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狐さんと不思議なボード 1

 穂香が不思議なボードの出現に驚いていると、写し出されていた画面が切り替わった。


『このボードは、あなたに快適なダンジョンライフを過ごしていただくためのサポート機能です』


「快適なダンジョンライフ? え? ダンジョンライフって何?」


 穂香が戸惑っていると、再び画面が切り替わる。


『このボードはあなたの意思によって表示したり、消すことができます。

 また、このボードはあなたにのみわかる形で表示されます。

 まずは、下記を試してみましょう。


 1.ボードを消してみよう。

   ボードが消えるよう、イメージしてみましょう。

 2.ボードをもう一度表示させよう。

   ボードが表示されるよう、イメージしてみましょう。


 ※アドバイス:声に出すと操作イメージが掴みやすいです。』


「ふぁ~、本当にゲームみたい。これって、チュートリアルってやつだよね?」


 穂香はあまりゲームをしない方ではあるが、自分のスマートフォンには美夜子に勧められたゲームのアプリがいくつか入っている。そのゲームを始めてやった時に、チュートリアルというゲームの操作方法を説明してくれる機能があったのを思い出した。

 不思議なボードは四角い形で半透明になっており、奥が少し透けて見えた。穂香はその不思議なボードに手を伸ばして触ろうと試みる。


「わっ、わっ、触れない!」


 指先でちょんちょんと突いてみようとしてもボードには触れず、スカスカと空を切った。どうやら触れないようだ。


 しっかり検証する前に大きな蟻等にまたいつ襲われるかわからないので、穂香は安全確保のため一度周りを見回す。そして、狐耳に集中して足音のようなものが聴こえないか耳を澄ましてみる。シロも穂香を真似てか鼻をクンクンと動かしながら周囲を歩き回る。


「うん、大丈夫そうだね」


 穂香は周囲に異常がないと判断してそう言うと、シロも「ワン」と鳴いて戻ってきた。そして、シロは大人しく座って興味深そうな感じで穂香を見ている。


(何だろう? シロが私の言葉の意味を分かっているような感じがするけど……、気のせいだよね?)


 穂香にはシロが自分の言葉に従って、行動しているように見えて少し驚いた。シロにはお手や、待て等基本的なことはできるよう躾けてきたものの、ここまで物わかりのいい方ではなかったはずと首をかしげる。


「……とりあえず、まずはこの表示に従って試してみよう」


 気を取り直して、不思議なボードを検証してみることにした。


「えっと、じゃあ……消えて! わっ、本当に消えた!」


 穂香がアドバイスに従い、消えてと言った次の瞬間に不思議なボードは姿を消した。今度は声に出さす表示させてみようと思い、穂香はムムムッと念じてみる。


(ボードよ、出ろ~!)


 すると穂香がイメージした通り、再度不思議なボードは出現した。


「おお~、本当に出た!」


 そして、ボードには新たなメッセージが表示されていた。


『それでは、このボードの基本機能を紹介します』


 画面が切り替わり、7つの項目が表示される。


『<ステータス>、<スキル>、<職業>、<収納>、<装備>、<仲間>、<リタイア>』


 そしてポップアップウィンドウのように、画面と重なるように別画面が出てきた。そこにはメッセージが記載されていた。


『現在表示されている画面は、このボードのメニュー画面です。このボードでサポートすることができる項目を表示しています。それでは、まず最初に<ステータス>について説明します。操作は先ほどと同じくあなたの意思で行うことが可能です』


 そう表示されたあと、画面が切り替わった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

<名前>稲森 穂香

<種族>獣人(狐)

<HP> 45/50

<MP> 90/100

<状態> 空腹

<アビリティ> 直感

<加護> 宇迦之御魂神

 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「これが私のステータス……」


 穂香がその画面に示された内容をよく見ようとした時、また別の画面が重なるように出現した。そして、そこには説明文であろうものが記載されていた。


『HPはあなたの生命力を表しています。HPが0になるとこの肉体はロストします。』


「え? ロストって、死ぬってこと? ってもう減っている!?」


 穂香は自分のHPを見ると既に5減っていることに驚いた。転んだ時に怪我をしたのだろうかと、ぶつけた足を触ってみても怪我をしている様子はなかった。


「怪我はしてないみたいだけど……、何でHPが減ってるの?」


 しかし、穂香の疑問に答えることなく、ポップアップウィンドウの表示は次の説明へと移っていく。どうやら質問はできないようだ。


(よくわからないけど、今しっかり内容を把握しないとまずい気がする! ちゃんと見よう!)


 穂香は疑問を心の中に秘め、今は事態を把握することに集中した。


『MPはスキルを使用する際に消費するエネルギーを表しています。』


「スキル……、パケモンの技みたいなものかな?」


 パケットモンスターとは穂香がしたことのあるゲームで、電脳世界にいるモンスターである様々な種類のパケモンを捕まえ、パケモン同士のバトルを行う「パケモントレーナー」たちの冒険を描くロールプレイングゲームだ。そのゲームの中ではパケモンが自分が持っているパケットを使って技を繰り出していた。


「パケモンのパケットの代わりがMP……、そういうことにしておこう」


『状態はあなたの今の状態を表しています。現在のあなたの状態は今、空腹です。』


「お腹すいてるのはわかってるよ。わざわざ言われると余計にお腹がすいて辛いんだけど……」


 穂香はお腹に手を当てる。自分の食べられるものを持ってきていないのを悔やんでいた。


『アビリティはあなたが保有する能力です。』


「直感……直感って何?」


 穂香は直感が具体的にどういうものなのかわからず首を捻る。考えている間に、画面が切り替わってしまうので穂香は深く考えるのを止めた。


『加護は神々の助力を表しています。あなたは宇迦宇迦之御魂神から加護を得ています』


「おお~、神様の加護をいただいてるんだ~。ありがとうございます! えっと……うかのみたまかみ、であってるのかな?」


 知らないうちに神様から加護をいただいていたようだ。穂香はとりあえず神様への感謝を示すため、手を合わせてお礼を言っておいた。不思議なことに巻き込まれている最中だからこそ、神様が加護をくれているということに嬉しくなる。

読んでいただきありがとうございました。

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