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狐さん、遭遇する

 穂香はしばらく走ったあと、息を切らして足を止めた。そこは通路が2つに分岐していた。洞窟はいくつか横道があったが、ここまではまっすぐこれた。


「はぁ、はぁ……、思ったより遠い」


 穂香の狐耳は遠くの音が聴こえるようで、想像以上に音源は遠かった。


「でも、あとちょっとかな?」


 だんだんと音がはっきり聴こえるようになってきているのを穂香は感じた。分岐になっている道の右側から音が聴こえる。


「でも、……なんか変」


(聴こえる足音の数が多い。誰かほかの人がいるのかな?)


 穂香は慎重に、足音が聞こえる右側の道を選び奥へと進む。そしてついに足音を発していた生物が見えた。


「え?」


 足音を立てていた生物を見て、穂香は思わずぽかん口を開けてしまった。

 その正体は蟻だった。ただし、サイズがおかしい。穂香の知っている蟻は、しゃがんでよく目を凝らさないとしっかりとした姿をとらえられないくらい小さいはずだった。しかし、目の前の蟻は遠目でもはっきりとその輪郭を視認することができたのだ。その大きい蟻が2匹そこにはいた。


「何あれ? 蟻?」


 何かの見間違えではないのかと、穂香は慎重に近づいていく。蟻の姿がしっかり見えるようになるにつれ、穂香は昔虫眼鏡で見た蟻の姿を思い出した。


(蟻を拡大すると結構怖い見た目してるんだなって思ったけど、大きくすると本当に怖いな……。大きさはシロと同じくらいだ)


 大きな顎や足の爪の部分は、やたらと鋭く凶悪に見えた。そして、お尻には針のようなものが見える。そこで、穂香はハッと気づいた。ついつい、好奇心が抑えられず近づいてしまったことに。


 正気に戻った穂香は一歩後退った。


『コンッ……カラカラ』


 足元にあった石に足が当たって、石が転がっていった。思わずその石を穂香は目で追う。そして、再び顔を上げて目線を蟻の方を見ると、2匹の蟻がこちらを向いていた。どこを見ているかわからない複眼をこちらに向け、触覚を穂香がいる方に向けて動かしている。


「あっ、あはは……。お構いなく~」


 穂香はもはや自分でも何を言っているかわからない状態で、引きつった笑みを浮かべながら蟻との距離を取っていく。2匹の大きな蟻はまるで距離を保つかのように、穂香が離れた分だけ距離を詰めてきた。


「ピシャジャジャジャジャジャ! ピシャジャジャジャジャジャ!」


 そして、蟻が不気味な声で鳴き、勢いよく距離を詰めてきた。


「ひゃ~!」


 それを見て、穂香は回れ右をして走り出した。チラッと後ろを見ると、蟻が穂香を追ってくるのが見えた。


(どうなってるの? 何あの大きな蟻。蟻って肉食?)


 穂香の中では、蟻は甘いものに群がっているイメージが大きかった。ただ、よく思い出してみると大きな蝶々を運んでいる姿が浮かんだ。


「あっ、雑食かも」


 それがわかっても状況は変わらない。穂香は必死で走り続けた。しかし、蟻も穂香を追い続ける。徐々に息が上がってきた穂香に対して、蟻は変わらぬペースで追いかけてくる。

 穂香は、追いかけてくる蟻を目で確認しようと後ろに視線を向けた。


(さっきより距離が近くなってる!)


 汗をぬぐう余裕もなく、必死に逃げようとするも、今度は前方から別の足音を狐耳が拾った。無意識の内に狐耳が前方に向く。


(近い!)


 必死に逃げることに気を取られていたせいで、近づいていることに気づかなかったのだ。そして、だんだんと姿が見えてくる。


「~~!?」


 その姿を見て、穂香は声にならない短い悲鳴を上げた。それは、後ろから追いかけてくる蟻と同じ姿をしていたのだ。


「わっ」


 穂香はつんのめるようにして転んでしまった。足元を見ていなかったことで、地面の凸凹に気づかず足を引っかけてしまったのだ。


「ピシャジャジャ! ピシャジャジャジャジャジャ!」


 穂香が後ろを見ると既に2匹の蟻は距離を詰めてきていた。


「キャ~!?」


 目をつむり悲鳴を上げる穂香に、先に到達した1匹の蟻が襲い掛かる。

『バキッ』という鈍い音に穂香身をすくませる。そして、ズッシャっという何かが倒れる音がした。しかし、穂香自身に衝撃も痛みもないことに気づいた穂香は恐る恐る目を開ける。


 するとそこには、首が折れ、倒れ伏した1匹の蟻のと見慣れた後姿があった。薄いシルバーと白の毛並みをした犬の姿だった。


「シロ!」


 それは、見間違えようのない愛犬シロの姿だった。

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