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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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99. 悲鳴

 母ザラの気持ちなど知らぬブランクは今日も我が道を進む。いや、ルビーと自分の華々しい未来のために突き進む。少ない政務をさっさと片付け、人払いをして一人部屋に引き籠もる。


 とにかく魔導書の模様……召喚紋をひたすら描く。ここ数日夢中になり過ぎてご飯を抜くことが多くなったので痩せこけている。


 使用人たちからも不気味なものを見るような目で見られている。でも彼はそんなこと気にならない。というよりもどうでも良い。彼にはこの魔導書があるのだから。人の目など気にする必要などない。




 彼の今日の目覚めは最高だった。なぜなら今日はブランクとルビーの未来が花開く日だから。彼は机の上に積まれた召喚紋が描かれた紙を抱える。魔導書は斜めがけ鞄に入れる。


 魔導書に、召喚する際には魔導書が近くになくてはならないと記載があったからだ。


 扉を開けて玉座の間に向かう。玉座の間は王が臣下や他国からの使節団と謁見する広い空間だ。王と王妃、兄たちをそこに呼び出してあるのだ。


 廊下から窺うと既に揃っているようだ。足が震える。いやビビっているのではない武者震いだ。ブランクは自分にそう言い聞かせると一歩踏み出した。


 最初に彼に気づいたのはユーリだった。


「おいおい、大丈夫かブランク。随分と痩せたな」


 うるさい、そんなのお前には関係ないだろ。


「最近、部屋に引きこもり気味だと聞いているが、体調でも悪いのか?」


 父上……そのように思うのならばなぜ部屋に様子を見に来てくださらないのですか?


「ブランク……聞いていますか?」


 王妃……お前がいなければ母上も僕もみじめな人生を送らなくても良かっただろうに。今から恐怖のどん底に落としてやる。まあ脅すだけにしてやるが……寛大な僕に感謝すると良い。


「目の下のクマすごいよ、ちゃんと寝てるのかい?」


 ルカ兄上……ルビーは僕がいただく。今更惜しいと思っても遅いんだよ。本当は彼女の婚約者だった兄上が憎くて堪らない。でも優しい彼女は兄上に何かあったら泣いてしまうだろうから手は出さない。彼女を悲しませるのは自分であっても許されない。


 誰の言葉にも反応せず、自分の要求を突きつける。


「父上、僕は力を手に入れました。アリス以上の力です。力は正義です。が……、皆様方から王位を頂こうとは思っておりません。ですがルビーの貴族籍の復帰、僕たちの婚姻の許可、二人にふさわしい住居を用意してください。アリスとの離縁もお願いしますね。僕には逆らわないほうが良いですよ。僕は皆様を傷つける気はありません。ただ、愛する人と幸せになりたいのです。ああ、有事の際にどうしても僕の力が必要とあらば然るべき謝礼を用意してください。あと、皆様僕に恭しくお願いするのも忘れないでくださいね!」


 ブランクの目は血走り、唾を巻き散らかしながら大声を張り上げる様はとても醜い。


「ブランク……そなた何を言っておる?」


 王が困惑しながらも現状把握を試みる。


「ご覧ください」


 彼は紙をばら撒くと唱えた


「召喚!!!」


 と。





~~~~~


 アリスの部屋にて


「アリス様」


「何よイリス」


「最近のブランク様ヤバくないですか?」


「ヤバいねえ」


「目イッてますよ、目の周り窪んでますよ」


「闇堕ちしてるね」


「何やってるんでしょうね?」


「何やってるんでしょうね」


「知ってますよね?」


「知ってま…………せんよ」


「そんな楽しそうな顔して何言ってるんだか」


「あら、私はいつでも楽しそうな顔よ」


 ニヤニヤと笑うアリスの顔の美しいこと。だが、イラッとするのはなぜだろう。


「もうそろそろわかるわよ。我が愛しの旦那様が動くわ」


「止めないんですか?」


「皆だって違和感を感じながらも、傍観でしょう?」


「まあ、ブランク様が何かやらかしたとしてもしょうもないことだろうという雰囲気になってはいますね」


「………………」


 彼のことを心配しているのは母親のザラのみ。つくづく人気もなければ小者感満載の王子様だとアリスもイリスも思う。二人はなんとなくお互いを見つめ合ってしまった。


「…………ん?」


 イリスは外がザワザワと騒がしいのに気づく。耳を澄ます。


 キャー……キャー…………

 ……うぉ…………マジかよ!


 イリスはバタンと扉を開ける。


 魔物だーーー!!!


 逃げろ!


 何言ってる!陛下をお守りしろーーー!!!


 人々の悲鳴や怒鳴り声が距離はあるようだが、はっきりと聞こえてくる。


 魔物?


「我が最愛の夫が動き出したようね」


「は?魔物を引き入れでもしたのですか?」


「うん?召喚したみたいよ」


 ニタニタしながら言うアリス。やっぱりブランクが何をしようとしていたのかわかっていたのか。だが……


「召喚?どうやってです?」


 そんなもの初めて聞いた。


 しかし今はそれどころではない。イリスは走り出そうとしてはた、と気づく。


「アリス様?」

 

 アリスはうーん……と伸びをしながらゆっくり立ち上がる。


「お急ぎになられた方が宜しいのでは?先に行きます」


「どこに?」


「どこにって……魔物が現れた場所にですが」


「ふ~~~ん。意外と鈍いのね。行ってらっしゃい」


 ?イリスはアリスの言動に疑念を抱いたが悲鳴が聞こえる方に向かって走り出す。



「イリス!魔物は玉座の間だ!」


 護衛のフランクが走るイリスに合流する。


 二人で駆け込む。二人の目に入ってきたのは



 ドラゴン、キメラ、ラミア、ケルベロス……etc.

 様々な魔物。


 向き合うブランクと他の王族達。騎士たちが王を守ろうと剣を構えながら魔物と睨み合っている。



 この場を見たイリスは悟った。アリスがブランクの企みを面白そうにしていた理由を。魔物が現れたのに悠長にしていた理由を。


「い…………いやーーーーーーーーー!!!」


 

 イリスの口から誰よりも大きな悲鳴が飛び出した。






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