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【書籍化決定】隠れ居酒屋・越境庵~異世界転移した頑固料理人の物語~  作者: 呑兵衛和尚
酒と肴と、領主と親父

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33品目・王都の冒険者旅団と、姐さんリーダー(クラムチャウダーとガーリックトースト)

 香辛料騒動が収まってから。


 ゆっくりとだが寒さが強くなり、田園地帯でも穀物・作物の収穫が始まった。

 同時に、これから来る冬のために森深い地域に住む動物たちは越冬の為の準備を開始、脂が乗って程よい状態に太り始める。

 それを獲物とした大型肉食獣や魔物の群れが領都近くの森まで降りてくるため、冒険者組合にも連日のように魔獣の討伐依頼が掲示されているらしい。


 ちなみにだが、鹿や猪といった魔獣でない野生の獣たちについては狩人組合の管轄であり、彼らが積極的に狩りに向かっている。

 魔物盗伐と獣の狩りは、似たようで異なっているとマリアンからも事細かに説明されたのだが、どうにも理解できない部分がいくつかあってねぇ。

 まあ、そういった討伐依頼が数多く提示されると、そのために遠路はるばる冒険者が集まって来るらしく。現在の領都はとんでもない数の人たちが集まり、にぎわっている。

 特に冒険者と商人は、収穫祭を前後に領都に集まり、そして時期を見てゆっくりと南下を始めるらしい。


「まあ、こうなるだろうとは思っていたけれどなぁ……」


 いつものように露店を開いているのだが、とにもかくにも客が多く集まりすぎている。

 ゆっくりとだが気温も下がり始めたので、クーラーボックスでのドリンクの販売も終了。シャットには客の整理を担当して貰っているが、それでも領都の外から来た奴らはルールを無視して我先にと集まってくる。

 しまいには常連たちと喧嘩を始める輩まで出始めて、街の巡回警備を行っている騎士団からお咎めを喰らっていたりする。


「……ユウヤさん、もうご飯がありません!!」

「ほい、これで最後だよっと!!」


 厨房倉庫(ストレージ)から最後の保温ジャーを引っ張り出してマリアンの前に置く。

 俺の方も、そろそろ仕込んであったカレーが切れそうなので、これを売りつくせば今日の露店は終了となる。

 そんなこんなで、今日の分が全て完売。

 まだ並んでいる客はいるものの、これ以上は売るものが無いので本日は終了だと説明しているのだが。

 

「待ってくれ、俺はリーダーからここの料理を15人前買って来いって言われているんだ。なんとかならないか?」


 売り切れだと説明すると、大抵の客は諦めて別の露店へと向かってくれるのだが、

 今日は二人の冒険者が最後まで粘っている。


「なあ、昨日もその前も、いっつも並んでは買えなかったんだよ、どうにかして欲しいんだけれどさ」

「組合の連中が、ここの露店は最高だって話しているんだよ、それをリーダーが聞いてぜひとも食べてみたいって……頼むからさ、なんとかならないか? 三日も手ぶらで帰ったら、それこそ俺たちが怒鳴られちまうんだよ」


 必死にそう告げる冒険者だけどさぁ。

 ご飯は結構あるんだが、流石にカレー自体は賄い分しか残っていない。

 そもそも、昨日も一昨日も並んでいたのなら、うちの露店が混むのは分かっている筈。

 それなのに買えていないっていうことは、油断以外のなにものでもない。


「申し訳ないが、ルールなものでね。明日も雨さえ降らなければ、ここで露店を開いているので早目に来てくれると助かる。ということで、またのご来店をお待ちしています」

「なんだよ……折角並んでやっているっていうのによぉ」

「王都じゃ、俺たちの頼みを断る露店なんてなかったんだぞ?」

「まあ、ここはアードベッグ辺境伯領ですからねぇ。そもそも、俺はあんたたちの事を全く知らないもので、それじゃあ、そういうことで」


 そう告げて一礼すると、まだ不満があるらしくブツブツと文句を言って離れていく。


「ふう。しっかし、なんで早くから並ばないんだろうねぇ。二日も来ているのなら、うちの露店の混雑具合は判っていると思うんだけれど」

「多分ですが、自分たちには特権があると思っているのではないでしょうか」

「特権? 冒険者って、なにかそういうものを持っている奴もいるのか?」

「いるにゃ。王都を拠点としているクランには、爵位持ちのリーダーがいることが多いにゃ」


 シャットとマリアンの説明では、冒険者は依頼を受ける際に、見知った仲間たちでパーティーを結成して受けることがある。

 二人のようにソロで活躍している者も、臨時でパーティーに加わって依頼を受けることがあるらしいが、クランというのは、そういったパーティーが幾つも集まって作る組織のようなものらしい。

 一定の街に拠点を設け、そこで建物を購入し仲間たちとともに過ごしたり、クランで鍛冶師や料理人を雇っていることも少なくはないそうだ。

 

「あいつの襟についていた徽章は、王都の『ミルトンダッフル』っていうクランだと思うにゃ」

「リーダーは冒険者組合に対する貢献度が高く、騎士爵を授与されているそうですわ。それで配下の冒険者達の中には、さっきの奴らみたいに偉そうなことを話している人もいるって聞きましたけど」

「ふぅん……と、よし、賄い飯の準備ができたんで、そろそろ食べるとするか」

「「いっただきまーーーーす」」


 まあ、王都のクランだかなんだか知らんけれど、ルールはルールだしないものはない。

 今食べている賄い飯のカレーライスだって、昨日賄い用にまとめて仕込んだやつなので、露店での販売には向いていない。

 ぶっちゃけると、うちのお嬢さんたちは舌が甘口っぽいので、ピリッと辛いタイプは苦手らしい。


「普段、露店で売っているのも美味しいけれど、ちょっと辛すぎるからにゃあ」

「ええ、香辛料が効きすぎていますからねぇ」

「それが美味いんだけれとなぁ……と、何か御用で?」


 のんびりと賄い飯を食べていると、結構身形のいい女性が露店にやってきた。

 その後ろには、ついさっき文句を言って帰っていった冒険者の姿があるんだが。


「さっき、うちの連中がここの露店で買い物をしようとしたらしいんだけれどさぁ……売り切れだって断られたらしいんだよ。でも、あんたたちは、その売り切れだったものを食べているんだよねぇ……それっておかしいんじゃない?」


 随分と迫力のある女性だな。

 右目にアイパッチをしているし頬にもざっくりと大きな傷もある。

 冒険者というよりも海賊っていう感じの服装、腰には武器もぶら下げているじゃないか。


「そうだそうだ、さっきは売り切れだって話していたじゃないか」

「それなのによ、自分たちは食べているじゃねぇかよ。それってあれだろ、俺たちに売るような料理はないっていう事だよな、ふざけやがって!!」

「はぁ……それじゃあ説明するから、後ろの二人は黙っていろ」


 よく見ると、後ろの二人は海賊風のねぇさんを煽ってこっちにけしかけようとしている感じだ。

 だから、空っぽになった寸胴を厨房倉庫(ストレージ)から引っ張り出し、鍋底にわずかに残っているカレーをスプーンですくってご飯にかける。

 そしてもう一つ、今俺たちが食べている賄い飯も用意して、その二つを姉さんに差し出した。


「ほらよ、こっちが普段、露店で出しているやつだ。そしてもう一つは俺達が食べている賄い飯だ。賄いの方は辛みを押さえて、俺達が食べやすいように仕上げてあるが、代わりに香辛料は少な目で一般受けしない味付けになっている。ということで、俺は自分達用に作った賄いを他人に売る気はない……食べて確かめてみてくれ」


 ニイッと笑って差し出した皿を、姐さんは受け取った。


「ふぅん。それじゃあ、食べてみるかねぇ……」


 まずは市販品のカレーを一口。

 口の中に入れた瞬間、驚いた顔をしてがつがつとカレーを食べ切った。

 そして次に賄い用の奴を食べ始めたが、やはり何か物足りなさそうな表情をしている。


「ふん!! そんな話で誤魔化そうとするなよ。うちのリーダーはな、王都でも有名な美食家なんだぜ」

「所詮はこんなところで露店を開く程度の料理人だろ、香辛料で味を誤魔化したところで、リーダーの舌を騙すことなんざできないぜ」


 あ~、外野がうるさいったらありゃしない。

 どう見ても太鼓持ちか腰ぎんちゃくっていうところだろう。

 そして姐さんも食べ終わった皿を俺に差し出してきたが、はたして判定はどうなったことやら。


「うちの連中が騒ぎを起こして、すまなかったね。本当に美味しい料理だったよ」

「「リ、リーダー?」」


 軽く頷くように頭を下げての謝罪。

 それは受け取ることにしよう。


「いや、分かってくれればいい。それでだ、二人については、もう少し早めに並んでくれれば、普通に買えることを説明してあるので。明日からは早めに来てくれると助かる」

「……んんん? ちょっと待っておくれ。この二人には、開店直後ぐらいに買いに行くように説明してあったはずだけれど……どういうことなんだい?」


 おっと、怒りの矛先が二人に向いたようだが。


「大方、自分たちが並んで買うなんて、納得していないのではないでしょうか?」

「この二人は、いっつも並んでいる列が消えるか消えないか辺りでやって来て、購入しようとしているにゃ。でも、列が消えるっていうことは売り切れなので、買えるはずがないにゃ」

「あっ、この馬鹿っ」

「黙れよっ!!」


 マリアンとシャットもそう呟いているが、それを聞いて男たちも『しまった!!』っていう顔をしている。


「ふぅん……店主、うちの若いのが迷惑かけてしまったようで。明日からはここのルールを守るように、ちょいと説教しておくので」

「ま、お手柔らかに。うちのルールは厳格でね、男爵だけじゃなく、辺境伯もそのルールは守っているので」

「ああ……それじゃあとっとと帰るよ!!」

「「へいっ!!」」


 姐さんに引っ張られて、男達も帰っていく。

 それにしても、豪快な姉さんだなぁ。


「ふう……お腹いっぱいだにゃ」

「ええ、私もごちそうさまです……」

「はい、お粗末さんと……それじゃあ、帰るとしますか」

「うん……ユウヤぁ、明日はちょっと冷えそうだにゃ。獣人の勘だにゃ」

「そっか、それじゃあメニューも変えてみるか」


 片付けも終わっているので、今日はこれで撤収。

 明日はちゃんと並んでくれよ……。


 〇 〇 〇 〇 〇


――翌日・越境庵

 シャットの天気予報ほど、よくあたるものはない。

 今朝なんて、久しぶりに寒くて目が覚めた。

 天気は良かったので、気温が下がって空っ風が吹いた感じだな。 


「ということで、たまには香辛料はなしで行きますかねぇ」


 作るメニューはクラムチャウダー。

 材料もシンプルにアサリの剥き身とベーコン、タマネギ。ジャガイモ、ニンジン、セロリ。

 まずアサリの剥き身はフライパンにたっぷりのバターで炒め、そこに白ワインを加えて蒸し煮にしておく。

 次に角切りベーコンもバターで炒めると、そこに角切りにした野菜を加える。

 そうだな、タマネギが透き通る程度まで炒めると、ちょうど仕上がったときに野菜が溶けすぎ無くなるのでお勧めだ。柔らかいのを好きな奴は、もうすこし強めに火を入れてもいい。

 そしてフライパンの火を止めて、ベーコンと野菜の上から小麦粉を振るい入れると、剥きアサリと煮汁、コンソメ、塩、水を加えて弱火に掛ける。

 あとは野菜がしんなりとしたら完成、ここで仕上げに牛乳を加えてもいいし加えなくてもいい。

 うちはまあ、生クリームを加えて、味をよりクリーミーに仕上げるのが好きでね。

 

「うん、いい感じに仕上がったから……こいつをもう一本仕込んでから……」


 同じ手順で二本目のクラムチャウダーも寸胴に仕込む。ただ、これだけというのは味気ないので、今日はもう一つ。


「フランスパンと……あったあった、ガーリックバター」


 オーブンに火を入れて温めておいて。

 フランスパンを斜めにカットし、そこに自家製のガーリックバターを塗ってオーブンでさっと焼く。

 ガーリックバターの作り方は、また次の機会に。


「うん、こんなところか」


 大量に完成したガーリックバターもバットに並べて時間停止。

 あとは昼になって、露店に向かうだけだな。


………

……


――広場・いつもの露店

 今日も五徳とガスコンロのみを用意。

 先に試食用のクラムチャウダーとガーリックトーストをお嬢さんたちに試食して貰ったのだが、恐る恐る一口食べてから、あとはゆっくりと味わうように食べ始めた。


「おいおい。そんなに上品に食べている場合じゃないだろう? 賄い用に多めに用意してあるから、あとでゆっくりと味わってくれ」

「は、はいっ!!」

「いつも通り、うみゃあ~」

「そりゃ、どうも」


 ということで、いつものように露店の準備。

 今日はカレーライスやキーマカレーのように香辛料の香りはしないものの、クラムチャウダー特有のクリームとバターの風味が湯気と共に流れていく。

 それにつられて、いつものように次々と人が並び始めたんだが、その中には昨日きて文句を垂れまくっていた男達の姿も見える。


「……おい、今日はちゃんと並んだが……あの香辛料の料理じゃないのかよ」

「あれを買って来いって言われているんだ、あれじゃないと困るんだよ」


 はぁ。

 こいつらはガキの使いか何かか?


「うちの露店は日替わりメニューでね、その日の仕入れや天候で仕込むものを変えているんだよ。わかったらとっとと注文しろ、後ろがつかえているんだ」

「何を偉そうな……まあいい、これを15人前だ、宿まで持ってこい、いいな」

「知るか、うちは出前なんてしてねえんだよ、ここで買ってお前らが持っていけ!」


 まったく、昨日の説教はどうなっているんだ……。

 それに、ほかに並んでいる冒険者たちがブーイングを始めているので、その迫力に押されて代金だけおいて逃げていったんだが。

 

「はぁ……また面倒くさいことになりそうだなぁ。自分のクランに所属している冒険者の面倒ぐらい、ちゃんと見ろっていうんだよ」


 まあ、とっとと仕事を終らせるか。

 配達なんてしないけれどな。

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