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剣の道、屍山血河【旧題JD→SM】  作者: 馬頭鬼
JD:01「屍の王:前編」
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01-08



『ふん、七騎士の中でただ一人、『天賜(アー・レクトネリヒ)』すら持たぬシェイエを斃した程度で、いい気になりおってっ!

 この俺様……ハガルダ=ハーチェスネルヒが相手になってやろうっ!』


 限界ギリギリの状態でなお発した「正々堂々とした敗北をくれてやる」という、ある意味では大言壮語としか思えない(オレ)の安い挑発を受け、酷く憤慨しながら出て来たのは……七騎士の中でも最も大きな男だった。

 その手には巨大なメイス……金属製の棍棒を持っただけの巨漢は、分厚い鎧というより盾に近い金属片を要所要所にのみ貼り付けるという、不思議な恰好をしていた。

 よく言えばダメージを喰らう場所を限定させることで防御と軽量化とを両立させた鎧を着ている、悪く言えば珍妙極まりない恰好をした、激怒によって顔を真っ赤に染めているその巨漢と相対した己の感想は……


(……何だ、この雑魚?)


 そんな身も蓋もない、白けたため息混じりの内心の呟きだった。

 確かに身体は大きいだろう。

 膂力もあるかもしれないし、事実、巨大なメイスを軽々と扱っている上に、あんな鎧を着ている割には身のこなしは軽い。

 加えて言うならば、その珍妙な鎧は我が愛刀で貫くのはまず無理だと思われるほどに分厚い。

 ……だけど。

 

(全身隙だらけ。

 重心は狂っている上に、変な鎧を着ている所為で筋肉の動きまで丸見えだ)


 己が内心で雑魚と評した通り、この巨漢はそんな……膂力は兎も角、技術的には己が先日数人ほど斬殺した盗賊団とそう大差ない技量しか持ち合わせていないのだ。

 戦闘は技量の競い合いと考える己は、こんな雑魚一匹のみを相手にする戦闘なんざ意味すら見いだせず……正直、戦おうとする意志すら失いかけているのが現状である。


(とっとと終わらせるか)


 ちらっと見た限りでは、英霊の七騎士……残る五人はそれなりの技量を持った連中らしく、色々と楽しめそうなのだ。

 だが、左肩の傷口から流れ続ける血は全く止まる気配を見せず……このまま放っておくともう遠くない将来に己は出血多量で敗北することになる。

 残った五人の騎士とも技量を競うつもりならば、これからの戦いは敵の技量を図るような真似を止め、短期決戦で決めなければならないだろう。


『そうか。

 その方が行くならば問題ないだろう。

 では、真の(バル)戦士(ダヌグ)よ、伝言を頼む』


(……伝言?)


 屍の王が告げた意味の分からないその一言に、相手の巨漢を見て戦意を殺がれていた己はつい小首を傾げていた。

 何しろ、己はこれから命を賭けて戦うのだ。

 己が勝ったならば次の相手と戦うだろうから、そんな伝言など無意味だろうし……己が負ければそんな伝言などどうあっても伝える術を持たない。

 黄泉路の最中に誰かと出会うことでも期待しているという、要するに挑発の一種かと割り切ることも出来るが……それはそれで趣味が悪い。

 結局、「高貴な人って連中は時折訳の分からない行動をするもんだ」と、己は違う意味で納得していたものの……その当人は本気で伝言を頼もうと思っているらしい。


『水が欲しいのは分かる。

 だが、余が此処で聖なる大河(アー・エリムグラウト)を堰き止めているのは、あの悪逆非道の者に好き勝手をさせぬためだ。

 炎の王を放置したまま余を討てば、一月を待たずに聖都は滅ぶぞ。

 その言葉を……誰よりも神に愛されている癖にあの教会から出ようとしない、愚かな余の孫へと伝えるが良い』


「一体、何を……」


 全く意図が読めない屍の王の伝言とやらに、己はその真意を問い正すべく一歩前へと踏み出す。

 だけど……


『行かせる訳ねぇだろうがよ、この阿呆。

 ここから先は、俺様を討ってから行くんだな』


 身の程知らずの雑魚が己の行く手を邪魔しようと立ち塞がる。

 その雑魚の言い草に苛立った己は、右手の愛刀『村柾』を握りしめると、その男の隙だらけの手首か内太腿か、それとも頭蓋を叩き斬るか、もしくは鎧の継ぎ目から腹腔を貫こうかと考えながらも、前へ一歩を踏み出し……


「……あ?」


 その巨漢が大きくメイスを振りかぶったことに足を止める。

 まだ己と巨漢とは一足一刀どころじゃない間合いが離れていて……幾らこの大男の腕が長いとは言え、あの金属塊が届くような距離じゃない。

 メイスを投擲してきたり、先端部が分離して飛んでくるというのであれば話は別だが……流石に数メートルは開いたこの距離で、あれほど振りかぶった遠距離武器を躱せないほど己は鈍くはない。

 だが……ただの牽制にしては殺気が込められ過ぎている。


(……なん、だ?)


 今まで己が培ってきた技量が「あの一撃は空振りで躱す必要なんて欠片もない」と教えてくれるというのに、本能か直感の何処かが「この場所にいてはいけない」と全力で叫ぶ。

 そんな今までの人生ではあり得なかった二律背反を前に、己はどちらを選ぶことも出来ず、取りあえず半歩だけその場から身を逸らす。

 そうして己が、僅かに身体を動かした……その直後だった。

 

「ぐ、がっ?」


 まだ遠い間合いにいるの筈の巨漢のメイスが振るわれた瞬間、そのメイスが飛んできた訳でもなければ、先端部が分離した訳でもない……何かがぶつかった訳でもないのに、己の身体全体に「何かでぶん殴られたような」凄まじい衝撃が走り抜けていた。

 しかもその衝撃は、何処が何に打たれたという感覚ではなく、全身に衝撃が走ったレベルの……金属バットでコンクリートの壁をぶん殴った時、腕に走る衝撃を全身へと広げたような感覚、とでも言うべき代物だった。

 特定の部位が痛むのではなく、全身を走る衝撃に視界が揺れ耳は鳴り……身体中の感覚が全て死に絶えたように、指先一つさえ動かすことが叶わない。


『かかったなっ、馬鹿がぁああああああっ!』


 そんなあり得ない状況に己が混乱しているのを目の当たりにした巨漢がその隙を逃す筈もなく、どすどすとその大きな身体を使い、動けないままの己との距離を詰めてきた。

 尤も、相手の隙を突くのは当然で……何をされたのかは分からないにしろ、こうして相手に隙を見せている己が悪いのは分かる。

 分かるが……理解が追い付かない。


(くそ、動け、動けぇええええええええっ!)

 

 必死に己は身体を動かそうとするものの、衝撃に痺れた身体はまるで自分のモノではないかの如く、欠片も動く様子を見せない。

 いや、動いているのだが、感覚が完全に断ち切られているものだから、一歩後ずさってもその感覚が全く感じられず……このまま距離を取ろうとしてもすぐさま転んで倒れるのがオチだと気付かされる。

 泥酔している時のように視野が歪み、平衡感覚が悲鳴を上げ、全身の感覚が完全に欠落している……むしろ、そんな中でも一歩でも後ずされたことが奇跡のようなモノだ。


(これでは……逃げ切れ、ないっ!)


 間合いを取り直すことも、逃げることどころか、振るわれるメイスを防ぐことも受け流すことも叶わないと悟った己は、すぐさまそれら全ての選択肢を放棄した。

 だけど……座して死を待つなど、性に合わない。

 ならば、取るべき行動なんてただ一つしか残ってないだろう。


『馬鹿か、貴様ぁああああああああっ?』


 己の取った選択肢を目の当たりにした巨漢はそんな悲鳴を上げるものの……己は手にしている筈の愛刀「村柾」をただまっすぐに相手の頭蓋目がけて振り下していた。

 ……そう。

 身体が痺れて逃げることも叶わない。

 避けることも防ぐことも出来ない。

 そんな状況にあってさえ、何もせずに死を待つことも望まなかった己は、全身の感覚が無く、霞む目で間合いも測れず、耳鳴りが酷くて音で相手の踏込みを察することすら叶わなかったとしても……いや、そんな状況だからこそ、今までの人生で最も多く繰り返した動作である上段の面打ちに唯一の希望を託したのだ。


「ぐ、がっ!」


 だけど……その選択はあまり賢いモノではなかったのだろう。

 面打ちを放った次の瞬間、何かが胸にぶつかった衝撃と同時に身体中から重力の感触が消えさり……その一瞬後、己の身体は二度三度と硬い地面へと叩き付けられる。

 身体に残った衝撃から察するに……恐らく、メイスの直撃を胸にでも喰らって吹っ飛ばされたのだろう。


(まだ、動く。

 ……ならば……)


 幸いにしてというべきか、胸に直撃を喰らった上に吹っ飛ばされて山道へと叩き付けられたお蔭で、さっきまで己の身体を縛っていた痺れは抜けてきたらしい。

 代わりに胸には激痛が走り、視界はまたしても歪み、三半規管は悲鳴を上げ、何やら咽喉の奥が濡れて息をすることすら出来ないものの……それでも立たなければ愛刀を振ることも叶わないと考える己は、必死に起き上がろうと身体を動かし……

 何やら肘から先が変な方向を向いたままの左手を無視し、愛刀を握りしめたままの右手と、感覚のないままの両足を使い……何とか起き上がることに成功する。


「……はっ、ごふっ」


 起き上がった己が霞む目で見たものは、頭蓋をかち割られて倒れた巨漢の姿だった。


(……やれた、のか)


 どうやら己は、あの極限状態で……五感のほぼ全てを失った状況で、それでも一矢を報い、勝利をつかみ取ったらしい。

 ……だけど。

 何故か、さっきからじわじわと内臓が……胸の奥から胃の上にかけてゆっくりと身体の内側に抉られたような痛みが広がっていく気がする。

 この痛みは、あの時……己が一度死んだ時の、肺を銃弾が貫かれた時の痛みにも似ていて……

 いや、それよりも……


(何故、さっきから、呼吸が上手く、出来ない、んだ?)


 吐しゃ物がこみ上げてくる感覚すらないというのに、さっきから呼吸をしようとしても水ばかりが入ってきて、陸の上で溺れるなんて稀有な状況に陥っているのだ。

 息を吸おうと必死に咽喉をかきむしるものの……そもそも左腕はへし折れている上に、右手はこの期に及んで剣を離そうとしない。

 息が出来ない苦痛の所為で思考がまとまらないのだが、そんな両腕を使ったところで、いったい何が出来ると言うのだろう?


『まさに、真の(バル)戦士(ダヌグ)だな。

 伝言、よろしく頼むぞ』


 そうして陸上で溺れた己の意識が闇に閉ざされていく寸前、近くで誰かがそんな言葉を呟いたような気がしたものの……


 その言葉の意味を理解する間もなく、己はそのまま命を失ったのだった。



2017/09/08 06:20投稿時


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