27品目・市場の店主たちと、こっちの世界の野菜たち(鶏と季節の野菜?の天ぷら、そして天丼)
久しぶりの休みなので市場の散策をしていた俺は、吟遊詩人のマーブルさんに捕まり野菜や穀物の説明を受けている最中。
まあ、夕食を御馳走してもらえたらという条件を出されたが、俺もそれに同意。お陰で彼女も真剣に事細かく説明をしてくれる。
その素材の使い方と特徴、代表的な料理について。
癖があるもの、無いものから始まり、肉に合うとか食べ合わせについてもかなり熟知しているようだ。
俺がこっちの世界の野菜や穀物を知らないのに、疑問を持たずに説明してくれるのは大したものだ。
もっとも、俺が東方諸島王国出身だと勘違いしているので、そのせいもあるのだろう。
「……ということで、このあたりの野菜と穀物については説明が終わりましたけれど。ちなみにですが、ワランバの野菜や穀物って、ウィシュケ・ビャハ王国と似た感じのものなのですか?」
唐突に尋ねられて、一瞬だが考え込んでしまう。
まあ、似たようなものも結構あったりするが、半分以上は違う感じだな。
俺が仕入れている野菜が日本のものであると考えれば、ここウィシュケ・ビャハ王国の野菜や穀物はヨーロッパ地方のものに近い感じがする。
まあ、実際に購入して食べて見ない事には分からないが、野菜ぐらいはこっちのものを使ってみるのも勉強になるのでいいと思っている。
「まあ、例えばこれとこれは、近いものがこの店でも扱われているよな?」
厨房倉庫をごまかすために、カバンから人参とサツマイモを取り出す。
他にもカブやダイコン、長ネギといった根菜類やほうれん草やキャベツも取り出してマーブルに見せる。
「んん、これはまた珍しい……いえ、こっちのキャラルと似た感じですか。色はキャラルが薄い黄色ですが、これは濃いオレンジ色というところで」
「マーブル、ちょいとそれを見せてくれないか?」
商店の親父も興味を持ったのか、マーブルから野菜を借りている。
「店長さん、こいつは試食しても?」
「そうさなぁ……この穀物を分けてくれるのなら、彼女に渡したものは全て持って行って構わないが」
「よし、交渉成立だな」
ということで、目の前の麻袋の横に置いてあった、ざる一つ分の穀物を分けてもらった。
それを鞄に入れている最中、親父は目の前で野菜に包丁を入れて適当な大きさに切るとそれを口の中に放り込んでいる。
――シャクッ
心地よい音が周囲に響くと、近くの商店の店主たちもワラワラと集まって来る。
「おいおい、ステイトさんよぉ、随分と旨そうなものを食べているじゃないか」
「そいつはどこの野菜だい? まさか独り占めしようなんて考えちゃいないだろうなぁ」
笑いながら集まって来る店主たちに、目の前の親父……ステイトさんが、切った野菜を少しずつ分けている。それを受け取った店主たちが、色々と話を始めているようなので、俺としては巻き込まれる前に退散といこうじゃないか。
「それじゃあ、色々と世話になったな。マーブルさん、一旦、広場に戻るか」
「そうですねぇ。このままだとユウヤさんの鞄の中身、全て持っていかれそうですよ?」
そんなまさかと思ったが、時折聞こえてくる声の中に『もうちょっと欲しいなぁ』とか『別の野菜もあるんじゃないか』みたいな声が聞こえ始めたので、駆け足でその場から離れることにした。
〇 〇 〇 〇 〇
――ウーガ・トダール中央広場
市場の店主たちに捕まる前に、どうにか露店の場所がある広場まで戻って来た。
「ハアハアハアハア……息が切れる。こりゃあ運動不足だな」
「そうなのですか? この程度走ったぐらいでは、全然大丈夫ですけれど?」
「マジかよ……やっぱり冒険者っていうのは、鍛え方が違うんだろうなぁ」
そんなことを呟きつつ、カバン経由で厨房倉庫からスポーツ飲料を取り出してがぶ飲みする。
うん、暑い最中のマラソンだ、これぐらい飲んでいないとシャレにならない。
そう思って飲んですると、マーブルさんも俺が持っているペットボトルのスポーツ飲料に興味津々の模様。
「あ、あの、それっていったいなんですか?」
「ああ、これはスポーツ飲料っていって、疲れた時に飲むと元気になるんだが……飲んでみるか?」
「ええっ、いいのですか?」
そんなことを言っているが、目をキラキラと輝かせている女性に対して、『やっぱりやめるか』なんて言えるはずもなく。
500㎖入りのスポーツ飲料と紙コップを取り出すと、コップに注いで手渡す。
「これは……うわ、柔らかい素材ですね、マルガナ・メッタルの外皮膜を加工した感じで……これは飲んでいいのですよね」
「まあ、飲みたいって言っていたからな」
「では、ごちそうになります」
そう呟いて頭をペコっと下げてから、
ゴクッゴクッと喉を鳴らしつつ一気に飲み干した。
「んっぷっはー、これは凄い……ってうわ、なんですかこれは!! 体の中から力が湧き出してくるように感じますよ」
「疲れを取るものだからな……と、さて、それじゃあちょっと早いが、約束通りに料理を作ることにするか」
「やった、やりましたよ!!」
時間的には、さっき市場から走って逃げるときに鐘が4つ聞こえていたから、もうすぐ日が暮れ始めるな。
それなら少し、腹に溜まるものでも用意してやるとするか。
厨房倉庫から炭焼き台ではなく、テーブルとガスコンロ、五徳を引っ張り出す。
そして天ぷら鍋と揚げバットを取り出すと、まずは天ぷら鍋に油を注いで火にかけておく。
「材料は……うん、辺境伯の家で使った時の残りがあるから、それを使ってみるか。その前に、天ぷらといえばあれだな」
もう一つの五徳に鍋を掛ける。
そこに出汁と醤油、味醂を入れていく。
比率はそうだな、今日は野菜と鳥肉が主体なので、4:1:1ってところか。
鍋に入れた出汁が沸騰する直前に火から下ろして、天つゆの完成。
次は天ぷらの準備だ。
先にボウルを引っ張り出して冷水を張り、そこに生卵を一つ落としてよくかき混ぜる。
そこに小麦粉を振るい入れてさっと混ぜ合わせると、切り分けた鶏もも肉、胸肉、長ネギ、シイタケ、そしてエノキ茸の入っているバットを引っ張り出す。
そして材料にも小麦粉を振るい、天ぷら鍋に先ほど用意した天ぷら衣を落としてみる。
――ジュゥゥゥッ
鍋底まで届くか届かない辺りで、ふわっと上がって来る。
ちょうどいい火加減だな。
「それじゃあ、そこで待っていてくれ」
「そこって、ああ、この椅子に座っていいのですね」
「そういうこと」
本当なら越境庵で作りたいところだが、今日は場所も時間もない。
悪いけれど、まだ彼女には越境庵を見せる気はないのでね。
ということで、まずは野菜から揚げていく。
天ぷら衣を潜らせた野菜を一つずつ丁寧に油に落としていく。
そしてマーブルの前に置いてあるテーブルに丸皿を置くと、そこに紙皆敷を置いて。
「まずは、シイタケと長ネギの天ぷらだ。味付けはここにある塩をちょっと振りかけるといいだろう。それと、こいつは天つゆって言ってね。これにさっと浸して食べてもうまいからな……と、そうそう」
忘れちゃいけない、ご飯。
保温ジャーを取り出して、茶碗にご飯を装って手渡す。
本当なら箸で食べて欲しいところだが、流石にそういった文化・風習はないのでフォークで食べて貰うか。
「こ、これは何ですか?」
「これは俺の故郷の料理でね、天ぷらっていうんだ。今日の天ぷらの材料は……」
一つ一つ説明してから、俺は再び天ぷらを揚げる。
次はエノキ茸、そして鳥胸肉と鳥もも肉も揚げていく。
「うわ、なんですかこの料理は!! 王都の一流店でもこんなにおいしいものは出していないですよ。それに、この白い粒粒も、天ぷらによく合うじゃないですか……うわぁ、うわぁ……」
大声で解説をありがとう。
おかげてさっきから俺の露店を気にしている連中が、近くまで集まりそうな感じだよ。
「な、な、何で露店をやっているのにゃぁぁぁぁぁ、ユウヤぁぁ、あたしも食べたいにゃ」
「あらら、今日は外で夕食でしたか」
「おお、二人も戻って来たのか……ちょっと待っていろ、お前たちの分も作ってやるから」
ちょうど冒険者組合から戻って来たらしいシャットとマリアンに見つかった。
まあ、いつもの場所で堂々と料理を作っていたら、バレるに決まっているよなぁ。
ということで、二人も席に着く……まえに、露店の周りに椅子を広げて、ロープでぐるっと囲み始める。
これは『今日は露店はやっていませんよ、私たちがご飯を食べているだけですよ』っていう主張。
露店が終わって賄い飯を食べる時にやってくる奴まで、これを始めると周囲に集まって来た連中も残念そうに離れていく。
「さて、こっちがエノキ茸っていう茸で、これが新得地鶏のムネ肉ともも肉の天ぷらだ」
次々と皿に乗せてやると、それを一つずつ天つゆにくぐらせて、パクッと食べている。
「ん~、んんっんんんん、ん~んっ……ゴクッ……おいしーーーーーい。おわ、この鶏肉って臭みが全くないのですね、柔らかくて、肉汁が溢れてきて……それもこの天つゆに浸すとさらに引き立てられて。この天つゆってなんですか、魔法のタレですか?」
さすがは吟遊詩人。
そのあとも一口食べては感想を呟き、そしてまた一口といった感じで食べ続けている。
そしてその様子を、椅子に座って目線で追いかけているお嬢さんたち。
「ほらほら、保温ジャーから飯をよそっていろ。こっちが天つゆで、こっちは塩。好きな味付けで食べていいから……まずは野菜からな」
一旦、細かい天かすを全て取ってから、再び野菜を揚げ始める。
大きな天かすは揚げながら取り除いていたけれど、もう一度野菜から揚げるのなら、鍋底に沈んでいる細かい天かすも取って置かないといけない。
そして次々と野菜を揚げては紙皆敷を交換した丸皿に盛り込んでいくと、矢継ぎ早に天ぷらを取り、天つゆに浸して食べている。
「こ、これはまた、なんていうか上品な味わいですわ。うん、これぞユウヤ店長の味です」
「ねーユウヤぁ。ここに焼き鳥のタレを掛けちゃだめなの?」
「シャットは相変わらず、濃い味付けが好きだなぁ……ちょっと待っていろ」
確か、冷蔵庫の中に天丼のタレも仕込んでしまってあったなぁ。
それを引っ張り出して小鍋でちょっとだけ温めると、それをタレ入れに移してテーブルに置いておく。
「ご飯の上に天ぷらを乗せて、上からそれを少しだけ掛けて食べて見ろ。天ぷら丼、天丼っていってな、こうガッとかっこんで食べると美味いんだ。天ぷらっていうのは、上品に食べることも、威勢よく食べることもできる料理だからな」
そう説明してから、再び天ぷらを揚げ続ける。
「ああ、場所が店内か外かの違いかよ……まったく、楽しいったらありゃしないな」
目の前では、シャットとマリアン、マーブルの三人による天ぷら争奪戦も始まっている。
待て待て、もう少しで追加分が上がるから、それまで行儀よく待っていろ。
まったく……相変わらずだなぁ。




