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公爵家の末っ子娘は嘲笑う  作者: たくみ


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92. イリスの想い①

「「「!!!」」」


 大きい音とともに開かれた扉。


 入室してきた人物を見てアリスの顔から冷や汗が流れる。



「お…………王妃様」


 御自ら力強く扉を開いて登場したのは王妃だった。その顔には微笑みと共にこめかみに青筋が浮かぶ。



「アリス」


 静かに、そして少々いつもより低い声でアリスの名を呼ぶ王妃。


「いや……あの…………はい」


「ルカの侍従から話は聞いたわ」


「ああ、やはりその件でございますよね。悪気があったわけでは……。これでも一応人妻ですので夫以外の方と噂になるのは避けるべきかと思った次第でして……」


「ええ。あなたのその気持ちは尤もだわ。愚かなあなたの夫ブランクと違って。



 でも、わかるわね?」


「はい、壁を殴ったのは軽率でございました。申し訳ございません」


 サッと頭をさげるアリス。カサバイン家にいた頃は兄妹喧嘩で壁を壊すことなんてよくあった。思わずその頃の癖が出てしまった。


 でも……王妃様だって壁を凹ましたことを怒っているようだが、先程かなり扉を乱暴に扱っていたような。まあ自分みたいに壊してはいないが。


「修理は実費でお願いね」


「いやいや、ルカ様が原因じゃないですか」


 自分は醜聞を避けただけ。


 ちょっとやり過ぎたけれど。


「王室の予算を使いたくないのよ。ちょっとこの前陛下が若い女にお高いアクセサリーを貢いじゃってね……余裕がないのよ。助けて頂戴アリス」


 若い女って……。それは自分の年齢が少々いっていると言っているようなものでは。


「えー……」


「壊したのはあなたでしょう」


「仰る通りです。ですがルカ様の予算を一切使わないのは納得がいきません。というわけでこのマリーナ様から回ってきた仕事をやってくださいませんか?」


 うん?ルカとアリスのやらかし……なぜ自分の仕事が増えるのか?まあ…………仕事を手伝って王室の予算を使わずに壁が直せるなら良しとしよう。


「ではどんな内容の書類か説明して頂戴。書類を持って執務室に参りましょう」


「畏まりました。



 じゃあ、ちょっと出てくるわね。特に用もないし、部屋もきれいだし。休憩していて良いわよ」


「「「行ってらっしゃいませ」」」


 アリスの侍女たちが頭をさげる。




 今度は静かに閉じられる扉と上げられる顔。


「イリス様」


「あの…………カルラ。同じ侍女なのだから呼び捨てか、せめてさん付けにしてもらえないかしら?」


 没落した男爵家出身の自分に庶子とはいえ、公爵家の血を引く令嬢に様付けされるのはちょっと変な感じがする。しかも公爵に似ている顔で様付けとか……ゾワッとする。


「嫌です。私はイリス様を尊敬しているんです。憧れなんです」


「私のどこに憧れ要素が?」


 見た目も、血筋も、情けないが侍女としての仕事も彼女の方が上。公爵邸で使用人に仕えられる立場だったのに不思議である。


「アリス様と共に戦えるところです。私もアリス様を慕っておりますがそれは無理です。盾になることはできますが、隣に立つことはできません」


 盾になる気はあるのか。少々驚くイリス。アリスを盾にする人は多いが、アリスの盾になろうという者はほぼいないから。


「イリスさんってもともと強かったんですか?護衛のフランク様は騎士だし一緒に戦えるのもわかるんですけど。あっ!もしかしてイリスさんは護衛兼侍女として雇われたとか?」


 アイラが会話に混じる。


「いえ、普通より魔力は少し多かった程度よ。でも使い方もよくわからなかったし、ほとんど魔法は使えなかったわ。護衛なんてとんでもない!侍女になれたのだって下級使用人だったときにアリス様の目にたまたま留まっただけ」


「えっ!じゃあどうやって強くなったんですか?はっ!もしかしてアリス様の侍女はスパルタ教育でもされるんですか?えっ!じゃあ私達もいつかやらされるんですか?うん?でも魔力って増えないですよね。私魔力少ないんで、鍛えられても魔物と対峙できるとは思えないんですけど!?」


 一人騒がしいアイラ。こんなときいつもはカルラが注意をするが今回はしないよう。彼女の視線はイリスに向かっている。何か期待するような眼差し。彼女もイリスから詳しい話を聞きたいようだ。


「アリス様は何かを強制したりしないから大丈夫よ。私が強くなったのは……いえ、強くなりたいと願ったのは、自分自身の意思…………」


 過去を思い出す。


 アリスの侍女になった頃、自分は10代半ば。アリスはまだ1桁の年。アリスの実力を目にした後、人外の力を誇る彼女が戦いに出ることを疑問に思うことはなかった。力のある者が弱いものを守る。




 それを当然のことだと思っていた………………はずだった。


 


 

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