスだにゃ!!」
「お、おう、シャットとマリアンに任せるわ」
ということで、賄い飯については二人に任せる。
テーブルに保温ジャーを二つと、カップ酒を6本おいておく。
クーラーボックスは出しっぱなしにしてあるので、ジュースは好きに飲んでくれ。
「ということで、さっきの話ですが、何か頼みがあるという事でしたが」
近くのベンチに座って、アンドリューさんに話しかける。
すると、頭を下げてから話を始めてくれた。
「実は、毎日一つでいいので、食事を売って欲しいのです」
そう告げたと思ったら、シャットたちの前に置いてある保温ジャーを指さした。
「えぇっと、保温ジャーに一本分の料理を買いたいっていうことですか。随分と大量に買いますけれど、それって何か事情でもあるのですか? 申し訳ないですが、転売目的でしたらお断りしますが」
「実はですね、我がデレンディ・サーカスには元々、専属料理人がいたのです。ですが、半年ほど前から体を壊してしまい、ここの前に立ち寄った街で料理人を引退し、治療院にお世話になったのですよ。それで、彼が辞めてからも何人か料理人を雇っては見たのですが、どうにも団員達の舌を納得させるだけの料理にたどり着けていなくてですね」
それで、この街に来てから、サーカス所属の料理人たちの勉強も兼ねて、美味いものを食べ歩いていたらしい。そんな時、噂で俺の名前を聞いたらしく、是非にと勧誘したが失敗、現在に至ると。
「成程ねぇ」
「ですから、あの入れ物一杯分を毎日、ご用意できないでしょうか? 料理人たちの勉強と、うちの団員のやる気のために」
「う~む。事情が事情ですからねぇ、販売するのは別に問題ないのですけれど」
「それでは!!」
「実は、明後日の収穫祭から一神月の間は、うちは焼き物や煮物といった料理の露店は出せないのですわ……だから、今日食べていたようなものはご用意できないのですけれど……」
さて、困った。
一か月分の料理ともなると、毎日のメニューは可能な限り変える必要もある。
それについてはレシピは豊富にあるので全然問題じゃないのだが、その大半が焼き物か煮物に分類してしまう。今日の炒飯だって、恐らくは焼き物に分類されるだろうなと予想はしているので、露店としては出せないだろう。
目の前では困り果てて焦燥しているアンドリューさんの姿。
これを突っぱねてしまうと、俺としても後味が悪すぎる。
それと、一か月も露店だけを続けているっていうのは、俺の精神衛生的にもよろしくない。
「ま、一日寸胴一つ。うちの露店まで取りに来てくれること、時間帯は昼過ぎ。これでよければ、一か月……と、一神月の間は、うちで食事を作ってあげますよ」
「ほ、ほ、本当ですか!!」
「ただし、メニューについては家で勝手にやらせてもらいますので、予め食べられないものとかありましたら、それは教えてください。それで、明日からでよろしいのですか」
「はい!!」
これで交渉は成立。
あとは代金その他の打ち合わせなどを行ったのち、アンドリューさんはスキップしそうな勢いで帰っていった。
「さて。こっちの話し合いは終わったので……って、おいおい、アベルとミーシャ、いくらなんでも呑み過ぎじゃないのか?」
「大丈夫ですよぉ」
「ああ、一人3本しか飲んでいませんから、水のようなものですよ」
「はぁ。それじゃあ、とっとと片付けて昨日の続きといきますかねぇ」
昨日の続き、この言葉にシャットとマリアンが嬉しそうな顔になる。
ということで、収穫祭の露店シリーズ、その2の登場だ。
昨日に引き続き、厨房倉庫経由でドラム式電源コードを引っ張って来る。
次に、テーブルの上に、【卓上式ポップコーンマシーン】を引っ張り出すと、コンセントを接続して電源をオン。
こいつも昨日の綿菓子製造機と同じく、暖機運転が必要でね。
「ありゃりゃ? ユウヤ、今日は綿菓子じゃないにゃ?」
「これはまた、随分と綺麗なマジックアイテムですね。これも甘いお菓子が出来るのですか?」
マリアンの言葉に、近くでワクワクしながら見ていた子供たちが集まって来る。
まあ待て、試食はするがさきにテストだ。
「それじゃあ、今日は最初から説明するからな。この透明な蓋を開けてだな、中に鍋のようなものがつるしてあるだろう? この蓋を開けてだな、スプーン一杯のとうもろこしと油、そして塩を加える」
「ふむふむ」
「なにができるのでしょうか」
そしてアクリル製の扉を閉めると、やがて鍋が過熱してその中に入っているトウモロコシにも熱が加わり。
――ポンッ!
いきなり、トウモロコシが爆ぜた。
その音で近くまで近寄っていたシャットとマリアンもそして子供たちも驚いて離れていくが、ポンポンっと音を立ててポップコーンが鍋から飛び出し、ケースの中に溜まっていくのをじっと見ている。
「ゆ、ゆ、ユウヤ、爆裂魔法なのかにゃ?」
「いえ、炎の精霊の力は感じませんでしたけれど……これは一体なんでしょうか?」
「ああ、これが露店の二つ目のメニュー、ポップコーンだ」
そう告げているうちに、最初に投入したとうもろこしが全て爆ぜ終わった。
ここでヒーターの電源を落とすことなく、鍋の中をさっと拭いて再び油と塩、とうもろこしを投入。
それを何度か続けているうちに、アクリルケースの下1/3ほどまでポップコーンが溜まったので、電源を落としてスコップでポップコーンを掬い取り、紙コップに入れて出来上がり。
店によっては、ここで追い塩を振る店もあるが、うちはまあ、こんなところで。
「ほらよ、食べて見な」
「んんん……ゃっばり食べ物だったにゃ」
「不思議ですね。この粒って、メズミンの種ですよね? こんなに膨らむのですね」
「メグミン? あ、メズミンか。こいつのことか?」
この前、市場で貰ってきた穀物の種。
トウモロコシに似ていたので、なにか使えるかなと貰ってきたのだが、それと爆裂種のとうもろこしの種は同じ形状をしている。
ひょっとして使えるのではと思い、空間収納からメズミンの種を取り出して詳細説明を確認すると、日本の爆裂種の変わりに使えるらしい。
「ちなみにだが、こっちがそこの市場で買ってきたメズミンで……」
物は試し、カセットコンロとフライパン、透明な蓋を取り出して。
フライパンを熱してバターを入れて、そこにメズミンの種を入れて蓋をして、焦げないようにゆっくりとフライパンをゆすってみる。
「んんん、ユウヤ、それはなんだにゃ?」
「そこで買ってきたメグミンの種でポップコーンが作れるか試しているところだ」
「店長、メズミンですよ」
「ああ、それ……と」
――PONG PONG!!
しばらくしてメズミンが一つ、また一つとはじけてくる。
どうやらこいつも爆裂種らしいことが判明したが、こっちのは爆裂種でも『マッシュルーム型』に近い。ちなみに俺が用意したものは『バタフライ型』 で、一般的な奴。
マッシュルーム型は、はじけた時の形がマッシュルームのように丸々とふっくらしている。
それに、なんとなく音も違うだろ?
「ふむ、市場のトウモロコシでも作れるのか。しかし、やや温度設定が高くなりそうだな……ま、在庫があるうちは、バタフライ型で大丈夫だろうさ」
ちなみにメズミンの種で作った奴は紙袋に入れてから、塩少々とブラウンシュガーを入れてから、蓋を閉じて急いでシェイク。
こうすることでシュガータイプのポップコーンが出来る。
「そ、そっちは甘そうだにゃ」
「まあ、好みの問題だ。ほら、試食が終わったら、作ってみな」
「あ、私から作ってみますね~」
まずはマリアンが作り出す。
昨日の綿菓子よりは難しくはないようで、すぐにコツを掴んで子供たちにも配布している。
シャットもすぐにコツを掴んだのはいいか、そこの酔っ払いカップルは、ポップコーン片手に酒を飲んでいる始末。
まあ、程々にしてくれよ。




