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狐さん、立ち話する

 稲荷大社から出た穂香とシロは、しばらくすると目的地の公園に到着した。穂香達が散歩に立ち寄る公園は、総合公園なのでとても広く、いつもは彼女と同じようにペットと散歩してる人やジョギングをしている人を多く見かけるのだが今日はその数が少なく感じる。


 穂香は辺りを見回しながら散歩する。熱心にランニングしている男性にネズミのような耳と尻尾が生えていたり、夫婦で散歩している奥さんに狸のような耳と尻尾が生えていたりするがそれ以外はいつも通りの風景だ。


「なんか皆そこまで気にしてないんだな~」


「うぉん」


 穂香のつぶやきに返事をするようにシロが鳴く。しばらく歩いているといつも散歩中に挨拶をする柴犬を連れたおばさんと出会った。


「マキさん、おはようございま〜す」


「あら? おはよう、穂香ちゃん」


「マメキチもおはよう」


「ワン!」


 シロとマキさんの愛犬であるマメキチは、仲がいい。お互いに挨拶をするようにお尻の匂いを嗅ぎ合っている。


「びっくりしたわ。穂香ちゃんも動物の耳と尻尾が生えてちゃったのね」


 マキさんは穂香をまじまじと見てそう言った。


「あはは、そうなんですよ。朝起きたら私とお母さんはこんな状態になっててびっくりしました。お父さんは何もなかったんですけど。……マキさんもお変わりないようですね」


「ええ、あたしは大丈夫だったんだけど、……うちの主人に犬の耳と尻尾みたいなのが生えてて驚いちゃったわ~。最初は何の冗談だとあきれちゃったんだけど、触らせてもらったらあったかいしリアルな感触するわで思わず力入れて握っちゃって怒られたわ~。痛い!って」


 わははと豪快にマキさんが笑った。


「にしても穂香ちゃんは似合うわね~。狐かしら? うん、可愛いわ~」


「えへへ、ありがとうございます」


 穂香も悪くないかな~とだんだん思い始めていたところだったので、褒められて少し嬉しくなった。


「うちの旦那に犬耳付けたところで誰が得するんだって感じだけど、可愛い子に動物の耳は凄いわ~。うん、変な男には気を付けないとダメよ~」


「ははは、大丈夫ですよ。シロもいますし」


 穂香が名前を口にしたことに、シロは呼んだ? といった風に穂香を見る。しかし、マキさんと話す様子を見てすぐにマメキチとじゃれだした。


「それにしても何なんですかね? これ?」


「わからないわよね~。日常生活で不便でしょう。旦那もスーツが着れない! どうしようって騒いでたわ。よくわかんないんだからこんな時くらい休めばって言ったのに、仕事は休めないって聞きやしないの。あきれちゃうわ~」


「あはは、まじめなんですね」


「それだけが取り柄なのよ。さて、旦那の朝ごはんの支度しなくちゃいけないからあたしは帰るわ。またね、穂香ちゃん」


「はい、また明日。マメキチもバイバイ」


 穂香はマキさんとマメキチが去っていくのを手を振って見送った。


「うん、マキさんはやっぱりマキさんだね。ふふふ、なんか安心したよ」


「クゥ?」


 マキさんもマメキチもいつも通りパワフルだった。こんな時でもいつも通り過ぎて、穂香は何だかすごく安心させられたのだった。


「さ、行こっか」


「ウォン」






 総合公園は広いので、お散歩では日によって公園内のコースを使い分けている。今日は学校も無く時間があるし、穂香の受験も一区切りついたのでシロと思いっきり遊ぼうと思って広場のあるコースを選択した。

 シロは穂香が選んだコースで、今日は遊んでくれると察知したようでしきりに尻尾を振り、目を輝かせながら穂香の顔をちらちら見てくる。


「ふっふっふ~、今日は一杯遊ばせてあげられるよ~」


 ここ最近は受験勉強のため、お散歩中もイヤホンで学習教材を聞いていたから穂香が朝にシロと遊ぶことは減っていた。だから今日はシロが満足するまで付き合ってあげようと


「ウォン!」


 言葉の意味を理解しているかのようにシロは、嬉しそうに穂香にすり寄ってきた。


「ほらほら、早く行こう」


 穂香がそういうと、シロは待ちきれないとばかりに穂香を先導して歩いていく。尻尾を振り振りしながら嬉しそうに歩くシロを、後ろから嬉しそうにみている穂香の尻尾もまた左右に揺れていた。


 草原のある広場への途中の林道で、穂香は何か変な感覚がして足を止めてしまう。狐耳が無意識の内に立ち上がっていた。


「何だろう? 今の感じ……」


 穂香は感覚が一瞬ズレるような不思議な違和感を感じたのだ。そして、なぜか道をそれた林の奥が気になった。


「クゥ?」


 穂香が止まったことに気づいたシロは穂香の方を振り向いて、不思議そうに首を傾げた。


「あっ、ごめんねシロ。何か変な感じがしたの。いこっか」


 穂香が散歩に戻ろうとするも、今度はシロはクンクンと何かを嗅ぐような動作をし始めた。


「シロ?」


 そして、シロはいきなり駆けだした。穂香が先ほど気になった林の方角に。


「わっ! シロ! どうしたの!?」


 シロの力に引っ張られれ、穂香も走り出した。


「わっわっわっ! どこ行くのシロ? 止まってシロ! ストップ! ストープッ!」


 穂香がシロを制止しようとするも、シロの力強い引きに引っ張られてしまう。シロがこんな風に自分を引っ張って走り出すのはいつ以来だろうか? と考えながらも、シロが足を止めないため何とか木々を交わしつつ必死に付いていく。そしてシロが行く先を見て、穂香は驚いた。


「え? 何あれ?」


 そこには空間が揺らぐような、不思議な何かがあった。得体の知れない何かに穂香は戸惑う。しかし、そんなの知ったことないとばかりに、シロは迷わずそこを目掛けて走っていく。


「シロ! ちょっと、ダメだよ! ……あっ」


 シロの勢いにつられて、穂香はその不思議な空間の歪みに体当たりするように当たってしまうのだった。

読んでいただきありがとうございました。

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